110話 王子様の初恋(失恋)
番外編スタートです!
由梨恵の出来事を終えた、ある日。
夏の暑さが収まってきた頃、僕はラジオ番組に出演することになった。
SRクリエイティブ……僕の父さんが編集長として立ち上げた会社。
そこのレーベル……SR文庫をもっと知ってもらおうと、父さんが(思いつきで)始めた番組だ。
ラジオの収録スタジオにて。
「はいどうもー! 駒ヶ根 由梨恵です! さぁ、今日もやってきます!【ネトラジ@SR文庫】!」
ネットラジオがスタートする。由梨恵がパーソナリティを務めている。
「皆様こんばんは! この番組はSR文庫の作家さんを招んで作品の魅力や作家さんの知らないあんなことこんなことを、根掘り葉掘り聞いてくラジオです! いえーい!」
由梨恵の声は聞いてるだけで元気になれる。
僕の前に座って、笑顔で話す彼女をしばし見つめる。
「さぁ! 今週はビッグゲストがなんと【2人】も来ております! まずは! デジマス、僕心の作者こと、カミマツ先生!」
わ、わわ……! 僕の番だ。
「あ、えと……カミマツです」
「きゃー! かっこいい! 生カミマツ先生ですよー!」
由梨恵と僕とが付き合ってることは、オフィシャルになっていない。
だから、それを思わせないように、ちょっとよそよそしさを演じてる。
由梨恵と目が合うと小さくぺこっと頭を下げる。オープンにできないことを謝ってるのかな。そんなの全然いいのに。
「そして! 二人目のゲストはこの方! AMOの作者の……」
「ふーーーはっはっは! どうも全国のファンの諸君! 私が! 白馬 王子! 白馬王子だよ!」
白いスーツを着た、イケメンの作家。
彼は白馬先生。
僕と同じレーベルで本を出している、僕のライバルだ。
「えっと……じゃー、今日のゲストはこのふたりで、やってきます!」
由梨恵はちょっと恥ずかしそう。
何を隠そう、白馬先生は由梨恵の実のお兄さん。
先生のこういう態度があんまり好きじゃない……というか恥ずかしいらしい。
「この番組は、SRクリエイティブがお送りします~!」
由梨恵がオープニングトークを終えて、ジングルが流れる。
僕らの音声が一時止まる。
「もー! お兄ちゃん! そういう態度やめてよねー!」
ぷくーっと頬を膨らませる由梨恵。
一方で先生は長い足を組んで、きざっぽく笑う。
「どうしてだいマイシスター?」
「恥ずかしいの! そのキャラが!」
「ふっ……それは失礼した。しかーし! この私に恥ずかしいところなどどこにもない!」
「そういうのが……え、もうCM開ける? もー! お兄ちゃん、テンション9割減でお願いね!」
「善処しよう」
CMが開けるとすぐに、コーナーが始まる。
「それじゃあ改めまして先生方の簡単なプロフィールを」
由梨恵がつつがなく番組を進行していく。
さすが声優さん、なれている。
作品の紹介とか、大喜利みたいなコーナーのあと。
「では質問コーナー! リスナーの皆様からたっくさん質問が届いてます!」
アシスタントのお兄さんが、台車を押しながらやってくる。
「す、すごい量だね……」
段ボールいっぱい、それが何個も詰まれている。
「おに……白馬先生とカミマツ先生、どちらも超人気作家ですから、質問もそりゃあいっぱい来ますってもんですよ!」
「きょ、恐縮っす……」
「ふっ……全国のファンの諸君! たくさんの質問どうもありがとう! どんどん答えていくつもりだっ!」
先生も、モデルやってるだけあって、すごい堂々と受け答えしている。
やっぱりすごいなぁ。
「えー、じゃあこれ!」
由梨恵が選んだリスナーからの手紙を読んでいく。
簡単なエピソードトークのあと、
「【質問なのですが、初恋のエピソードなど教えて欲しいです】とのこと!」
「初恋……」
僕の場合はみちるとのなれそめなど語れば良いけど……。
あれ?
そういえば……先生はどうなんだろう。
「カミマツ君はちょっと照れちゃってるようだから、私が答えよう!」
「せ、先生……いいんですか」
「もちろん! ……君らの場合は、デリケートだからね」
マイクから口を離して、小声で先生が言う。
みちるとの関係性をかたると、そこから由梨恵のことがばれかねない。
そこまで考えて、自分が語ってくれるらしい。
なんてイケメン。
「白馬先生って、初恋なんてあるんですか?」
由梨恵がストレートに聞いてくる。
「無論だ。誰にだって、初めての恋というものはある。私にだってあるのさ」
「へえ……」
由梨恵も聞くのは初めてのようだ。
「いつ頃なんですか?」
と僕が尋ねる。
「大学時代だね」
「大学……っていうと、公式プロフィールでは京櫻大学ってなってるね」
「京櫻……って、あの!? 羽瀬田と双璧をなす!?」
「ふはは! そのとーり!」
すごい……先生高学歴なんだ!
「私の初恋は、大学1年生の時……つまり、今から10年以上前の出来事になるね」
「へー……って、白馬先生って……もしかして、もうすぐ30!?」
だって大学にストレートに入学して、19でしょ?
そこから10以上前って事だから……。
ええ!? こんなに若々しいのに三十路だなんて!
「普通に20代前半かと思ってました」
「ふはっは! ありがとう我がライバルよ! さすが、神作家ともなれば、人間ができていて、お世辞も一流だね」
何だか知らないけど、感心されてしまった。
「おに……白馬先生の初恋が、大学時代って、それまではなかったの?」
「そうだね。私が本気で好きになった女性は、後にも先にも、彼女しかいないよ。黒髪の美しい女性だった」
「「へー……」」
どんな人だろう?
「ただ……断っておくが、今彼女は違う彼と幸せに過ごしている」
「あれ? じゃあ……フラれたの?」
由梨恵は本当にストレートに聞くな……。
「いや、フラれたというか、私が彼女のことを好きになったときには、そのとき既に、好きな男性がいたのだよ」
「そんな……じゃあ、片思いだったってことですか?」
「そうだね。ずっと片思いだった。でも、いいのだよ。彼女の幸せが、私にとっては何よりうれしいのだから」
白馬先生みたいな、イケメンで、性格もいい、お金も地位も名誉もある、凄い人でも……
片思いで終わっちゃう恋も、あるんだ。
「じゃあそんな先生の、初恋のエピソード、聞かせてもらえるかな?」
「良いとも。少々長くなるが……お付き合い願おう」
白馬先生は、目を閉じて、ありし日を思い返すように言う。
「彼女……仮に、ワンさんとしよう」
「ワンさん……」
犬みたい。犬っぽい見た目だったから?
それとも、名字に犬がついてたから?
「さすがに、彼女の本名を出すわけにはいかないだろう?」
苦笑しながら、先生が語る。
「ワンさんとの出会いは、大学1年生の、入学式の日のことだ。私が彼女に一目惚れしたところから始まる」




