73話 お祭り
僕は声優の由梨恵たち4人の女の子たちと、近所のお祭りへとやってきた。
「わぁ……! すっごい人だねー!」
由梨恵が目を輝かせて言う。
時刻はまもなく19時にさしかかろうとしている。
辺りが薄暗くなっており、蒸し暑い空気の中、たくさんの人たちがぞろぞろと歩いている。
「……夏祭りの会場はどこにあるのですか?」
アリッサが僕を見て言う。
ちなみに、誰かが手をつなぐと角がたつからと、三人とも手をつなぐのはやめている。
「駅の向こうにある神社。そこが会場になってるんだ。今日は町内ではここでしか祭りやってないから、人が多いんだ」
身動きできないってほどじゃないけど、人が多くて少々歩きづらい。
『ええいまだかっ。余はかき氷が食べたいんじゃー!』
こうちゃんが僕の左側で、ロシア語で言う。
なぜかこうちゃんはちゃっかり僕の手をつないでいた。
みんな不服そうだったけど、まあほらこうちゃん背が小さいので迷子になりやすいから……といったらみんな許してくれた。
「子どもの頃から思ってたけど、ここほんと人多いわよね」
「へぇ! みちるん昔からここ来てたんだ?」
由梨恵が言うと、みちるがうなずいて答える。
「ま、近所だからね。おばさんに連れてってもらってたわ。勇太といっしょに」
「……自慢ですか?」
アリッサが不機嫌そうに言う。
「は? なんでそうなるわけ?」
「……ユータさんと昔から仲良くしてもらってたのに、どうして振ったりするんです?」
「うぐ……そ、それは……反省してるし、後悔もしてるわよ……」
しゅん、とみちるが肩をすぼめる。
い、いかん……!
「ほら、みんな前があいたよっ。会場へいこうかっ」
「「「はーい」」」
ふぅ……本当にアリッサはみちるのこと敵対視しているようだよなぁ。
みんな仲良くしてくれればいいのに。
『正妻と元妻によるバチバチの昼ドラですよ。ひゃー♡ たいへんだぁ♡ かみにーさまモテモテぇ』
「こうちゃん……今ぜったい楽しんでるでるでしょ?」
「ワタシ、ニホンゴワ、カリマセーン」
「都合の良いときだけ外国人ぶるんだから……もう……」
そんなふうに僕らは歩きながら、お祭り会場へとやってきた。
「人が、ゴミの、ようでーす!」
こうちゃんが目を丸くして会場内を見渡す。
たくさん人が居てびっくりしてるようだ。
足の踏み場のないレベルで混雑していた。
まあちょうど混む時間帯だからってのも影響してるかも知れない。
「みんなー! はぐれないようにねー!」
由梨恵が僕たちに声をかける。
『こうちゃんはかみにーさまがいるので、大丈夫っ』
きゅっ、とこうちゃんが左腕に抱きついてくる。
「……あ、待って……みなさん……」
アリッサが一人取り残されて、人並みに押し返されていく。
「由梨恵、こうちゃんよろしく」
「あいあいさー!」
僕はこうちゃんを由梨恵にあずけて、アリッサの元へ行く。
「アリッサ!」
僕は彼女の真っ白な手を掴む。
「……あっ」
彼女の青い瞳が僕を見据える。
ぽっ……と頬が赤く染まった。
「よかった、迷子にならなくて。ほら、こっちだよ」
「……はい♡」
僕たちは人混みをかき分けながら進んでいく。
「……ユータさん、ありがとう。あなたは、本当に優しいですね♡」
きゅっ、とアリッサが手を握ってくる。
やわらかい、女の子の手をしてて、ドキドキしてしまう。
「……このまま二人きりで、回りませんか? あちらの暗がりで……」
「え、なんだって?」
人が多くて、アリッサの声がかき消えてしまう。
かぁ……とアリッサが顔を赤くすると、ふるふると首を振る。
何でも無いみたいだった。
「ごめん、お待たせー」
僕は由梨恵たちのもとへ帰ってくる。
「あ、おかえりー! よかったぁ、アリッサちゃん迷子にならなくて」
ほぉ、と由梨恵が心から安堵したように吐息をつく。
「あんた土地勘ないんだから、迷子にならないように気をつけなさいよね」
やれやれ、とみちるがため息交じりに首を振る。
素直じゃないけど、みちるはアリッサを心配していたみたいだ。
「って、ちょっと! なにどさくさに紛れて手をつないでんのよあんたー!」
みちるが僕たちが手をつないでるのに気付いたらしい。
「……みなさん、お待たせしてすみません。では、参りましょうか♡」
「ちょっ! 無視すんじゃないわよ! 勇太! 逆側手を……って、チビ助! いつの間に!」
こうちゃんが左手を握って、したり顔で言う。
『ふふ、幻のシックスメンことこうちゃんは、影の薄さを利用してこうして漁夫の利をかっさらうのでした』
「きー! どきなさいよ金髪ぅ!」
「……嫌です。ユータさんはわたしのもの……♡」
アリッサが蕩けた目で僕を見上げながら、ぎゅーっとその大きな胸で僕の腕をはさみこむ。
浴衣の生地が薄いので、だ、ダイレクトに感触が……。
「みんなー! 早くいこうよー! あんまり留まってたら邪魔になっちゃうよー!」
「「チッ……!」」
アリッサとみちるが舌打ちすると、騒動がいったん収まる。
良かった……。
『ハーレム系主人公は大変だなぁ~』
こうちゃんがロシア語で何か言っていたけど、たぶん同情してくれてたんだろうと思う。




