33話 みんなでお家で試写会
6月も真ん中を過ぎたある日のこと。
僕の家に、僕心作成の関係者達が集まっていた。
「うほぉおおおお! 勇太ぁあああああ! やばいよぉおおおおお!」
玄関に集まっているのは、3人の美少女たちだ。
そして絶叫しているのは、僕の父さん。
「超人気声優駒ヶ根 由梨恵! 超人気歌手アリッサ・洗馬! そして超人気VTUBERイラストレーターみさやまこう! 今最も旬なクリエイター美少女たちが! ぼくの家に一堂に会してるなんてえええ!」
父さんは僕の前に、泣きながら何度も頭を下げる。
「ありがとう勇太ぁ! 君のおかげだぁ! イベントでだって滅多に会えないような彼女たちに、会えるなんてぇえええ! うぉおお! 感動だぁああ! うぉおお!」
するとスッ……と父さんの背後に、母さんが立つ。
「あなた♡」
「ハッ……! か、母さん……しまったこのパターンは!」
母さんは一瞬にして、ロープで父さんをがんじがらめにする。
「東京湾に沈みたくないなら大人しくしてなさいな♡」
「ン゛ー! ン゛ぅう! ン゛ー!」
びたんびたん! と猿ぐつわされた父さんが、陸に上がった魚のように動いている。
「さぁさぁ♡ みなさん、狭い家ですがこちらへどうぞ」
「ン゛ぅううう!? ン゛ー!」
「え、【ぼくはこのままですか?】って。もちろん♡ この子達が帰るまで、そこで黙ってろ♡」
父さんが絶望の表情を浮かべながら、子どものようにジタバタしている。
ちょうど、そこに妹の詩子が帰ってきた。
「ただいまー、って、あれ? 美少女が3人も! どうしたのお兄ちゃん、酒池肉林でもするの?」
なんだ酒池肉林って。
「ちがうよ。僕心の宣伝用短編アニメが完成したから、みんなで見ようってことになったんだ」
「えー!? もうできたの! 見る! みるみるぅー!」
「さぁみなさん、リビングへ移動ですよー♡」
「「「はーい!」」」「ン゛ぅううん!」
僕らはリビングへとやってきた。
大きなテレビの前に、僕らは座っている。
「はじめまして、こう先生。私、駒ヶ根由梨恵です!」
「……アリッサ・洗馬です」
「………………ぁぅ」
由梨恵とアリッサの間に、こうちゃんが座っている。
いつも以上に肩をすぼめて、顔を赤くしてうつむいている。
「あんな凄い絵を描く人が、こぉんな可愛い娘だと思わなかった~♡ 可愛い~♡」
由梨恵はぎゅっ、とこうちゃんを後ろから抱きしめる。
「お肌すべすべ! やーん超可愛い~♡」
『か、かみにーさまぁ~……たしゅけてぇ~……』
どうやら由梨恵はこうちゃんをいたく気に入ったようだ。
「由梨恵。こうちゃんが嫌がってるから離してあげて」
「あ、ごめんねつい……」
抱擁が解かれると、こうちゃんが僕の元へ飛んできた。
あぐらをかく僕の膝の間に、すっぽりと収まる。
『ふぅ~……♡ かみにーさまの側にいると、とても安心するよぉう~……♡』
「こ、こうちゃんみんなが見てるから……その……ちょっと離れて」
「ワタシ、ニホンゴ、ワカリマセーン」
こんなときだけ外国人キャラを気取られても!?
