夜から三日目朝
やっとの事で光一を運び終えて、リビングに再び集まった時にはもう、9時に近かった。
10時には、部屋に入らなければならない。
司は、言った。
「じゃあ、最初の指定先は生き残っている人はそのままにして、他に一人ずつ振り分けましょう。占い師の希望を聞きます。神さんは、他に誰を指定しますか?」
神は、他の三人を見た。
「そうだな。では…亨に先に決めてもらおう。私も亨は、少し信頼出来るかもと思って来ているので。」
亨は驚いた顔をしたが、頷いて言った。
「では…オレは亜子さんと、里美さんで。」
狐位置を狙ってる感じの選び方だな。
司は思って、亨の真占い師の可能性が更に上がった気がした。潜伏していそうな場所を選んでいるように見えたのだ。
すると、渚が慌てて言った。
「私は、指定先が吊られちゃったから、二人選ばせて!」
次は神だと思っていた司がびっくりして神を見ると、神は肩をすくめて軽く頷く。
司は、仕方なく頷いた。
「だったら、誰を占う?」
渚は、頷いてホワイトボードのグレーの名前を見た。
「…私は、早苗さん、克己さんで!」
司は、ホワイトボードにその名前を書いた。
「では、次は誰が決めます?」
神は、帆波を視線を合わせてから、言った。
「じゃあ、私は最後で良い。少なからず疑われている二人には、先に選んで呪殺を出して、自分の真を証明する機会を与えるべきだろう。」
帆波は、ホッと感謝する顔をして、言った。
「じゃあ…私は、昴さんと、征由さん。」
神は、頷いた。
「では、私は良樹と弘だな。必ずどちらかを占うと約束しよう。みんなも、他を占ったりしてはいけないぞ。勝手に指定外を占ったりして、呪殺が出ても誰も信じてはくれない。独断で換えないようにな。」
他の三人の占い師達が、真剣な顔で頷く。
司は、全部の指定先をホワイトボードに書き込んで、そうして、皆を振り返った。
「では、解散で。10時までに部屋に入ってください。食べ物、飲み物はちゃんと持って行って。役職者は、役職行動を忘れないでください。それでは、また明日の朝集まりましょう。」
光一が死んだ。
だが、村にはまた普通に夜が来た。
この村は、混乱を呼び起こすような人間は、許さない事が証明された。
きっと明日からは、村を乱すような人は、出ないだろうと思われた。司が村の議論が乱されたとそこへ入れようと思ったのと同じように、考えた村人が多かったという事なのだ。
司は、皆がパラパラと立ち上がってキッチンへと歩いて行くのを見ながら、まだ画面に表示されている投票先を、丁寧に自分のメモ帳に書き記して行った。
もしかしたら、何日か後にこれが役に立つ事があるかもしれない。
自分が死んだ後でも、誰かが引き継いでくれるかもしれない…。
司は、今夜はまだ襲撃しないで欲しいと祈っていた。
次の日の朝、司はハッと目を開いた。
今日は、さすがに夜にきちんと風呂に入り、新しいジャージに着替えて寝た。
パンツもきっちり洗って干してある。昨日干してあったパンツは乾いていたので、取り込んで畳んでおいた。
自分は、きっちりやるべきことはやったという自負があった。
そして、6時前には目覚めて自分が生きている事に安堵し、扉の前で、閂が抜けるのを待つことすらやってのけた。
襲撃先は、どこだったんだろう。通ったんだろうか。
ガツンと、閂が抜ける音がした。
司は、扉をバアンと開くと、外へと飛び出した。
正面の扉からは、神が出て来ているのが見える。
…良かった、神さんが生きてる!
