25話 人気歌手との作業通話、デートのお誘い
僕の二作目【僕の心臓を君に捧げよ】の、宣伝用の短編アニメが作成されることになった。
エンディング曲を、デジマスの主題歌を歌っている超人気歌手の【アリッサ・洗馬】に依頼した。
その翌日、アリッサからオッケーの返事がきた。
で、週末、金曜日の夜のことだ。
僕の携帯に、アリッサから連絡があったのだ。
「こんばんはアリッサ」
『……こんばんは、ユータさん』
僕は自室にいる。
学習机にスマホを置いて、僕らはビデオ通話する。
画面には金髪の美女が写っている。
『……ああ♡ 癒されます。ユータさんの素敵なお顔を見たら、疲れが吹き飛ぶようです♡』
「あ、あはは……ありがとう。でも別に僕顔よくないよ?」
『……ご謙遜を。ユータさんはとてもチャーミングな顔立ちしています♡』
そうだろうか……?
鏡に映っているのは、前髪を伸ばして、背中を丸めている鬼○郎みたいな陰キャ男が写っている。
『……髪の毛を切れば、もっともっと素敵になると思います。なぜ切らないのですか?』
「前髪長い方がカッコいいって……みち……前に言われてさ」
幼馴染みが遠い昔に、長い髪の方がかっこいいよと褒めてくれたのだ。
それがうれしくって、伸ばしてたんだよね。
『……短い方が断然カッコいいですっ』
ふすふす、とやや興奮気味にアリッサが言う。
普段テレビで見るときは、大人顔負けの美女っぷりを見せる彼女。
けどこうして、僕と会話するときは、たまにだけど年相応の可愛らしいリアクションをしてくれる。
「そうだね……うん、切ってみよっかな」
ややあって。
僕らはお互い作業しながら、雑談する。
以前デジマス2期の曲作りを、僕は手伝うといった。
あれから毎日、アリッサから電話が掛かってくるようになった。
お互い作業しながら、色々話すのが最近の日課になっているんだ。
『……ユータさん。少しご相談したいことがあります』
「相談? いいよ。なぁに」
『……実は、僕心の曲について何ですけど、少々難航してまして』
僕心。新作の略称だ。
『……デジマスの時もそうだったのですが、私は曲を作るとき、作品を何度も熟読してから作ります。でも……今回はまだ1巻も出てない状態なので、曲をどう作って良いのかわからなくて』
「なるほど……デジマス1期のときには書籍3巻まで出てたもんね」
僕心はまだまだ始まったばかりシリーズ。
読み込もうにも、そもそも物語が道半ばで、しかも書籍は出てない状態だからね。
「あ、それじゃ原稿送ろうか?」
『……原稿、とは?』
「え、書籍版の僕心の完成原稿だけど」
スマホの向こうのアリッサが、目を丸くする。
『……も、もう原稿、できあがったのですか?』
「え、うん」
『……連載版の投稿、確か先週末だったと記憶しているのですが』
僕は書籍を作ると、だいたい1巻あたり12万文字くらいになる。
短編ですでに5万文字書き上げていたので、7万文字くらいなんてすぐにできる。
『……さすがユータさん。神のごとき創作スピード。クリエイターとしてその速さは凄いと尊敬します』
「ありがと。クラウドの方に載せるから、ダウンロードしてみて」
僕はノートパソコンを操作して、ワードファイルをクラウド上にアップする。
アリッサは困惑した表情で、かちかちとパソコンを動かし……絶句していた。
『……あ、あの。ユータさん。見間違いでしょうか?』
おろおろしながら、アリッサが言う。
『……原稿、3巻までアップされてるように、見えるんですけど』
「え? アリッサ。何言ってるの……?」
『……そ、そうですよね。さすがにまだ1巻も発売してないですし……』
「3巻分までの書籍データ送ったはずだよ?」
ぽかーん……とした表情で、アリッサが固まってしまった。
え、なになに?
どうしたんだろう……?
「パソコン固まっちゃったかな?」
『……だ、大丈夫です。だいぶ……びっくりしまして、固まってました』
びっくり? 何に驚いてたんだろう……?
『……ユータさん。わたし、まだあなたの凄さをまだ理解していなかったようです。たった10日くらいで、3巻分の原稿を書き上げるなんて……お見それいたしました』
そんなに凄いことだろうか……?
『……3巻分も編集から書いてよいとリクエストが来てたんですか?』
「うん。とりあえず5巻までは確約だっていってたから。できることは早めにやっておきたいんだ」
芽依さんに原稿を催促されたわけじゃない。
確約されてるなら、原稿先に挙げて良いかなって僕が思って勝手に書いただけ。
『……本が売れなくなっているこの時代に、そこまで必要とされる……カミマツ先生は、本当に羨ましいです』
「いやいや……僕なんかよりアリッサの方がたくさんの人から必要とされてるよ」
『……わたしなんて、ユータさんと比べたらまだまだです。神作家であるユータさんの作品に、恥じない曲を作るためには、どうすればいいんでしょう』
目線をやや下に落としながらアリッサが言う。
「いや十分すぎるよ」
『……いいえ、足りません。そこで、どうでしょう?』
アリッサが顔を赤くしながら、目線をそらす。
『……こ、今週末、お、おでかけしませんか?』
突然の申し出に、僕は戸惑う。
『……僕心のこと、先の展開とか……もっとお話ししたいですし。気分転換も、したいので……その……だめ、ですか?』
アリッサが恐る恐る、伺うように僕を見てくる。
「ダメなもんか。いこうよ、僕もアリッサとおでかけ楽しみ」
『……ほんとですかっ! やった♡ やった♡ わぁー……………………す、すみません』
やっぱりちょっと子どもっぽいところ有って、可愛いなぁ。
『……では明日、9時にお迎えにあがりますので、【荷物】の準備を』
「了解。じゃおやすみ~」
通話を切って、僕はベッドに仰向けに寝る。
「アリッサは、本当に真面目な職人さんだな。僕の作品のために、深く知ろうとしてくれるなんて……」
それとは別に、明日のお出かけが待ち遠しい自分がいる。
「……ん? 【荷物】? 荷物って……なんだ?」
★
そして、翌日。
「え……?」
僕は、羽田空港にいた。
「は、え? く、空港……?」
するとカートをころころと押しながら、アリッサが僕に近づいてくる。
「……席が取れました。さ、いきましょう♡」
「え? い、いくって……どこに?」
すっ、とアリッサが外を指さす。
滑走路に並ぶ飛行機。
「ま、まさか……アレ乗るの?」
「……ええ♡」
に、荷物って……そういうこと!?
「あの僕、まさか飛行機乗るとは思ってなかったから……ほぼ手ぶらなんだけど」
「……ご安心を。一泊二日くらいなら、身一つくらいで大丈夫ですよ♡」
「いや……って、え、ええええええええええええええええ!?」
い、一泊二日ぁ……!?
泊まりなの!? 超人気歌手と……ふ、二人きりでぇ……!?




