168話 禁止カード
喫茶あるくまにて、芽依さんと新作の打ち合わせをしていた。
そこへ、みちるがやってきてツッコミを入れてきたのだった。
「勇太。この際だからね、ちゃんと言っておくけども」
すちゃっ、と僕の正面に座るみちる。
そして……。
すちゃっ、と僕の膝に乗っかる、こうちゃん。
「あれ、こうちゃん?」
『やあ諸君。有名VTuberの兄、11月23日に最終回を迎えるよ。永遠のアイドルこうちゃんにあえなくなるからさみしい? HAHA! 大丈夫、神作家は続くからね!』
ロシア語でまたよくわからないことを言ってるのが、銀髪美少女こうちゃん。
「引きこもりなのに、珍しいね」
「みちるマッマ出て行ったら、こうちゃんの面倒見る人、いなくなる。ついてきたなり」
すでにマッマ扱いされてるみちる。
まあ面倒見が良いからねぇ。
「で、勇太。ちゃんと言っとくけどね、ここは日本なの」
「だから、わかってるって」
「いーえ! わかってない! 勇太はわかってない! 頭が異世界人!」
初めて言われたそんなこと……。
『まあ頭が神なのはどーい』
「ゆーくんちょっと浮世離れしてるものね」
あ、あれ!?
二人からもなんか、同じこと言われたぞ!?
「え、ぼ、僕って……変なの?」
「変!」
『おう、マッマ、この650億の男に向かって、真っ向から変って言えるのすごすぎる! そこにしびれるあこがれるぅう!』
そ、そうかな……僕……変なのか……。
「あれでも、由梨恵は変じゃあないって」
「あの子もちょっとオカシイから。どっちかって言うと勇太よりだから」
「そ、そっか……」
「そうなのです」
うう……そうか……うう……。
「ごめん……迷惑かけて」
「や、やめてよ勇太。そんな顔しないでよ……」
『みちるマッマも所詮はメス。愛しの彼の泣き顔に弱いとみた』
みちるが立ち上がると、こうちゃんを抱っこして、そしてほっぺたをむにーっとおもちのようにひっぱる。
「ロシア語わからないからって、意思が伝わらない訳じゃあないからねおちびさんよぉ?」
『あーん、みちるマッマぁ。なにするぅ。暴力系ヒロインは令和の時代に流行らないんだぞぉ?』
芽依さんに注意されて、みちるがこうちゃんの手を離す。
すかさずこうちゃんが僕のもとまでやってきて、コアラのように抱きついてくっつく。
『かみにーさま、みちるマッマの言葉に耳を傾けてはいけませぬ。このままぬるい関係でいましょう。別にこうちゃんがヒロインレースに1歩出遅れてるから、このまままともに戻られたら捨てられるの確定してるから、焦ってる訳じゃあないよ?』
うーん……そっか……。
「僕も……聡太君みたいにきちんと一人に決めた方が……」
そのときだった。
「ゆーたくーん! やっほーい!」
「げえ……! 元凶!」
サングラスをかけ、ダッフルコートに身を包んだ少女が、こっちに笑顔でやってくる。
変装していたとしても、カノジョの持つ輝きは隠しキレていない。
駒ヶ根由梨恵。僕のカノジョの一人。
「およ? どうしたの、みんな?」
「実は……」
僕はかいつまんで、みちるから指摘がはいったことを告げる。
「え、ゆーたくんのどこがおかしいの? 好きな人同士が好きなら、それでいいじゃん!」
にぱーっ、と無邪気な笑顔を浮かべる由梨恵。
「いやでもね、由梨恵。世間体が……」
「世間がどう思おうと、私達がお互い好きならそでいいじゃん! 周りなんてどうでもいいじゃん! 本人たちがいいっていうんだから!」
『なんというパワー理論……』
え、そ、そう……そうだよね!
「そう、だよね! 僕らが好き合っていることには変わらないんだし!」
『あ、これ由梨恵カウンセラーによる、洗脳キマったわこれ』
そうだよ……何も迷うことない!
当人同士がそれでいいなら、それでいいんだ!
「勇太! 戻ってきて! あなたが渡ろうとしてるの、ぼろい吊り橋よ!?」
「えー、みちるんは何が不満なの? ゆーたくんのこと好きじゃあないの?」
「うぐ……が……ず、ずるいわよ由梨恵ぇ……! あんたそのカードは卑怯!」
「ほら好きじゃん! じゃあいいじゃん! ゆーたくんもいいんだよ、難しいこと考えなくても~♡」
そうだよねー!
みんな大好き、みんなも僕が好きで、それでいいじゃーん!
『で、芽依氏は一言もしゃべってないんですが、これでおkなんすか?』
「あたしはゆーくんの側にいれればいいしー。ゆーくんの仕事に支障がでなければなおOK」
『OH……爆弾処理をみちるマッマに押しつけて、高みの見物してらっしゃる……これが大人か……』
みちるが意見を述べようとするも、由梨恵が「大丈夫大丈夫! いけるいける!」と言いまくる。
「でも世間体が……」
「世間の目なんて気にしてたら恋愛はできないよ! ゆーたくん好きなんでしょ?」
「だからぁ……! そのカードはだめだっつってんでしょ!?」
『マッマに対して由梨恵はメタ。これ、テストに出るからおぼえとってなみんな』
結局、大激論の末に、みちるは「もう好きにすればぁ……」と半泣きで許してくれた。
やったねー!
「でもでも……アタシはまだ完全に諦めたわけじゃあないから! アタシは……勇太をまともに戻すんだから!」
『がんばれシャミちる。その道は茨の道だぞ……!』
うん、今日もカノジョたちは、いつも通りなかよしなのだった!
『てことで、VTuberの兄、好評発売中。23日には完結しちゃうけど、それまで頑張って更新するんで、みんなよろしくやで』