人狼は、護衛が入っていると思って避けたんだろうか。
司は、廊下も向こう側を見た。
皆、同じように廊下へ出て来ていて、左右を見ながら生存を確認しているようだった。
神が、叫んだ。
「番号!1!」
「2!」
そうやって順に叫んで行って、廊下の端の由佳から声が「5」と戻って来て、司は自分の番だと叫んだ。
「6!」
「7!」
「8!」
一番向こうの端の、里美が戸惑うような顔をしている。
「え?え?あれ、10!」
…9が居ない。
神が、そちらへ向けて早足に歩き出す。
司は、その後ろを傍らに立っていた奏や永二、弘達と共に、急いで追って行った。
9号室の前に到着すると、神は外から声を掛けた。
「帆波さん?朝だぞ。」と、ドアノブに手を掛けた。「開けるぞ。」
扉は、普通に開いた。
中は、シンと静まり返っていて、誰も居るようではなかった。
出て行ったのかとも思ったが、鍵が開いてすぐに、誰にも見咎められずに出て行けるような者はいない。
神は、皆を振り返った。
「女性の部屋に私が一人で入って行くのも気が咎める。誰か一緒に来てくれないか。」
隣りの、里美が頷いた。
「はい、私が行きます。」
神は頷いて、里美と二人で部屋の中へと入って行った。
部屋の仕様上、入り口からはベッドが全く見えない。
二人は中へと入って行って、ベッドが見える位置まで来た時に、里美が怯えたように立ち止った。
神が、声を掛けている。
「帆波さん?無事かね?」
返事がない。
神は、怯える美里を視線を合わせてから、そちらへと歩いて行った。
そして、しばらく立ち尽くしている美里だけが見えていたかと思うと、神の声が強めに言った。
「…死んでいる!皆、確認に来るか?」
渚も由佳も、他の男達もしり込みするような顔をしたが、奏が歩き出した。
「行きます。」
司は、慌てて言った。
「オレも。」
そうして、二人で全く動けないで涙ぐんでいる里美を横目に、ベッドの脇に立っている神の方へと歩いて行った。
「昨日と同じですか。」
奏が言う。神は、頷いた。
「一見、眠っているかのようだ。だが、死んでいる。正に死にたての状態だが、恐らく仮死状態だからそう見えるのだろうな。」
司も、近くへ寄って帆波の顔を見たが、帆波は安らかに眠っているような状態で、どこも乱れていないし、本人は死んでいるのに気付いてもいないように思えた。
「…眠っている間に死ぬんですね。」司は、淡々と言った。「恐怖もないし、苦しくもなく。」
神は、シーツを頭まで掛けて帆波を隠しながら、言った。
「だからといって、死のうなどとは考えない事だ。意味のある死であるなら良いが、意味もなく死んで逝くなど村人にとって迷惑でしかないからな。占い師の身代わりに、護衛を外して犠牲になるとかなら、意味があるから良いかもしれないが、何でもない死など。」
神は、吐き捨てるように言うと、さっさと扉を目指す。
司は、慌てて言った。
「違いますよ!そりゃ死にたくありませんけど、何があるか分からないから…覚悟しやすいように、パニックにならないように考えてるだけです!」
廊下へと出て来ると、三階の者達が降りて来ていた。
先に外に出ていた里美の様子から、皆もう何が起こっていたのか分かっているらしかった。
奏が、言った。
「帆波さんが襲撃された。三階では、犠牲者は居なかったか?」
皆顔を見合わせたが、良樹が答えた。
「みんな出て来た。無事だったよ。でも…まさか、偽占い師だと思ってた帆波さんが襲撃されるなんて。」
神は、もう自分の部屋へと歩いて行きながら言った。
「後で話し合おう。朝食を摂って、リビングの椅子に集まろう。昨日と同じ、7時半で。」
そうして、司に確認することもなく、さっさと部屋へと入って行った。
全員が司を見たが、司は、頷いた。
「…じゃ、それで。7時半に。」
皆、ぞろぞろと自分の部屋へと帰って行く。
司も、もしかしたら神に呆れられたかもしれない、と思いながら、ため息をついて自分の部屋へと向かった。
占い自称者の一人が、襲撃されて朝が始まった。




