83話 超人気歌手をなぐさめる
夏休み終盤、僕は友達の女の子達の家を順々に訪れている。
僕は……同時に4人の女の子を好きになってしまった。
声優の由梨恵からは、みんな好きで良いじゃんとアドバイスをもらう。
みちる、こうちゃんと事情を説明。
みちるは、『ちょっと考える時間ちょうだい……』と。
こうちゃんは、『みんな一緒が良い』とそれぞれ回答をもらった。
あとは……超人気歌手、アリッサ・洗馬に話すだけ。
で、やってきたのは超高層ビル。
「アリッサ……大丈夫、だよね?」
僕はスマホを見やる。
SNSでは、とあるウワサが流れていた。
【デジマスの歌手、アリッサ・洗馬活動休止か!?】
デジマスとは、僕のデビュー作、デジタルマスターズのこと。
アリッサは主題歌を歌っている。
数日前から、活動休止のウワサが流れている。
もちろん公式での発表ではない、あくまでも、うわさだ。
「でも……気になるんだよね」
アリッサとはLINEで繋がっている。
前は毎日のように会話していた。
けれど……最近は返事がない。
お手伝いの贄川さんからは、
【お嬢はちょっと疲れてるだけですZE☆ 嫌ってるわけじゃないからご安心してくださいだZE☆】
という返事をもらっていたので、いちおう大丈夫だと思う。
贄川さんはおちゃめだなってLINEしてて思った。
ややあって。
「お久しぶりですぜ、若」
アリッサの部屋へやってきた僕。
出迎えたのは、黒スーツにサングラス姿の、ターミネーターみたいな大男。
この人は贄川さん。
アリッサのお手伝いさんで、昔から彼女の面倒を見ている人だ。
「ひ、ひさしぶりです……あの、若って?」
「お嬢の将来の結婚相手ですので、若で」
「は、はぁ……」
僕は贄川さんに連れられて中に入る。
「あの……SNSのウワサって、本当なんでしょうか?」
「お嬢が活動休止するってぇ話しですかい? 根も葉もないウワサでござい」
良かった……。
引退なんてしたら、嫌だもん。
「ただ……完全なデマってわけじゃあないんでさぁ」
「え、どういうことです?」
「お嬢、ここ数日ずぅっと引きこもってるんでさ」
贄川さん曰く、僕んちに泊まってから今日まで、アリッサはずーっと部屋に引きこもっているらしい。
「運良く今は夏休み期間だったので、仕事で周りに迷惑をかけてないんですが……今日で夏休みが終わって、明日から収録なんですが、未だに引きこもったままんでさ」
「そう……なんですか……」
原因は、僕……だよね。
仕事に迷惑かけてなかったから良かったものの、このままじゃ明日から色んな人に迷惑かけちゃう。
「でもあっしは安心しやした」
「え、どういうこと?」
「若がお嬢を元気にしてくれるって、信じてやすから」
贄川さんが明るい笑顔でそう言う。
この人、見た目は怖いけど、結構気さくな人なのだ。
贄川さんが……大人が、僕を信じてくれている。
それは嬉しいことだった。
……同時に、アリッサが凹んでいると聞いて、なんとかしなきゃって思った。
それは責任感から来るもんじゃない。
アリッサが、好きな子が落ち込んでいるのが、いやだったからだ。
「さ、若。お嬢をたのんます」
アリッサの部屋の前で、贄川さんがまじめな顔で言う。
「うん、任せて」
「それじゃあっしから、若とお嬢にこれを……」
すっ、と贄川さんが僕に何かを手渡してきた。
コンド○ムだった。
「おい」
「避妊は重要かと」
「そうじゃなくって! べ、別にそういうことするつもりできたわけじゃ……」
「ケンカの後はもりあがってそのままベッドインと、王道の流れではないですかい?」
そりゃあんたの好きな同人誌ならね!
