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「お願い?お願いって、、、誰に?」
和也が体を乗り出して聞く。
「それがさぁ、誰に聞いても若い女の人だったってことしか思い出せないって。あ、あとその人に会った日の夕方から夜の記憶が無いらしいんだけど、、、」
今度は、難しい依頼を受けた探偵のように腕を組む藍。
これは、まずい。
「なにそれ!もしかして、ゆ、幽霊とか、?」
和也がわざとらしく身震いをする。
ほら、まずいぞ。
「その人に会った次の日の朝、テーブルの上にスイートピーが置いてあったとか無かったとか。」
迫る人影。モンスターではない。
「それ!学校の七不思議じゃ、」
あああ。
言いかけて止まる和也、を睨む華那。
「ここ、学食。ね?」
だから言ったのに、いや、言ってないけど。
圧倒的図書館信者という意外な側面をもつ彼女は、公共の場で騒がないというポリシーを持っている。
にしても美人の満面の笑みというのは
「こ、怖い」
よくぞ言ってくれた。が、
「お前が悪い」
「うおっ、いってぇ!なんで!?」
「弱めに叩いたのは、同情と憐れみ2割、和也が石頭だってのが8割。」
おいっ!と叫びかけて慌てて口を抑える、蛇に睨まれた蛙。彼の放置は定石。3人で学食のおばちゃんにごちそうさまを言う。これまたいつものように。
他愛もない会話、おいていかれる和也。
チャイムに急かされて、僕らは単位取得へと早歩きをした。
いつもと同じ、はずだった。




