【番外編】
こうちゃんが、やっと脱稿した。
やっとだ。
『おいおい何話、こうちゃん編に時間かけてるんだよって? しょうがないよね、こうちゃんメインヒロインだから! 神作家はハーレム物じゃあないから、今流行の1対1ラブコメものだからねー!』
リビングにて。
こうちゃんは、執筆地獄という名の全てから解放されて、自由を謳歌していた。
ソファーに仰向けに寝転がり、右手でスマホを、左手でアイパッドを操作している。
どっちもやってることは、エゴサだった。
片腕でエックシ(旧ツブヤイター)、片腕でMimir(検索エンジン)。
両手を駆使しての、ダブル・エゴサーチだ。
どうして器用にこんなことをするのかって?
こうちゃんが、承認欲求の獣だからである。
「あ、勇太」
洗い物を終えたみちるが、僕に近付いてくる。
エプロンで手を拭く仕草が、どこか寂しげだ。
「由梨恵、っていつ帰ってくるの? なんかここ最近ずっと連絡つかないんだけど」
「わからない。収録やらイベントやらで、めっちゃ忙しいんだって」
「そう……大人気……ううん、超人気声優だもんね……しょうがないわ」
みちるが落ち込んでいるのには、理由がある。
近く、みちるの誕生日があるのだ。
久々に、みんなでご飯をしたかったのである。
みちるは、由梨恵と仲が良いからね。
「アリッサのやつも、大変ね。世界ツアーだもんね」
「ねー……」
由梨恵と同じくらい忙しい、アリッサ。
彼女は超人気歌姫になってしまったのだ。
活動範囲は、日本にとどまらない。
世界中を回って、歌を届けている。
由梨恵も、アリッサも、しょうがない。
人気者だから……。
と、その時だった。
ガチャリ。
「「ただいまー!」」
「「えー……」」
二人が、揃って帰ってきたのである!
「えーって、ひどいよ勇太君っ! 頑張って帰ってきたのにー!」
由梨恵が頬を膨らませて駆け寄ってくる。
以前よりも少し短く整えられたショートカットが、軽やかに揺れる。
洗練されたメイクと、シックな私服。
あどけなさの残っていた彼女は、数多の現場を経験し、ハッとするほど大人びた「女性」の顔つきになっていた。
「……勇太さんのために、帰ってきたんですからね。みちるさんのためじゃあないんだからね」
荷物を置いて、アリッサが髪をかき上げる。
亜麻色の長い髪をアップにまとめ、白いうなじが露わになっている。
海外の空気を吸ってきたせいか、その立ち振る舞いは堂々としていて、タイトなニットから主張する胸の膨らみも、以前よりさらに豊かに成長しているように見えた。
でも、そのツンデレな口調だけは、変わっていない。
二人の姿を見た瞬間。
僕の視界が、じわりと滲んだ。
ずっと、静かだった家。
画面の向こうでしか会えなかった、大切な家族。
その二人が今、目の前にいて、笑っている。
鼻の奥がツンとして、胸がいっぱいになった。
やっぱり、みんながいないと駄目だ。
僕は涙をこらえ、精一杯の笑顔を作る。
「お帰り、二人とも」
【おしらせ】
※1/9(金)
新作、投稿しました!
ぜひ応援していただけますとうれしいです!
URLを貼っておきます!
よろしくお願いいたします!
『辺境の【魔法杖職人】が、自分の作る杖は世界最高だと気付くまで ~「魔力ゼロ、愛想もない」と婚約破棄された私が、帝都でひっそり店を開いたら、いつの間にか国中の英雄が並ぶ行列店になっていました~』
https://ncode.syosetu.com/n6670lp/
広告下↓のリンクから飛べます。




