三日目朝の会議
昨日はもう少し話した神も、椅子に座ってじっと黙っていた。
昨夜襲撃されたのは帆波、皆が偽ではないかと言っていた占い師自称の、一人だった。
司が、皆が座ったのを見て、ホワイトボードの前に立って口を開いた。
「えー、本日は、帆波さんが襲撃されているのが見つかりました。帆波さんは占い師をカミングアウトしていて、誰の占い指定先にも入っていませんでした。帆波さんの他に犠牲になった人が居ない事から、これは襲撃で呪殺では無かったと思います。では、神さんから、誰を占ってどう出たかお願いします。」
神は、ずっと黙り込んでいたが、そこで口を開いた。
「…私は、良樹を占って白。」
渚が、重い雰囲気にも、帆波を失った事にも打ちのめされている様子で、言った。
「早苗さんを占って白。」
司は、それを事務的にボードの書きながら、頷いた。
「亨さんは?」
亨は、渋い顔をしながら言った。
「里美さんを占って白。」と、身を乗り出した。「役職者も占いたいと思ってたんだ。美奈子さんを今夜は占いたいと思っているんだが。」
司は、それを聞いて亨を振り返った。
「待ってください、グレーが先ですよ。まだ、他の占い師の白を占ってもらわないといけないのに。」
奏は、それに割り込んだ。
「占い先は一番最後で良いと思う。今は、考察を伸ばして行かないと。まず、帆波さんが噛まれた。これは、どうしてだと思う?誰か意見はあるか。」
すると、永二が言った。
「人狼に、真占い師だと分かったから…?」
奏は、顔をしかめた。
「昨日の占い結果だけで?偽者は分かるかもしれないが、真は難しいぞ。というか、もしかしたら、人外からは偽が透けて見えて、それで真を噛みに行ったとも考えられるか。」
渚が、ムッとしたように言った。
「どういう事?昨日の白先って亨さんが永二さんに白、神さんが玲史さんに白、私が噛まれた希さんに白でしょう?噛まれた帆波は、奏さんだったよね。その結果で分かったって事は、私は真だし、神さんと亨さんが出してる白が黒って事?」
司が、難しい顔をした。
「玲史は霊能者だし、それはおかしいだろう。それとも人外か?」
玲史は、言った。
「あのさあ、霊能結果を知らせたいんだけど。」
司は、そうだった、と慌ててボードに向き合った。
「そうだ、結果を…同時に言って欲しい。行くよ?せーのっ!」
「黒!」
「白!」
叫んだ二人は、顔を見合わせる。
皆も、今別の色が聴こえたと、眉を寄せた。
「ちょっと待て、どっちが黒って言った?」
「オレ。」玲史が、手を上げた。「液晶画面に№11は人狼ですって出た。」
美奈子が、首を振った。
「そんなはずはないわ!私は、人狼ではありませんでしたって出たもの!」
霊能者の結果が分かれた。
つまり、二人は別陣営だということだ。
「…希さんが真霊能者だったか。」神が、むっつりと言った。「役職が欠けていたのが分かったな。霊能者だ。二人の内、どちらかが人外だ。昨日吊られた光一はCOしなかったしあり得ないし、とりあえずもう一度聞こう。潜伏している霊能者は居ないな?」
全員が、顔を見合わせるだけで何も言わなかった。神は、皆の反応を待ってから、頷いた。
「では、役欠けは霊能者だった。片方は希さん。もう片方は、二人のうちどちらかという事になる。二人の結果は、玲史が黒、美奈子さんが白。という事で、先へ進めよう。」
どちらかが人外。
司は、そう聞いて霊能ローラーが頭を過ぎった。二人を吊れば、間違いなく人外は一落ちるのだ。
だが、このゲームは普通の人狼ゲームではなく、実際に命が無くなる。仮死状態だとしても、一度は死んだような状態になってしまう。
混じっている真役職を、吊ってしまう勇気は出なかった。
「普通に考えたら霊能ローラーだけど」奏が言う。「昨日吊った光一がもし白だったなら、吊り縄の余裕が無くなるよね。どっちかは真なんだから、村人だ。狐二匹と狼四匹、呪殺が間に合わなかったら村勝ちが無くなってしまう。それにしても狼は、なぜ帆波さんを噛んだんだろう。狼だって、狐は処理したいはずなのに。」
良樹が言った。
「とりあえず真っぽい所を噛んだんじゃないのか?狐だったら死なないだろうしな。占い師は一人残れば呪殺は出来る。それに、帆波さんなら護衛も入ってなさそうだから、そこを噛んでったってことだ。つまり帆波さんは、真か狂人ってことになるけど、結果は間違ってなかったんだろう。」
