16話 幼馴染みは告白するがもう遅い
上松 勇太に付き合って上げても良いと上から目線で告白のメールをした。
話は、その日の放課後。
みちるは学校の屋上に呼び出していた。
「どうしたの?」
ノコノコとやってきた勇太。
彼の表情に動揺はない。
「どうしたの、じゃないわよ。あんた、自分がなんで呼び出されたのかわからないの?」
「……?」
……本気でわかってなさそうだ。
みちるから告白を受けて、断ったというのに……。
幼馴染みに対するリアクションの薄さが、余計に腹立たしかった。
「ちょっとあんた。なんなの、さっきの?」
「え? さっきのって……なに?」
とぼけているのかと思って一瞬頭が怒りで真っ白になる。
「あんた、アタシの告白を断ってきたでしょ!? あれ、どういうことなのよっ!」
だが一方で勇太は「ああそのこと」と頭をかく。
「だから、メールの通りだよ。みちるの思いには応えられないってだけ」
「だから! なんでよ!」
みちるは勇太に近づいて、自分の胸に手を当てて言う。
「このアタシが、付き合ってやるって言ってるのよ? そこは光栄に思うところでしょ! 泣いて喜ぶところでしょ!」
「いや……でもごめん。無理なんだ。君の思いに応えることはできない」
ぺこっ、と勇太は頭を下げる。
「な、なんでよ……この間は告ってきたくせに!」
「いやそっちこそ、この間断ったくせに、なんで今更告ってくるの?」
「そ、それは……じ、事情が変わったのよ!」
事情が変わったのは勇太もみちるも同じだ。
みちるはカミマツ=勇太と知ったことをきっかけに、好きであることを自覚した。
一方で勇太は、みちるから手ひどく振られた後、数多くの人たちに折れた心を癒してもらった。
家族や編集、そして出会った美少女達に。
失恋してぽっかり空いた胸の穴は、もうとうに塞がっていた。
勇太の心にはもう、みちるの入る余地がない。
ただ、それだけだった。
「とにかく! アタシと付き合いなさいよ! 好きなんでしょ!?」
「いや、ごめん。今のぼくは、君をただの幼馴染み以上には見れない」
「は、はぁ……!?」
……てっきりオッケーされるものだと思っていたから、みちるは酷く動揺した。
「それじゃあ」
勇太はその場から離れようとする。
その手を、みちるは掴む。
「ま、待って!」
勇太は立ち止まって首をかしげる。
「手ひどく振ったこと怒ってるの? そうよね、だから断るのよね!?」
「え? いや……別に先週のことはもう良いよ。別に怒ってないし」
「じゃあなんで断るのよぉ……!」
勇太は困惑した。
みちるの心変わりが、あまりに劇的だったからだ。
勇太はここ最近、みちるにあったこと、彼女の行動を知らない。
彼女が実は自分をストーキングして、調査をした結果、カミマツ=勇太の確信を掴んだことを知らない。
それに伴う彼女の心の動きを知らない。
勇太からすれば、みちるが一週間でガラッと違うことを言っていることになる。
不思議でならなかった。
「ねえ!? なんで断るの?」
勇太はハッキリと言った。
「気になる子が、できたからさ」
……その瞬間、みちるは悟った。
気になる子、つまりはこの1週間くらいで接触した人物だろう。
超人気歌手のアリッサ・洗馬。
超人気声優の駒ヶ根 由梨恵。
……どちらも自分より、人気も美貌もある美少女だった。
「……そんな」
みちるはその場にへたり込む。
知名度、見た目において完全に敗北している。
そんな相手から、勇太の心を取り戻すことは……無理だ。
……みちるは、自分の手から魚がするりと抜け落ちる感覚に陥った。
「だ、大丈夫?」
「…………」
勇太が心配して、手を伸ばしてくる。
だがみちるはその手をガシッと掴んで引き寄せる。
「勇太! お願い! 付き合って! 付き合って! 付き合ってよぉ……!」
だが何度懇願しても、勇太の心がみちるになびくことはない。
むしろ、必死すぎて逆に引いていた。
「ごめん、無理だから」
勇太はその手を振り払う。
勇太が……カミマツが……デジマスの作者が……自分から遠ざかっていく。
「お願い! 嫌いにならないで!」
しかし、勇太は立ち止まってこんな風に言う。
「別に嫌いじゃないよ」
「じゃ、じゃあ……! もう一度、あのときの告白をやり直しましょ!?」
彼の正体がカミマツと知った今、彼への好意に気づいた今なら、あのときの返事を即座にイエスと応える。
だが……勇太は首を振って言う。
「君のこと、嫌いでもないけど好きでもない。だから……無理。ごめん。君とは付き合えない」
……好きの反対は嫌いではなく、無関心だという。
勇太の目に、みちるは【同じクラスの幼馴染み】程度にしか写っていない。
みちるは理解した。
その目に親愛も、情熱も、何もかもがないことを……。
「…………」
気づけば、夕方になっていた。
みちるは呆然と屋上で突っ立っていたらしい。
ぺたん……とその場に座り込む。
「あ……あぁ……」
彼女を襲ってきたのは、激しい後悔の念だった。
「あぁああああああああああああ!」
自分はバカ過ぎた。
外見だけで、勇太の告白を拒んでしまったことを。
もっと彼を理解しようと思えば、もっと彼と話していれば……もっと……もっと……。
彼が、実は凄い優良物件だと気づけたはずだったのに。
「あのときに! あのときに戻りたい! 戻して、戻してよぉおお!」
……どれだけ嘆いたところで、もう全てが遅い。
勇太の心にみちるの座る椅子はない。
自分より可愛くて、美人で、有名人な……素晴らしい女性が2人も座っている。
どれだけ過去に戻りたいと願っても無駄なのだ。
なぜなら、ここは現実で、自分が幼馴染みを振ったことは……既に起こった事実だからだ。