「わー……勇太くんいいなぁ~……こうちゃん♡ お姉ちゃんのお膝も、あいてますよ~♡」
「あ、間に合ってますので結構です」
「「めっちゃ流ちょう!」」
ややあって。
「じゃ、そろそろ芽依さんから預かってきたDVD、見ようか」
「「「さんせーい!」」」「ン゛ぅー!」
由梨恵達や母さん、詩子(と父さん)が、リビングに集まって、テレビを囲っている。
「ゆーちゃん、アニメって何のアニメ? お母さんよくわからないのですけど」
母さんは小首をかしげながら言う。
「7月に発売される僕の2シリーズ目の小説、【僕の心臓を君に捧げよ】。これの宣伝用に作られた、15分の短編アニメだよ」
僕はDVDをセットする。
「書籍版第1章を元に作られてるんだ。発売前にOurTUBEで流して、続きはウェブ版を読むか、書籍版を買ってね、みたいな宣伝に使うの」
「あらまぁ……宣伝のためだけにアニメを作ってもらえるなんて。すごいわぁ♡ すごいすごい♡」
「おにーちゃんさっすがぁ!」「ン゛ぅー!」
「「お父さんうるさい」」「んぅー……」
僕はDVDのリモコンを手に取る。
「じゃ、始めまーす」
再生ボタンを押す。
テレビ画面に映し出されるのは、美麗な背景と、そして美しく描かれたキャラクター達。
主人公【コータ】は、何の取り柄もない平凡な主人公。
ある日不思議な少女【マイ】と出会い、異世界へと導かれる……そんな筋書きだ。
「…………」
僕の考えたキャラクターたちが、御嶽山監督たちスタッフの手によって美しい映像のなかで元気いっぱいに走っている。
こうちゃんが与えてくれた、コータやマイの肉体。
そこに由梨恵が魂を吹き込む。
そして……最後に、この作品に最高にマッチしたエンディング曲を添えることで……アニメが完成していた。
エンドロールが流れて、画面が暗転する。
しばし僕らは画面を見入っていた。
「えっと……どうだったかな?」
みんなの反応が気になって、僕は画面から目を離す。
由梨恵達は……静かに泣いていた。
画面に釘付けになって……ボロボロと涙を流している。
「あ、あのぉ……もしもし?」
いくら声をかけてもみんな画面から微動だにせず、泣いている。
パンッ……! と僕が手を鳴らして、やっとみんな正気に戻った。
「みんな……その、どうだった?」
するとみんなが……。
「「「最ッ高だった……!」」」
笑顔で、そう答えてくれた。
「お兄ちゃん! ほんっとすっごい! すごかった! もうめちゃめちゃ感動しちゃったよぉ!」
妹の詩子が僕の腰にしがみついて、わんわんと泣く。
「デジマスのアニメ見たとき以上の感動だったよ……!」
「そっか。そりゃあよかった」
続いて母さんがエプロンで、目元の涙を拭いながら言う。
「ゆーちゃん……すごいわ。お母さん……感動しちゃった」
きゅっ、と母さんが僕を優しく抱きしめてくれる。
「こんなに凄いアニメを作ってもらえて、ゆーちゃんは世界一しあわせものね」
「うん、僕もそう思うよ」
僕は振り返って、この作品を素晴らしい者にしてくれたクリエイターの少女達を見やる。
「みんなありがとう……! 本当によかった! 最高のアニメだったよ!」
幼い頃の妄想に過ぎなかった文章が、最高の形で世に出れることになった。
それはこのトップクリエイターたちのおかげだ。
「勇太くん……私のほうこそありがとうだよ。この素晴らしいキャラクターに声をあてられたこと、この先死ぬまで誇りに思うよ!」
主人公【コータ】の声を担当した、声優の由梨恵。
「……ユータさんの作り上げた世界最高の原作があったからこそ、自分の持てる最大限の力を引き出した曲が作れました。あなたに、ただ感謝を」
主題歌を担当した歌手のアリッサ。
『うわぁあああああああん! かみーさまー! うぐ……ぐしゅ……うわぁああああああああん! こっちこそありがとだよぉー! うわぁああああああん!』
絵を描いてくれたこうちゃん。
そして御嶽山監督を初めとしたスタッフのみんな。
本を作るために奔走してくれた芽依さん。
たくさんの人たちが力を合わせて、この素晴らしい作品を作ってくれた。
今はただ、そのことがうれしくて、誇らしかった。
「うぉおおお! 勇太ぁああああ!」
父さんが拘束をぶち破って、僕のことを正面からハグする。
「僕心は歴史に名を残す……メチャクチャ凄い作品になるぞッ! アニメを見て確信したッ!」
父さんが僕の抱擁をとく。
「勇太、あとのことはぼくたち編集者に任せるんだ。君が、そしてゆりたんたちが作ってくれた、最高の作品」
ドンッ……! と父さんが自分の胸を叩く。
「あとは出版社が、責任を持って、たくさんの人の心に送り届けてみせる……!」
「父さん……!」
「お父さん……なんか、久しぶりにお父さんしてる!」
やっぱりやるときはやる人なんだよねこの人……!
「まったくあなたってば、人気声優と歌手とイラストレーターがいるからって、ここぞとばかりにかっこつけちゃって」
はぁ、と母さんがため息をつく。
「なっ!? なぜそれがバレたんだい!?」
「息子のために頑張るおれかっけー……そんな下心が見え見えでしたよ」
「うう……いやでも……ほんといい作品だと思うし、頑張るのはほんとだよ母さん?」
「当然です。愛するゆーちゃんの生み出した、愛する子供なのですから。……売れなかったら、どうなるかわかってます?」
きゅっ、と母さんが首を絞める動作をする。
「ぜ、全力を尽くすよぉ!」
かくして、新作の準備は整った。
さあ、あとは発売日を待つだけだ。




