79話 ライバル作家とお買い物
芽依さんがうちに爆弾を落としてから、数日が経ったある日。
僕は同僚の白馬 王子先生といっしょに、秋葉原の書店に来ていた。
「すまないね、私の買い物につきあってもらって」
「いえいえ! 僕も新刊、アキバに見に行きたかったですから」
僕らはアニメとかマンガとかの専門書店にやってきている。
2階のラノベコーナーには数多くの本が山のように積まれていた。
「いよいよ……ですね」
「ああ。我らSR文庫の創刊ラインナップの並ぶ日だ」
父さんが立ち上げた新レーベル、SR文庫。
今日は8月下旬。
本当なら8月末日発売だけど、都内だともう売っているのだ。
「売れるといいですねっ」
「何を言う我がライバルよ。君の本は売れるさ。我が弟子エリオのもね」
エリオちゃんとは白馬先生のお弟子さんで、中学生なのにラノベ作家やってるすごい子だ。
「エリオちゃんもいっしょに来れれば良かったんですけど」
「非常に行きたがっていたのだが、我が弟子は夏休みの宿題を全く手つけてなかったみたいでね。外へ行こうとしたら親に怒られたそうだ」
もうすぐ夏休みも終わる。
夏休み……色々あったなぁ。特に後半。
「我がライバルは夏休みの宿題終わったかい?」
「あ、はい。わりと最初の方で」
「それは良いことだ。さすが我がライバルは、学業と作家業をきちんと両立してるのだね。偉いぞ」
白馬先生がニカッと白い歯を輝かせる。
いつだってこの人はイケメンでかっこいいや。
「さてでは我々の本を拝みに行こうじゃないか」
僕らは新刊コーナーへとたどり着く。
平積みにされた、色とりどりの表紙のラノベの山ができている。
「あっ! 見てください! ほら先生の新刊、メッチャ売れてますよ!」
白馬先生、というかSR文庫のコーナーがそこにはあった。
すでに本の山の中で穴が開いていた。つまり先生の本が既に売れているってことだろう。
先生の新刊は、残り一冊になっていた。
「すごいや先生!」
「ふっ……ありがとう。ところで我がライバルと弟子の新刊はどこだろうか?」
「あれ? 見当たりませんね、そういえば……」
SR文庫のコーナーには白馬先生の本が1冊あるだけ。
いくら目をこらしても、僕とエリオちゃんの新刊は見当たらなかった。
と、ちょうどそのときだった。
ガラガラ、とスタッフのお姉さんがカートを押してやってくる。
カートの上にはエリオちゃんの新刊と、白馬先生の新刊が載っていた。
どうやらなくなったので補充しているらしい……。
「って、あれ? 僕のは?」
僕がSR文庫用に書き下ろしたラブコメ作品が、見当たらない。
「もし、レディ。作業中にお声がけして申し訳ない」
白馬先生がスタッフのお姉さんに声をかける。
「カミマツ先生の最新刊は、どこにあるのかな?」
カミマツとは、僕のペンネームだ。上松 勇太の名字の読み方をちょっと変えただけ。
「先生の新刊? 僕心やデジマスじゃなくて……ああ! ラブコメの!」
1作目デジマス、2作目僕心、そして3作目に当たるのが、ラブコメ。
「もう売り切れましたよ! 瞬殺でした!」
スタッフのお姉さんが笑顔で言う。
「いやぁ、同人誌この間配ってたじゃないですか、SR文庫って。あれでカミマツ先生の最新刊、すっごい好評で! うちもめっちゃ仕入れたんですけど、それでも開店五分も経たずに在庫が全部捌けちゃいましたよ!」
「ぐはぁあああああああああああ!」
白馬先生が血を吐いて倒れる。
「せ、せんせー!」
ぷるぷると震えながらも先生が立ち上がる。
「ふっ……! ふははは! さすが我がライバル! 3作品もヒットを飛ばすなんて! 私もライバルとして鼻が高いぞ!」
どんなときだって敵への賛辞を忘れない、これが白馬先生という人だ。
「我が弟子とライバルが売れているようで嬉しい限りだよ」
「で、でも先生のだって売れてますよ! ほら、さっきの最後の一冊売れましたよ!」
中学生くらいの子が先生の本を手に取ると、嬉しそうに笑って、レジへと持っていく。
空いたスペースに先生とエリオちゃんの本が補充された。
「いこうか、カミマツくん。あまりここに長居していると、お客さんに迷惑になってしまうだろうからね」
★
僕らがやってきたのは、アキバのヨドバシの最上階にあるおしゃれなカフェだ。
「それでカミマツくん。君の本命は誰なんだい?」
「ブッ……!」
アイスコーヒーを吹き出しそうになってむせる。
さっ、と先生が白いハンカチを取り出して、僕の口元を拭う。
「ど、どこでそれを……」
「マイシスター由梨恵からだよ」
そうだった。白馬先生は声優の駒ヶ根 由梨恵のお兄さんなのだった。
「由梨恵は家に帰ってからとても動揺していてね。これは何かあったと事情を聞いたわけさ」
なるほど……話が伝わっていたのか。
「それで? あの場ではどう答えたんだい? 誰を選んだのかな?」
「ゆ、由梨恵から聞いてないんですか?」
「いや、概要だけだね。詳しく聞こうとしたらマイシスターはだんまりしてしまってね。嫌がっているようだったし、余計な詮索はしないでおいたのだよ」
やはり先生、紳士的だなぁ。
「それで、どう答えたんだい?」
「あ、いや……答えたって言うか、みんなだんまりになっちゃって……」
僕も、そして彼女たちもお互い何も言えなくなってタイムアップって感じだった。
「そうだね。みなからすれば自分を選んで欲しい、けどもし自分じゃなかったらどうしよう。そういう心理があって、聞きたくても聞けなかったわけだ。カミマツくんもまた誰か一人を選べば角が立つから言えないと」
全くもってその通り。
「ふむ……なるほど。では私が相談に乗ろうではないか。同性になら話しやすいのではないかい?」
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