【番外編】
ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴り響いた。
やってきたのは、由梨恵とアリッサが所属する芸能事務所の敏腕マネージャー、贄川次郎太だ。
「お迎えにあがりやした」
リビングに姿を現した彼は、身長2メートル近い巨体に黒のスーツ、そして厳ついサングラスという出で立ちである。どこからどう見てもハリウッド映画から飛び出してきた『ターミネーター』にしか見えないが、実はこれでも二児の心優しいパパだったりする。
「おふたりは……?」
贄川がサングラスの奥の視線を巡らせると、僕の腕の中で完全に限界を迎えている二人の姿があった。
「ご、ごめん……なさい……ふぅ、はぁ……」
僕の純度百パーセントの力強いハグ(と無自覚なフェロモン)を至近距離で浴び続けた由梨恵は、息も絶え絶えになってソファに突っ伏している。アリッサも完全に腰が抜けたようで、顔を真っ赤にしてとろけたような瞳で虚空を見つめていた。
その光景を見るなり、有能マネージャーである贄川はすべてを察したらしい。
「……スケジュール調整、入れやす」
彼はピクリとも表情を変えず、懐からスマートフォンを取り出して恐るべき指捌きで連絡を入れ始めた。
「現場には一時間少し遅れると伝えておきやす。だいじょうぶでさぁ」
「えっ? で、でもそんなの……」
「外の車で待ってやすので、ゆっくりどうぞ」
贄川はターミネーターのような重厚な動作で一礼すると、一切の野暮な詮索をせず、踵を返してリビングを出ていった。嵐のような手際の良さと、タレントのプライベートを完璧にカバーする圧倒的なプロ意識。
「すごい……」
みちるや芽依さんたちが、呆気に取られてポツリと呟いた。
「本当に、すみません……」
僕は完全にオーバーヒートしてしまった二人を抱き支えながら、優秀すぎるマネージャーの大きな背中に向かって、ひたすら平謝りするのだった。
【おしらせ】
※3/1(日)
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