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プロローグ

 子供の頃、親友をナイフで切りつけたことがある。

 僕とそいつの家は共に両親が医者であり、幼いころから父親が診察をしているところや、大変な手術を行い、何人もの人を救ってきたのを間近で見て育った。そのため、僕もそいつも将来は医者になることを志していた。ナイフを振り回したのはそうした医者へのあこがれからだった。

 確か前日に医療ドラマか何かを見て、手術のシーンに感動したからだったと思う。

 電子音だけが鳴り響く手術室で、最小限の会話だけで人の命を救うその場面に子供心に憧れた。そのシーンを真似するように、居間にあった果物ナイフを持って、二人で手術ごっこをしたのだ。抜き身のナイフを使い、見よう見まねで体を切るごっこ遊び。

 その際、謝って僕はそいつの手に傷をつけてしまった。真っ赤な血がドクドクと流れるのを見て、僕は自分が取り返しのつかないことをしてしまったと思った。

 幸いなことに、ケガは見かけほど大きなものではなく、大事には至らなかったし、傷も残らなかった。ただ、僕の心には大きな傷が残った。

人を救いたいと願った手で親友を傷つけたのだ。

 同時にその出来事は大いに僕の父を激昂させた。父は僕を怒鳴りつけた。僕はそうした父の叱責と自身が仕出かしたことの責任を重く感じて、泣き続けた。

 そうして、一通り僕を叱りつけた後のことだ。父は僕の両手を握り、こう教えてくれた。

「いいか、夜。お前のその手は誰かを傷つけるためにあるんじゃない。お前のその手はただ、人を救うためにあるんだ」

 その言葉は今に至るまで僕の心に残り続けている。

 父の言葉を体現しようと思い続けてきた。だからこそ、僕は右腕を失くし、内科医への道が閉ざされた時も医者への道を諦めることはしなかった。

 その思いは今も変わっていない。いつまでも、僕の中にあり続けている。

 故に僕は彼女を救おうとしたんだ。何故なら、その手はただ、人を救うためにあるモノだから……。

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