7話 開会式、超人気女性歌手から愛の告白される
僕はアニメ映画デジマスの祝賀会に参加している。
高級ホテルにある、大広間、式典会場にて。
僕はステージの端っこで、待機させられていた。
『それでは、劇場版【デジタルマスターズ 天空無限闘技場編】、祝賀パーティを開催いたします』
パーティの開会式がおこなわれている。
僕はオープニングで、サプライズゲストとして紹介されるらしい。
「うう……緊張するなぁ~……」
ちら、と僕はステージの袖から、会場を見渡す。
今日は映画のキャスト陣が主に来ているらしい。
外部の出版社とか、協賛会社の人は参加してない……らしいけど。
「こ、こんなにたくさんの人が、関わってたんだ、この映画……」
ステージの前に集まる、きらびやかな声優陣、スタッフ達を見ていると……やっぱり緊張する……。
『それでは、監督の【御嶽山 誠】さん、挨拶をお願いします』
司会者に呼ばれて、ステージの向こう袖から、大柄な【女性】が現れる。
『よぅ。監督の【御嶽山】だ。おんたけさんじゃねーぞ。わかってんなぁ?』
監督さん……女性だったんだ。
てっきり、男とばかり……しゃべり方も男っぽいし。
『長い挨拶は性に合わねーから手短に。最高の原作と、最高のスタッフに恵まれて、この映画は大成功した。皆で掴んだ勝利だ。今日は祝勝だ! じゃんじゃん飲もうぜ! かんぱーい!』
御嶽山監督の音頭で、スタッフ達が手に持っていたグラスを掲げる。
……最高の原作、かぁ。
お世辞だったとしても、嬉しいよねやっぱり……。
『で、だ。今日はてめーらに豪華なサプライズゲストを用意してる! みんな……誰だと思う?』
わわっ、僕のことかな?
いよいよ出番か……く、き、緊張する……。
『んじゃ早速来てもらおうかな。おーい、【アリッサ】』
僕の出番……あれ?
どうやら、違うみたいだ……?
「アリッサ……? どっかで聞いたような……」
するとステージの照明が落とされる。
中央に一人の美女が、立っていた。
「……思い、出した。【アリッサ・洗馬】さんだ……! 歌手の!」
それはとても背の高い女性だった。
すらりと長い手足と、豊満なバスト。
きらびやかな金髪と、真っ白な肌。
芸能人と言っても遜色ないレベル。
しかし彼女の本業は歌手……。
僕でも知っている。
彼女は【アリッサ・洗馬】。
超有名な若手の歌手で……僕のアニメのオープニング曲を歌っている人だ!
活動開始からまだ2年くらいで、もう紅白に出場したっていう……すごい女性歌手だ。
「…………」
アリッサさんはステージ中央で、静かに歌い出す。
映画のエンディング曲【心の焔群】だ。
アニメ1期のオープニング【華炎】とはまた違ったテイスト。
激しい1期オープニングとは違って、落ち着いた曲調。
けれど静かに燃え上がる炎のような激しさが含まれている。
……すごい。
アリッサさんの生歌だ。臨場感が違う。
彼女が歌い終わって、頭を下げる。
会場に居る人たちが拍手喝采する。
僕も知らず拍手していた。
『ありがとよぉ、アリッサ。いやぁ良い曲だよなぁ』
『……ありがとうございます、御嶽山監督。ですが、この曲はワタシだけの力でできたものではありません』
『そうだな。アニメ1期の華炎、映画の心の焔群も、どっちも素晴らしい曲だけど、やはり素晴らしい原作があってこその曲だからな……ってことで』
御嶽山監督は一息つく。
『ここで本当のサプライズゲストを呼びたいと思うぜ! なぁ、先生! 出てきてくれ!』
わわっ、僕の番か。
急いで僕はステージ袖から出てくる。
「……誰あの子?」「……若い、高校生?」「……先生……って、まさか!」
ステージ前の人たちが、ざわついている。
わ、わわ……皆の視線が僕に集まる。
てか、照明! まぶしい! 暑い!
『えー、みんな初めて見るよな。アタシも会うのは初めてだ。つーことで、紹介しよう』
監督が僕の背中をバシッ、と叩く。
『この最高の作品……デジマスの産みの親、【カミマツ】先生だ』
一瞬の、静寂があった。
みんなぽかん……と目を丸くし、口を開いている。
だが。
「「うぉおおおおおおおおおおおお!」」
会場を揺らすほどの大音量で、歓声が上がる。
「す、すごい! カミマツ先生だ!」「生カミマツ様だ!」「きゃぁーーーー! カミマツ様ぁああああああああああああ!」
スタッフ陣が驚愕の表情で僕を見ている。
『驚くのも無理はない。本来サプライズゲストはアリッサだけだったからよ。カミマツ先生が参加するって事で、急遽予定にねじ込んだわけだ』
監督がぼくの前までやってきて、頭を深々と下げる。
『改めて、初めまして。監督の御嶽山です。このたびは最高の原作をお借りさせてもらって、ありがとうございました』
先ほどまでの男口調から一転して、監督が丁寧にお辞儀してくる。
次に、アリッサさんがその隣にやってきて、また頭を下げる。
『……初めまして先生。アリッサ・洗馬です。お会いできて……本当に……光栄です……』
ん? どうしたんだろう……?
と思ったら、アリッサさん……な、泣いてる!
『おいおいアリッサ。何泣いてるんだぁ?』
『……すみません。嬉しすぎて……つい……』
『あーわかるわ。アリッサ言ってたもんな。愛しのカミマツ先生に会いたいって』
い、愛しのぉ!
ど、どういうこと……?
『先生聞いてくれよ。こいつな、先生の超ファンなのよ』
こ、この人も!?
由梨恵だけじゃなくて……?
『なにせアニメ化の企画が社内で上がったとき、まず真っ先に、自分から【曲を作った。ぜひこの最高の作品の主題歌に使ってくれ】って頼んできたんだからな』
「そ、そうなんですか……?」
こくり、とアリッサさんがうなずく。
『……先生の素晴らしい物語に、ワタシ感動したんです。こんな美しいお話、うまれて初めて読みました。気づいたら曲を作っていたんです』
『すげえよな。誰かに頼まれて、金をもらって作るんじゃなくて、先生の作品のためだけに曲作るんだから。情熱は本物だよまじで』
そこまで……僕の原作を、愛してくれていたなんて……。
『……先生。本当に、ありがとうございます』
アリッサさんはボロボロ泣きながら、僕に抱きついてきた。
え、えぇー!?
と、突然どうしたのー!?
『……先生に会いたくて会いたくて、でも会えなくって……このままずっと会えないものだと思ってたので……だから、とてもうれしいんです』
「そ、そ、そう……ですか……その、ごめんなさい」
そこまで熱望されてたのに、気づかずにいて。
『……いいんです。こうしてカミマツ先生にお会いできたので。本当に……嬉しい……ああ……先生……』
そこで、予想外のことが起きた。
アリッサさんは僕の頬を手で包み込む。
そして……顔を近づけてくる。
「『え?』」
監督も僕も、そして会場の皆も困惑している中で……。
超人気歌手、アリッサ・洗馬さんに……
ちゅっ……♡
「………………え?」
僕は、キスをされた。
アリッサさんは顔を真っ赤にして、しかし微笑みながら言う。
『先生。……ワタシ、あなたのことが大好きです。付き合って……いただけませんか?』