8話 超人気の声優と歌手が僕を取り合ってる
デジマスの祝賀会にて。
開会式で、僕は超人気歌手のアリッサ・洗馬さんから、キス&告白された。
話は、数十分後。
「……先生。お食事取ってきました。どうぞお食べくださいまし」
アリッサさんが微笑みながら、お皿を持って僕に近づいてくる。
「あ、ありがとうございます……」
僕は恥ずかしくって、アリッサさんの顔を直視できなかった。
まさか、あんな大勢の前でキスされるなんて……。
近くで見るとわかるけど、ほんと~に美人だ。
彼女はイギリス人とのハーフらしい。
美しい金髪、抜群のプロポーション。
しかも人気も実力も兼ね備えている、僕からすれば天上人だ。
これでまだ18歳なんだって……!
え、凄すぎない……?
「……先生♡」
すっ、とアリッサさんがフォークを僕に向けてくる。
「……どうぞ」
こ、これは……食べさせてくれようとしてるの!?
超人気若手ヴォーカルが!?
「いやいやいや! 恐れ多いですって!」
「……何を恐縮しているのですか。あなたは空前絶後の超人気作家。ワタシの方が恐れ多いです」
由梨恵のときも思ったけど、凄い人って本当に謙虚だなぁ。
「あの、一人で食べられますので」
「……ワタシでは、おいやですか?」
ああ! 悲しそうな眼で、上目遣いでこちらを見てくる。
か、可愛い……!
「えっと……そんなことないです」
「……では、あーん♡」
僕はごはんを彼女から食べさせてもらう。
その様子を周りから、がっつり見られている。
「……見て、ラブラブじゃん」「……超人気作家と超人気歌手のカップルか」「……お似合いよね~♡」
……なんか、すごい好意的に見られてない!?
「あ、あの……! すみません! ちょっとどいて……居た……カミマツ先生!」
人混みをかき分けてやってきたのは、声優の駒ヶ根 由梨恵だ。
「よかった……会えた。ごめんねカミマツ先生。医務室にいってて、開会式見られなくて!」
由梨恵は僕とアリッサの衝撃のキスシーンを見ていなかったらしい。
よ、よかった……。
「……先生。あちらのお料理が美味しそうです。食べに行きましょう」
アリッサさんは僕の腕をギュッと抱きしめる。
む、胸ぇ!
胸が当たってます! ぐにゅっと!
「え、っと……ちょっと彼女と話していきたいから……一人で行った方がいいんじゃ……」
「……では、ワタシもここにいます」
ぎゅっ、と強くアリッサさんが腕を抱きしめる。
心なしか、さっきよりも強く、そして由梨恵から僕を隠すように抱く。
……な、なんなの?
「先生……あのね、その……あなたに言いたいことが、あるの」
由梨恵は人の眼があるから、勇太って呼んでくれない。
ちょっと寂しい。
けど……いいたいことってなんだろう?
「先生……デジマスを書いてくれて、本当にありがとう!」
超人気JK声優……駒ヶ根 由梨恵から、感謝された。
バッ、と顔を上げる。
「私、いつも先生の作品に勇気をもらってたの。辛いときも、苦しいときも……先生の作ってくれる最高の物語に、いつだって励まされてきたんだ」
由梨恵は微笑むと、僕の手を握る。
「ずっと作者のあなたに、お礼が言いたかったの。本当に……ありがとうございます、先生」
じわ……と目尻が熱くなる。
僕は知らず、涙を流していた。
ああ、うれしいなぁ……
こんな凄い人に、感謝される日が来るなんて……。
作品を書いててよかった……。
「……先生」
ずいっ、とアリッサさんが僕と由梨恵の間に割って入る。
「……もうお話はおわりでしょう。さ、あちらに」
「あ、あの……! 待って! まだ私勇太くんとおしゃべりしたい……」
ぴくっ、とアリッサさんがこめかみを動かす。
「……勇太……くん? ……あなた、ちょっと失礼では?」
「え?」
ぽかん、と由梨恵が口を開く。
「……カミマツ先生は、世界最高の小説家です。それをくんづけなんて……ちょっとリスペクトが足りてないのでは?」
「い、いやアリッサさん……別にいいよ……。別に僕たいしたやつじゃないし……」
「……いいえ、先生。自分を卑下なさらないでくださいまし」
アリッサさんは僕の手を握って、顔を近づける。
甘い匂いと、驚くほど整った顔が近くにあって、心臓がもうドキドキしまくっていた。
「……あなた様はすばらしいお方です。誰よりも凄いお方……歴史に名を残す偉人だと思います」
「い、いや……だから大げさだって」
「……さすがです、先生。自らの凄さをひけらかさない。これが一流の文化人というもの。勉強になります」
ああもう! だから僕はそんなたいそうなヤツじゃないんだってば!