司は首を傾げた。考えられることだ。確かに一人残れば呪殺出来るのだし、狼はそう考えたのかもしれない。
「でも、噛んだら他の占い師が疑われるわよね?」里美が言う。「それでも噛んで来たってことは、もしかしたら狼は占い師に出てないのかも。吊られても良いわけでしょ?もしかしたら、昨日は相互占いを飲むから狐が居ないって思ってたけど、居るんじゃない?狼も、狐を探してるのよ。」
司は、頷いた。
「ほんとだ。そうかもしれないな。狼が居るなら、初日に噛み先に白を出した渚さんかと思ってたけど、違うのかもしれない。そう考えると、狂人なら狼を囲おうと生きてる人に白を出すだろうし、狐なら占われないように相方に白を打ちそうだから、渚さんは真なのかな。」
渚は、何度も頷いた。
「だから私は真占い師なの!相方はマジで分からないけど、私は私のことを知ってるもの!」
亨は、言った。
「呪殺を出してもいないのに確定出来ない。狂人だって、真目を取りに来て絶対白の希さんに白を打つかも知れないじゃないか。とにかく、オレは呪殺を出したいんだ!占い師なのに疑われ続けるのは嫌なんだ。今日は占い先を自分で決めさせてくれないか。」
司は、顔をしかめて亨を見た。
「気持ちは分かるけどちょっと待って欲しい。まだ何も分析出来ていないじゃないか。」と、ずっと黙っている、神を見た。「神さんは、どう思いますか?」
神は、皆の議論を聞いているのかいないのか、じっと斜め下を見て考え込んでいたが、顔を上げた。
「…人狼の思惑が分からなくてな。考えていたのだが…帆波さんを噛んだ理由だ。」
司は、渋い顔をした。
「適当に護衛が入ってない所を選んで、神さんを含めた他の占い師の真贋をつけにくくさせるためでは?」
神は、首を振った。
「それにしてもだ。狐処理は、二人も居るのだし狼にも最重要課題のはずで、私は噛まれないだろうと思っていた。なのに、帆波さんを噛んだ。…昨日、帆波さんは誰を占うと言っていた?」
司は、ホワイトボードを見上げた。
「昴と、征由ですね。」
昴は狩人だが。
司は内心思っていたが、顔には出さなかった。
神は頷いた。
「もしかしたら、二人のうちどちらかか、もしくは両方が、黒だったんじゃないか?帆波さんの真贋は分からないが、黒が出ればとりあえず吊ろうとなるはずだ。知っての通り、帆波さんはあまり真を取れていなかったので、護衛も入りそうにない。だからこれ幸いと噛んで来たんじゃないか?」
司は、言われて征由を見た。
昴は違う…となれば、司目線征由しかない。
だが、昴は言った。
「オレはオレの白を知っているからあえて言うけど、だったら今夜は神さんがオレを占ったらどう?征由を吊ってさ。どうせ黒が出なかったから、今日もグレー吊りでしょ?だったらそれでいいじゃない。」
征由が、首を振った。
「そっくり返すぞ。オレもオレの白を知ってるんだから、オレを占ってお前を吊りたいと言うよ。大体、そんな如何にもな噛みをすると思うか?こうやって吊り対象にされるのに。それにオレなら、神さんを噛むだろうよ。万が一噛めたらラッキーだもんな。昨日から散々疑われて投票までされてるんだからな。」
確かにそうだ。
だが、神には護衛が入っている可能性が限りなく高かった。
だから噛めなかったとも考えられた。
「…まあ、オレ目線でも黒の可能性はあるしな。」亨が言った。「征由でもいいかも知れない。どうせグレランなら、一番疑わしい所を吊るべきだろう。」
渚が、顔色を変えた。
「待って。」皆が渚を見る。渚は続けた。「私は真占い師よ。私から見てどっちかは絶対偽なの。もしかしたら両方かもしれないわ。その二人が吊っても良いと言う所を、吊ってもいいとは言えないわ。とにかく、今日は三人で占えるんだから、霊能を決め打ちしたらどうなの?二分の一の確率なのよ。そっちの話し合いをした方がいいと思う!」
渚目線ならそうなるだろう。
だが、村目線では、渚が征由か昴を、庇ったように見えた。
グレランか、霊能か。
司は、またこれで対立するのかと、頭を抱えたい気持ちだった。
だが、逃げる場所などどこにもなかった。




