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その日の帰り道、土手を歩いていると、傾斜に生えた雑草の上に、ぽつんと小さなテントが張ってあるのが目に入った。
そのテントはサーカスのような柄で、色はミントグリーンとピンク。2.3人入れそうな大きさ。
僕の経験上、こんなテントは写真でも見たことがない。海外物?
それに、こんな傾斜にテントを構えるような人も知らない。
第1、今は冬だ。コートを着て、マフラーまでしてるっていうのに、、、冬にテント、何故?
思考を巡らせているうちに、中から人が出てきた。1人は20歳くらいの女性、もう1人は中学生くらいの男の子。
男の子は複雑な表情で、女性にお礼を言っている。
全く状況が掴めないが、なぜか無性に、見てはいけないものを見てしまった感覚に陥った。
男の子が去っていくのを見て、なぜか無性に、僕もこの場から去らなければ行けない気がした。
しかし、彼女の方が1枚上手だったようだ。
「ちょっと〜!君!」
僕は君という名前ではないから、スルーすることにする。
「君だよ!ねぇ!顔が良くて黒髪短髪の!!」
無理だった。案外しつこかった。
「、僕ですか?」
「そうそう!君!ねぇ、テント入っていきな!」
頭大丈夫か?この人。、、人?
「や、あの」
「いいから!ほら!!」
こんな勧誘を受けたのは初めてだ。
そして、幸か不幸か、今日は予定が何も無い。
そしてそして、全く悪い人には見えない。
どちらかといえば騙される方だと思う。
、、って、いやいやいや冷静になれ、どう考えてもおかしいだろこの状況。
普通に何かあったらどうする?犯罪者だったら?習っただろ、知らない人について行かないって。
情報量がキャパオーバーな僕の頭に、ふと、ほんとにふと、ひとつの考えが浮かんだ。
いや、でも、、、待てよ、
「おーーーい!」
僕なら逃げるだろう。昨日までの、いつもの、僕なら。
日常は普通に楽しい。でも普通なんだ、普通の楽しさだ。だって僕が普通なんだから。でも、だったら、
『少しくらい危ない橋を渡っても、結構上手くいっちゃうんじゃ、ないか。そうじゃなかったとして、それはそれで、普通じゃなくなれるんじゃ、ないか。』
そんな心に呼応するように、スタスタと彼女へ向かう足。
「よしよし!やっとその気になったか!」
いわずもがな、僕はこの決断に後悔することになる。




