118話 トンネル
★おしらせ
漫画版、ヤングガンガンで連載中です!
長い話を終えて、白馬は息をつく。
「とまあ、私の初恋はこんな感じかな」
白馬は由梨恵のラジオ番組で、初恋についての話題に答えていた。
彼が抱えていた過去を、今、話を終えたのである。
「あ、あの……おに……白馬先生?」
「ん? どうしたんだい、まいし……じゃなかった、由梨恵くん?」
由梨恵は兄の重すぎる過去を知って、何も言えなかった。
彼の抱えている闇はあまりにも深いものだった。
「その……」
言葉を言いよどむ姿に、白馬は微笑む。
「気にしないでくれ。もうすべて終わったことさ」
「先生……」
勇太もまた気を遣っている様子。ふっ、と白馬は雰囲気を崩さないように笑った。
「ふはは! 過去なんてもう過ぎたこと! この白馬王子、未来しか、前しか見つめていないのさ!」
白馬の心にはまだ消えぬ傷として残っている。
それでも、彼は周りを気にして、暗くならないように振る舞ったのだ。
「さすが白馬先生! 僕、尊敬です!」
勇太が心からの言葉を言う。
白馬は微笑み、ライバルに応える。
「ありがとう、我がライバルよ」
こうしてラジオ番組の収録を終えた。
由梨恵は勇太と一緒に帰るらしい。
一方で、白馬は車に乗って帰ろうと駐車場へと向かう。
「おや?」
そこには見慣れぬ黒い車が停車していた。
「一花くんじゃないか」
運転席の窓が開くと、そこには贄川 一花がいた。
白馬は少し、なぜ彼女がここに居るのか考える。だがすぐに、なんとなく察した。
「こんばんは」
「……乗ってって。送ってくから」
「それはありがたい」
白馬は一花の運転する助手席に座る。
車が出発。車内では、しばし無言だった。
「あの……白馬くん」
「ん? なんだい?」
「その……あの……」
一花は、何かを言いたげだった。
白馬は苦笑して、肩をすくめる。
「もう過ぎたことじゃないか」
一花はおそらく、ラジオ番組を聴いていたのだろう。
実名はぼかしていたが、当事者からすれば、話題に自分が出ていたことにすぐに気づいただろう。
ということを、白馬はすぐに察していたのだ。
「あの……アタシ、ね」
「わかってるさ。我が友といい仲になれたのだ。君は気にしなくていい」
一花は、白馬を友達としてしか見ていなかった。
彼女は昔から、彼の友を愛してた。
その気持ちに気づかず、一緒に居ることは、白馬を傷つける行為に他ならない。
それでも白馬は笑っている。
「私はね、嬉しいんだよ。今も、君が幸せであることが。我が友の幸せと君の幸せ、どちらも今は実現している。私はこれ以上を望まないよ」
それは本当だった。
一花は何かを言いたそうだ。でも……白馬の微笑みを見ていると、何も言えなかった。
彼の気遣いに気づいたからこそ、これ以上蒸し返すのをやめたのだ。
やがて白馬の家に到着する。
「ありがとう。送ってもらってすまなかったね。今度埋め合わせするよ」
「いや……気にしないで」
申し訳なさそうな一花に表情を見て、白馬が言う。
「君も気にしないでくれ。お幸せに、一花くん」
そう言って白馬は手を振ってその場を後にする。
振り返ることはない。彼は少しさみしそうに笑って、自分の家へと向かう。
彼の不幸は、彼が、他者の幸せを幸せと感じることのできる男だったこと。
それでも彼は過去にこだわることは無い。
これからも彼は作家として、神に挑み続ける。
つらく苦しい道の果てに、彼を愛する女が……やがて、現れることになるのだが。
それはまた、別の話である。
【★お知らせ】
新作短編、投稿しました!
『最強古竜の養子、常識を学ぶため入学し無双する~え、俺の母さんが伝説のドラゴン? いやいや、ただのトカゲですよ~』
よろしければぜひ!
【URL】
https://ncode.syosetu.com/n6568hs/
(※広告下↓にもリンク貼ってます!)