僕はぐいっ、と避妊具を押し返す。
「冗談はさておき、若、お嬢をなぐさめてやってください」
僕はうなずいて、アリッサの部屋に入るのだった。
★
……僕はベッドの上で、アリッサに押し倒されていた。
彼女は馬乗りになって、僕の腹の上に乗っている。
「あ、あのぉ~……アリッサ? これは、どういう……」
「勇太さん……ごめんなさい……もう……これしか……方法が……」
しゅる……と彼女が身につけていた上着を脱ぐ。
ぱさり、とシャツを脱いでブラ一枚になった。
「あ、アリッサ、落ち着いて、アリッサ!」
経緯を説明しよう。
部屋に入ったら、アリッサがベッドで寝ていた。
肩を揺すっておこしたら、彼女がいきなり僕に襲いかかってきたのだ。
「勇太さん……わたしの初めて……もらってください……」
うるんだ瞳で僕を見下ろしながら、顔を近づけてくる。
彼女……普通じゃない。
ちゃんと……話さないと。
「アリッサ! 聞いて!」
僕は起き上がって、彼女の細い肩を抱く。
「冷静に……冷静に、なろう。ね?」
「ふぐ……」
「ふぐ?」
「ふ……う、うぅう~…………だぁってぇ~……」
ぐすぐす……とアリッサが涙を流し出した。
え、ええー!? ど、どういうこと!?
「勇太さん……取られちゃう……から……他の女の子……だって……ふぇええ……」
ああ……なるほど。
アリッサは、ずっと気にしてたんだ。
誰が好きなのか、と編集の芽依さんからの問いかけ。
それに対して、即答しなかった僕。
そこから、アリッサは焦っていたんだ。
僕が、他の子になびいてしまうんじゃないかって。
だから、強引にでも、既成事実を作ってしまおうと……したんだろう。
「アリッサ。聞いて。そんなことしなくても……僕は君が好きだから」
「…………………………ぇ?」
アリッサが目をパチクリさせる。
突然のことで驚いてるのだろう。
僕は、彼女にちゃんと、想いを伝える。
「好きだよ」
「……って」
「え?」
「……もういっかい、言って?」
アリッサが弱々しく、不安そうに言う。
まだ、信じてもらえないのかな。
「好きだ」
「……もっと」
「君が好き」
「……うん」
「だから泣かないで」
「……ぅううううう」
またさめざめとアリッサが泣いてしまった!
ど、どうしよう……。
「……ち、ちがう、んです。これ、これは……うれしくて……うれし涙が……とまらなくて……」
ボロボロと涙を流す一方で、彼女の口元はゆるんでいた。
僕はアリッサをギュッと抱きしめる。
彼女はうれしそうに、僕を抱き返してきた。
……ブラ一枚を挟んだ向こうに、彼女の生の乳房がある。
ぼくの体に押しつぶされて、いやらしく形を変えていた。
彼女がぎゅぎゅっ、と僕に体を押しつけてくる。
その柔らかな感触と、甘い匂いにどうにかなっちゃいそうになる……。
け、けど駄目だ。避妊具は……出番ないから、うん。
「あのねアリッサ。返事遅れたのは、悩んでたからなんだ」
僕は最近まで胸に抱いていたことを打ち明ける。
みんな好きであることを。
どうすればいいかわらかなくて、結局、全員が好きという結論に至ったことを。
「……全員、ですか?」
「うん。由梨恵も、こうちゃんも、みちるも……そして、君も。みんな好き」
「……複雑、です」
彼女が拗ねたように言う。
「……勇太さんに好きって言われて、もう死んじゃってもいいやって思うくらい、幸せでした」
「死なないでね、悲しいから」
「……それはもちろん。ですが……でも、でもっ」
アリッサは僕を押し倒す。
僕の体の上にのしかかってきて、情熱的なキスをする。
もぞもぞ……と彼女が太ももを、僕の足の間に入れて動く。
「……勇太さんは、わたしだけの勇太さんでいて欲しい気持ちも……あるんです」
いやいや、と子供のように、アリッサが駄々をこねる。
でも体は大人で、魅力的な女性で、……ドキドキしてしまう。
「……わたしだけを見てほしい。けど……嫌いになって欲しくない」
「アリッサ……」
「……わがままなのは、わかってます。貴方を困らせたくない気持ちもあります。だから……少し……待って」
「うん。待つよ」
結局、僕らはそのまま、ずっと抱き合っていた。
夕方になる頃には、彼女は元気を回復させ、翌日からの仕事に復帰。
SNSのデマもきえたのだった。
「贄川さん、なぜ夕飯はお赤飯なのですか?」
「え、ベッドでしたのでしょう?」
「「してないから!」」