68話 みんなで宿題
夏休み中旬を過ぎたある日のこと、僕は自宅で宿題をしていた。
「ねーえー、勇太ぁ~。休みましょうよ」
「駄目」
僕の部屋には幼馴染みのみちるがいる。
タンクトップにホットパンツという凄いラフな格好だ。
机の上に広がっているのは問題集、ほぼ手つかずのそれを前に、みちるがぐでーって伸びている。
「そこ間違ってるよ」
「げ……勇太。もうだめ集中力が途切れたわ。ちょっと休憩を」
「だめ。ついさっきも休んだばっかりでしょ。終わらないよ夏休みの宿題」
僕は机の上でノートパソコンを開いている。
一方でみちるは問題集とノートを広げていた。
「勇太の写せば問題解決じゃない。全部終わってるんでしょ?」
僕のは夏休み初日にさっさと終わらせている。
夏休みは心置きなく遊びたいからね。
「写すだけじゃ根本的な問題の解決にはならないよ」
「せっかく……17の夏に、二人きりなんだから……何か特別なことしない?」
「特別な事って?」
「それは……その……ふ、二人きりじゃないとできない事よ」
耳の先まで顔を赤く染めながら、うつむき加減でみちるが言う。
二人じゃなきゃできないことか……。うーんわからない……。
「わからないの……?」
「うん。さっぱり」
「ばか。にぶちん。ふんだっ」
みちるが机に頬を載せてうつ伏せに寝る。
大きすぎる乳房がぐんにょりと潰れる。
め、目のやり場に困るな……。
「じゃあ何なのさ。教えてよ」
「にゃっ……!? そ、それは……」
みちるが目を丸くして、顔を赤くする。
「二人きりじゃ無きゃできないことって?」
「だ……だからぁ……それは、そのぉ~……」
「言えないようなことなの?」
「そ、れは……うう……勇太のいじわる……」
と、そのときだった。
ピンポーン♪
「ほ、ほらお客さんが来たみたいよ! さっさと出てくればっ」
母さんも父さんも出かけていて、妹の詩子は部活にいっている。
僕は玄関へと向かう。
ドアを開けると……。
「やっほー! 勇太くん、久しぶりっ」
「由梨恵っ。元気してた?」
「うん! 元気元気だよっ。今日は暇だから遊びに来ましたっ」
声優の由梨恵は、夏休みになってからさらに忙しそうにしていた。
アイドル声優って大変だなぁ。
「途中で2人にも会ってねー」
「ふたり?」
由梨恵の後ろから、にゅっ……と小柄な女の子が顔を出す。
「こうちゃん」
神絵師ことみさまやこうちゃん。
銀髪で気弱そうなロシア人美少女だ。
「こんち、わ……」
「最近見なかったけどどうしてたの?」
目の下に隈がくっきりと浮かんでいる。
「最近……忙しくて……」
ふら……と倒れそうになるこうちゃん。
「そっか、こうちゃん人気イラストレーターだもんね。毎日仕事お疲れさま」
「ナイスネイチャ……ミホノブルボン……育成が毎日大変で……」
「スマホゲーかよっ!」
ゲームしまくって引きこもっていただけらしい。
まあでも良かった仕事しすぎて体壊して無くって。
そして最後の一人は……。
「「あ……」」
金髪の美女、有名歌手のアリッサだ。
「「…………」」
なんとなく、気まずい雰囲気になってしまう。
田舎に帰ったときのことがフラッシュバックする。
ホタルを見ながら、僕たちは……うう……。
「どうしたのー?」
「あ、いやなんでもないよっ」
「……ええ、なんでも」
にゅっ、とこうちゃんが僕とアリッサの間に入る。
『かみにーさま……ついにやったのかっ?』
くわっ、とこうちゃんが目を見開いて言う。
ロシア語で何かを言うときは、決まってロクデモナイことって最近わかってきた。
「ところで……みんな何しに来たの?」
「暇だったので!」「……仕事がオフになったので」「お姉ちゃん達に……外へ行きなさいと、言われたので」
なるほどみんな暇なんだな。
「ちょっと何やってるの勇太? 遅いわよー」
ラフな格好のみちるが後ろから顔を出す。
「あ! みちるんヤッホー!」
由梨恵が笑顔で手を振る。
「み、みちるん……?」
みちるに近づいて、手を取ってニコニコしながら言う。
「久しぶりっ!」
「う、うん……」
いつの間にかあだ名呼びになってるし……。
知らないうちに仲良くなってたみたいだ。
「……ユータさん、そのかたと、二人きりでナニをしてたのですか?」
アリッサがドスのきいた声で……しかし笑顔で言う。
こ、怖い……。
『それはもちろんナニをでしょー! 17才、親が不在……えっちなかっこうの女の子! 何もないなんてあり得ない! ひゃー! 大人の階段登るぅ!』
こうちゃんがロシア語で変なこと言ってきたので、ぺん……と頭を叩いておいた。
「宿題やってただけだよ。夏休みの宿題」
すると3人ともが気まずそうな顔をする。
「夏休みの……」「宿題……」『はわわわわわ』
……あれ、これもしかして……。
「みんな……宿題終わってないの?」
つつ……と由梨恵が目をそらす。
「ら、来週くらいから、や、やろうかなーって思ってた……よ?」
次にこうちゃんが目をそらしながら言う。
「い、イラストの……仕事、いそがしくって」
ウマ娘の育成が忙しいの間違いじゃ……?
最後にアリッサが目をそらして言う。
「……ユータさん。受験生に夏休みの宿題はないんですよ」
そういえばアリッサは18才、今年受験のはずだ。
「……ちなみに、アリッサってどこ大学志望なの?」
「……………………は、ハーバード大……?」
……こ、これは、まさか。
『悲報! ヒロインズみんなバカだった件!』
こうちゃんがロシア語で何かを叫ぶ。
「みんな、宿題……やろうか」
「「「は、はい……」」」
こうして僕の家で、みんなで宿題をすることになったのだった。
『ハッ……! こうちゃん知ってる、これお泊まりの流れになるやつだ! パジャマぱーちーだ!』