「ご、ごめんね勇た……先生。気をつけ……ます」
由梨恵が申し訳なさそうに肩をしぼめる。
「い、いやいや! いいんだって! 由梨恵は普通に接してよ」
「……由梨恵?」
アリッサさんの顔から表情が消える。
こ、こわい……。
「……随分と、仲がよろしいようですね。あなた、ワタシの彼氏のなんなの?」
あ、あれぇ、いつの間にか僕、彼氏認定されてるっ?
ぼ、僕まだ返事してないのに!
「か、彼氏!? え、勇太くん……付き合ってるの、この人と?」
「……そうです」「ち、ちがうよ!」
ふー……と由梨恵が吐息をつく。
「そ、そっかぁ~……良かったぁ……」
「え? よかったって……?」
「え!? あ、ううん! ふ、深い意味は特にないけども!」
するとアリッサさんは僕の肩を掴んで、真剣な表情で言う。
「……先生。どうかワタシのことも、アリッサと呼び捨てにしてくださいまし」
「い、いや……それはちょっと……」
「……お願いします。先生」
凄いプレッシャーが……。
断りにくい状況にある……由梨恵のことも由梨恵って呼び捨てにしてるし……。
「わ、わかったよ……アリッサ。その……じゃあ僕のことも、先生って呼ばないでくれると嬉しいな」
「……わかりました♡ ユータ様」
余計悪化してる!
そんなふうにしゃべっていたそのときだ。
「あ、あの……! カミマツ先生!」
遠巻きに見ていた女の子が、僕に近づいてきた。
「お、お会いできて光栄です! チョビ役で声を当ててる、村井と言います!」
声優さんのひとりが、僕にあいさつにきた。
それを皮切りに、たくさんの声優さん達が近づいてくる。
「先生の生み出したキャラに声を当てられたこと、とても誇らしく思います!」
「おれも!」
また別の声優さんが、笑顔で僕に頭を下げてくる。
「デジマスで声優やれたことで、新しい仕事がバンバンくるようになりました! 先生にはもう一生頭が上がりません。ほんとありがとうございます!」
がっしりと手を捕まれて、ぶんぶんと振るわれる。
「い、いや仕事が来るようになったのは、あなたの実力では?」
「いいえ! デジマスっていう、ビッグコンテンツに関われたからこそです。つまり先生の手柄です!」
そんな調子で、次から次に、僕は声優さん達から頭を下げられまくる。
「いやあの……僕ほんと大したことしてないんで……」
アニメも映画も、成功したのは、監督と声を当ててくれた声優さんたち、それにスタッフの皆さんが頑張ってくれたからだと思う。
そう伝えると……。
「さすが先生!」「すっげ謙虚すぎる!」「やっぱ先生はすごい人だ!」
おお……! と歓声が上がる。
なんで!? どうして感心されてるの!?
「……本当に素晴らしいお方です、ユータ様は」
「ほんとほんと」
アリッサと由梨恵が笑顔でうなずいている。
「……あなた、本当にそう思ってるの? リスペクトが感じられないわ。ワタシのユータ様に気安く話しかけないで」
「べ、別にあなたたち付き合ってないんでしょ?」
「……ふふ」
「なにその意味深な笑顔! 勇太くん、どういうことー!」
……そんなふうに、僕は祝賀会を楽しんだ。
初めて大きなパーティに参加したけど……すっごい楽しかった。
こんなにたくさんの人たちから、感謝されて、認められていたことが……本当にうれしかった。
そうだよ。
僕を認めてくれるのは、何も幼馴染みだけじゃなかったんだ。
今日、それが知れた。
参加して、本当によかった……!
★
勇太が作家としてパーティに参加している、一方その頃。
幼馴染みの大桑みちるは、ネットに流れてきた【とある写真】を見て呆然とする。
「なによ……これ……」
それは、デジマスの祝賀会に参加した、声優が取った1枚の写真だ。
『デジマスの原作者さんと初めて会いました!』
……顔はスタンプで隠されていたので、判然としない。
だが……みちるは気づく。
「……これ……勇太、じゃない?」