【番外編】
「由梨恵。抜け駆けはずるいわよ」
由梨恵の背後から、呆れたような、けれどどこか楽しげな声が響く。
世界的な歌姫であり、クリエイターとしても名を馳せるアリッサだ。
彼女は長い銀髪をファサリとかき上げ、優雅な動作で近づいてくると、由梨恵をペリペリと僕から引き剥がした。
「あっ、ちょ、アリッサちゃん! まだ勇太君成分の補充が三十パーセントくらいしか!」
「あなたは後回し。……ただいま、勇太さん♡」
アリッサが、少し背伸びをして僕の首に腕を回す。
由梨恵のような体当たりではない。
しっとりと、包み込むような抱擁だ。
彼女からは、高級な香水と、海外の空気のような洗練された香りがした。
「おかえり、アリッサ」
「ん。……会いたかった」
耳元で囁かれる甘い声。
普段は物静かな歌姫が、僕の前でだけ見せるこのデレ顔。
破壊力は由梨恵に勝るとも劣らない。
「はいはい、イチャつくのはご飯の後にしてちょうだい。冷めちゃうわよ」
キッチンから、エプロン姿のみちるが顔を出す。
手には湯気の立つ大皿を持っていた。
「はーい! みちるちゃんのご飯! これを楽しみに生きてきたのよー!」
由梨恵が歓声を上げ、パタパタとダイニングへ走っていく。
僕らもそれに続いた。
テーブルの上には、所狭しと料理が並べられていた。
鶏の唐揚げ、具沢山の豚汁、旬の魚の煮付け、そして艶々に輝く白米。
高級レストランのディナーではない。
けれど、これこそが僕らが一番求めていた、家庭の味だ。
「「「いただきまーす!」」」
全員で手を合わせる。
由梨恵が早速、唐揚げを口に放り込んだ。
「ん~~~~~~~~~~っ! おいひぃ~~~~~~~~!」
由梨恵が頬をリスのように膨らませ、足をバタバタさせて悶絶している。
全身で「美味しい」を表現するその姿は、見ていて気持ちがいい。
「ん。やはり、みちるの料理は世界一ね」
アリッサも上品に箸を進めながら、満足げに目を細めている。
「そう言ってもらえると嬉しいわ。でも、食材が良いのよ。これ、勇太さんが送ってくれた、最高級の地鶏だもの」
みちるが僕を見て微笑む。
「いやいや、それを活かすのは料理人の腕だよ。それにしても」
僕は改めて、テーブルを囲む面々を見渡す。
国民的声優の由梨恵。
世界的シンガーのアリッサ。
箸を動かす手が止まらない超人気絵師のこうちゃんに、ビール片手に寛ぐ超敏腕編集長の芽依さん。
そして、僭越ながらベストセラー作家である僕、勇太。
世間が見たら、卒倒しかねない豪華なメンバーだ。
そんな僕らが、こうしてジャージや部屋着で、唐揚げを奪い合っている。
「勇太君、なにニヤニヤしてるの?」
「いや、なんか幸せだなと思って」
「もうっ、勇太君ったら!」
由梨恵が顔を赤くして、僕の茶碗に唐揚げを乗っけてくる。
「ほら、勇太君もいっぱい食べて! ベストセラー作家先生なんだから、体が資本だよ! あーんしてあげよっか? あーん♡」
「あ、ずるい。なら私は、この煮魚を勇太の口に」
「二人とも、勇太さんが困ってるでしょう。……勇太さん、お茶のお代わり、入れますね」
賑やかな食卓。
外では「すごい人」たちが、ここではただの家族になれる。
温かい湯気と笑い声に包まれながら、僕は噛み締めた。
唐揚げの味と、この日常の尊さを。
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※1/22(木)
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