4話 幼馴染との決別、間違いに気付かない彼女
焼肉の後、僕はツイッターとなろうのあとがきに【やっぱ続けます】と書いた。
すると、引退宣言のときの倍以上のコメントがついた。
「先生モテモテだねー」
僕らは電車に乗って、帰路につく途中だった。
「バイクはどうするんですか?」
「だってお酒飲んじゃったんだもの。明日とりにいくわ」
祝杯だー! と言って芽依さんがガバガバとワインを飲みまくったのだ。
「はー……良かった。ほっとしたよ……続き読めなくなるんじゃないかって……心配しちゃった」
こてん、と芽衣さんが肩に頭を乗っけてくる。
「ね……先生」
「なんすか?」
「付き合わない?」
「へ…………へぁ!?」
な、何を突然!?
「こんなおばさんじゃ……だめ?」
「だめっていうか……いやおばさんじゃないでしょ芽依さん。22じゃん」
「5つも上じゃあなたから見たらおばさんでしょ?」
「そんなことないですよ。美人だし」
にこーっと笑うと、芽依さんが僕の腕を掴んでくる。
む、胸が!
大きな胸がぐにっと当たる……!
「じゃ、良いじゃない♡ ね、付き合いましょう」
「いや……」
「正直先生に女の影があるのは言動からわかってたわ。だから遠慮してたんだけど……けど振られたなら問題ない! ってことで付き合いましょう!」
「いやそれはちょっと……」
「ダメ?」
「あの……どうして僕なんです?」
「そりゃー、金持ちで、超有名作家で……それに、かわいいし♡」
公衆の面前だというのに、芽衣さんは僕の頬にキスをする。
酔ってる! 完全に酔ってるよこの人!
「ねーえー、だめ~?」
「あ! え、駅ついたんで! これで失礼します!」
僕は素早く立ち上がって、芽依さんから距離を取る。
「あたしは本気ですからねー! おやすみー!」
芽依さんが笑顔で手を振る。
顔から火が出るかと思ったよ……ああっはずかし……
「はぁ……」
僕は改札を出て夜の町を一人歩く。
「…………」
幼馴染みに振られた傷口は、もう塞がっていた。
スマホを開く。
たくさんの応援のメッセージが書かれていた。
「そうだよ……たかが幼馴染みに振られたくらいでなんだよ。僕にはみんながついてるんだ……」
僕は決意をアラタにする。
これからも頑張って小説を書くぞ!
★
勇太が決意を固める一方で……。
幼馴染みのみちるは、ベッドの上で安堵の吐息をついていた。
「よかったぁ~……カミマツ様、引退しなくってぇ~……」
みちるもまた、カミマツの大ファンだ。
彼の引退宣言は、身を引きちぎられるような思いだった。
ゆえに、引退が撤回されて彼女も喜んだのだ。
「しっかしどうして引退なんて突然言ったのかしら……なにかショックなことでもあったの……?」
……ふと、脳裏を勇太の言葉がよぎる。
彼は言った。自分がカミマツだと。
そしてみちるは彼の告白を振った。ショックを受けていた。
「……まさかね。まさか、カミマツがゆうたなわけ……ないよね?」
だとしたら、自分は大好きな作家を傷つけてしまったことになる。
引退まで追い込んだのが自分……。
「いや! ない、あり得ない。あんなのが、素晴らしい作品を紡ぐ、カミマツ先生と同じ人物なわけないじゃない!」
……だが残念ながら、カミマツと上松勇太は同一人物。
後に、みちるはその事実を知って……激しく後悔することになる。
今や大ベストセラー作家となったカミマツからの告白を振ってしまったことを。
逃がした魚が、とてつもなく大きかったことに気付き……彼に泣きつくことになる……