81話 幼馴染への告白
それは夏の終わりのある日のこと。
「みちる……僕、好きなんだ」
僕は彼女の部屋にいた。
冷房の効いた部屋で、彼女の夏の宿題を終わらせていた。
彼女の宿題もなんとか終わり、一息ついた頃。
僕は……幼馴染みの少女に、そう言ったのだ。
「…………え?」
彼女の部屋にて。
みちるは、ぽかんと口を開いている。
ツインテールに、むちっとした太ももと、大きな乳房が特徴的な彼女。
夏、しかも自分の部屋と言うことで、パーカーにミニスカートというラフな格好。
彼女は目を丸くして、僕を見ていた。
「……いま、なんて?」
「だから……好きなんだ。みちるのことが」
彼女の顔が、みるみるうちに赤くなっていく。
「……うそよ」
小さく、本当に小さく、まるで消えてしまいそうなくらいの声量で言う。
「……あり得ないわ」
「え?」
「……だって、だってアタシ……あんたのこと、傷つけたのよ?」
それは今年の初めのこと。
僕は幼馴染みのみちるに思いを告げた。
だが彼女には振られてしまったのだ。
その後色々あって、関係をまたゼロからスタートすることになった。
それから4ヶ月あまりが経過していた。
「……あんたが、アタシのこと……好きなわけ、ないのよ。許されちゃ、だめだもん……だって……だって……」
ぽろぽろとみちるが急に泣き出す。
僕は慌ててティッシュを取って、彼女の目元をぬぐおうとする。
けれどみちるは僕の手を弱々しく払って、首を振る。
「……アタシ、嫌いって、酷い言葉で……言っちゃったんだよ……」
「うん、あのときは、辛かったよ。でも……でもねみちる」
僕は思っていることを、そのまま口にする。
「もう、いいじゃん。過ぎたことだよ」
「勇太……」
「僕はもう、平気だから。もう苦しまなくていいんだよ?」
「でも……でもぉ……」
ぐすぐす、とみちるが鼻を鳴らす。
ずっとこの子は、苦しんでいたんだ。
僕を振ったことを、ずっとずっと……。
申し訳ないことをしてしまった。
彼女の弱さを、誰よりも幼馴染みの僕が知っているのに。
母親が死んで、父親は滅多に家に寄りつかなくて、いつもひとりぼっちの彼女。
いつだってみちるは寂しそうだった。
だから……僕が支えたいって、そう思ったんだ。
「みちる」
「あっ……」
僕は彼女の柔らかい体を抱きしめる。
びくんっ、と大きく体を硬直させる。
でも……僕を拒まなかった。
温かい体、柔らかい感触、甘い匂い……。
ずっといっしょにいたはずなのに、いつの間にか、彼女はこんなにも大人の女性になっていた。
「僕ね、みちるに振られてね、そこから人生が変わったんだ。色んな人と出会って、世界が広がったんだ」
由梨恵やアリッサ、そして
こうちゃん。
彼女たちとの出逢いは、みちるとの失恋がなければあり得なかった。
あの日、アニメの打ち上げの会場に行っていなければ、僕の世界は狭いままだった。
「みちる、君は自分のせいだ自分のせいだって言うけど、もうやめようよ。辛いよ、君がそんな風に辛そうにしてるのを見るの」
「勇太……勇太ぁ~……」
みちるが僕を抱き返してくる。
ぎゅっ、ぎゅっ、と僕を抱きしめる。
「好きだよ、みちる」
「……うん、アタシも」
みちるは顔を離すと、潤んだ目で言う。
「好き……♡ 大好き……♡ 頭おかしくなっちゃったのってくらい、毎日毎日勇太のことばっかり考えてる。それくらい……好きなの……♡」
「うん、僕も好きだ」
ふにゃりと、まるで日向で眠っている猫のように柔らかな笑みを浮かべる。
「……両思いだね」
「そうだね」
「……ね、勇太」
「ん? なぁに?」
みちるは恥ずかしそうに顔を赤くする。
「あの……あのね……。今日も……お父さん、帰ってこないの」
「そうだよね。それで?」
「だから……だからね。うちに……泊まってかない?」
「? うん、いいよ」
「ほっ、ほんとっ?」
「うん」
ぱぁ! とみちるが笑顔になる。
きゅーっと抱きついて、頬ずりしてきた。
「こ、今夜はそ、その……ね、寝かせないわよっ」
「? うん、そうだね」
宿題も終わったことだし、夏休みも残り数日だ、夜更かししても別に良いかもしれないね。
「あ、あ、あのね……その……ちゃ、ちゃんとつけてね」
「?」
なんのことだろう……つける?
「じ、実はね……こ、こんな事があろうかとね……持ってるの。サイズ……合うかわからないけど」
「えっと……みちるさん?」
どうしよう、途中から話がかみ合ってない気がする……。
みちるは何を言っているだろうか。
うーん……。
あ、そうだ。
「みちる、大事な話があるんだ」
「? もう終わったじゃない?」
「いや、もっと大事な話なんだ。聞いて」
「うん♡ いいよっ♡ 勇太の頼みだったら、何でも聞いてあげるっ」
ふにゃふにゃと上機嫌に笑うみちるに、僕が言う。
「実は……僕、好きな人がいるんだ」
「そっか……………………はい?」
きょとん、とした表情でみちるが首をかしげる。
「え? えっと……え? す、好きな人……? あ、アタシ、じゃなくて?」
「え、いやみちるのことは好きだよ」
「そ、そうよね! そっか、あ、アタシのことよね! 好きな人って!」
「うん。だけど……違うんだ。他の子」
「は、はぁあああああああああ!?」
みちるが僕の腕の中で叫び声を上げる。
「ほ、他の子!? だれ!?」
「ゆ、由梨恵……」
「由梨恵ぇえええ!?」
「とアリッサとこうちゃん」
「……!?」
みちるが眼をまん丸にして首をかしげる。
「ゆ、勇太……ちょ、ちょっと整理させて」
「うん」
ふぅー……ふぅー……とみちるは何度も深呼吸する。
邪魔にならないように、僕は手を離そうかとする。
けどみちるは嫌がって、ぎゅっ、と抱きついたまま。
「上松 勇太。あんたは……大桑 みちるが好きなのよね?」
「そうだよ。好きです」
「……声優の駒ヶ根 由梨恵も?」
「好きだよ」
「……歌手のアリッサ・洗馬も?」
「もちろん好き」
「……イラストレーターの、三才山 鵠も?」
「好きです」
目を閉じて、すぅ~……とみちるが深呼吸する。
「うん、わかった」
「そっか」
「うん。あのね勇太……」
「はい」
みちるはにこりと笑って言う。
「ここ日本! ジャパン! あんたの好きな、ハーレムOKな異世界ファンタジーじゃないのよおぉおお!」




