樺太上陸-1
今日は5月3日、前の世界にいた頃、日本では憲法記念日であっただろう。
この世界には日本国は存在しない。
正確にいうなれば、地形的に同じ物は存在するが。
今日は数日前に出発したファンカルロス1世級3隻、ジェラルド・R・フォード級1隻、アーレイバーク級9隻が樺太に到達する。
この艦隊は数日前に安芸港を出港して、太平洋側を列島に沿って航行した後、津軽海峡を通過して樺太の沿岸向かっている。
数日前からRQ-4グローバルホークとSkysat衛星が樺太を重点的に偵察し、上陸地点は既に定まっている。
午前10:00、ファンカルロス1世級3隻からLCU9艇が発進した。
いずれも一両の10式戦車と数十人の隊員を乗せている。
この部隊の上陸は一時間後だ。
一方、この三隻の甲板ではMV-22が離艦の準備を進めている。
横に回転させて収容していた主翼を展開し、折りたたんでいたプロペラを展開していく。
胴体の直径に比して異様に大きい2基のプロペラが上部を向き、回転を始めるとそこに重武装の隊員達が乗り込んで行く。
今回の作戦の目的は北の拠点を確保するというものである。
現在も上空にはグローバルホークが上がっており、僕がいる安芸基地の指令室には上陸地点とその周辺の様子がリアルタイムで送られてくる。
そこに見えるのは幾つもの怪物であった。
特に何か気が付いたという様子もなくただ彷徨っているだけであるので現状特別警戒をしているというわけではない。
作戦開始から1時間が経過した。
上陸地点にいた全長が推定20m以上あるような巨大な熊もどきが上陸艇が発する音に気が付いたのか3匹程近づいてきているのが分かった。
その様子は同時に映像を送信している空母にも送信されている為、空母へ攻撃命令を発してから攻撃が開始されるまで非常に迅速だった。
そして空中からの支援を受けている、この上陸部隊は10式戦車9両を降ろした後、順調に進軍を開始していった。
上空支援を受けている為、作戦は順調に進み、日が暮れる頃には海岸地帯を確保した。
周辺で戦車と魔物の衝突が度々起こったが、どれも戦車砲が有効なようで、すぐに撃破することが出来ていた。
そう、このころまでは。
夜になった。
安芸基地にいる僕も上陸がひと段落していることで本部内にある仮眠室で休息を取っていた。
同じ頃、戦車部隊の一部が帰還し、確保した海岸地帯で英気を養っていた。
「こちらB-3戦車...
至急応援願う!至急応援願う!」
「B-3戦車、どうした!」
「怪物が大量に沼の中から...こっちに向かってきます!」
「すぐに撤退しろ!」
「了…」
「B-3?」
「B-3応答しろ!」
「…」
「B-3応答しろ!」
彼は指揮官として必死だっただろう。
彼の無線機に向かって叫ぶ声は悲痛だった。
「...CVL-2に連絡しろ。
緊急事態だと。」
「了解」
彼の横にいた隊員はすぐに無線機を繋いでCVL-2に連絡をする。
しかし応答がない。
彼は嫌な予感がした。
隊員にすぐさま、司令部に連絡を試みるよう指示を出すが、結局同じだった。
彼はすぐに基地の隊員を緊急の戦闘態勢に就かせた。
全員が装備を持ち、今日揚陸させていた戦車は全て稼働状態に入った。
同じ頃、安芸基地もハチの巣をつついたような騒ぎになっていた。
理由は勿論上陸部隊からの連絡がつかなくなったからだ。
僕もその混乱で起こされた。
部屋に来た優子が話した内容で危機的状況になるのではないかと直感で感じた。
「状況は?」
「現在上陸部隊との連絡が着かなくなっております。
直前に何の音沙汰もなかった為、状況は不明です。
それと高度を下げて偵察を行っていたグローバルホークが通信途絶の直前に奇妙な物体を捉えています。」
「見せてくれ。」
そして中央の指揮官席のモニターに映し出されたのは端っこに映る沼から何やら奇妙な物体が出てきていることだった。
「空母から戦闘機は上がっているか。」
「ええ、上がっています。」
「おそらく結果はそれからだろう。
引き続き連絡を試みてくれ。」
「了解。」
僕は何かただならぬことが起きていると思い身震いした。
戦闘配置に就かせてから少し経った今でもどことも連絡が繋がらない。
そればかりか同じ陣地内にいる隊員とさえ通信が出来ない為に、我々の通信手段はストロボライトと信号弾を用いるものしか無くなっていた。
周辺を観察すると遠くから発砲音が聞こえ、場所によっては火の手が上がっている。
私は各部隊に火器使用自由を発している。
これで何かあったら責任は取ると決めている。
部下の命は何者にも代えがたいからだ。
その発砲音が段々と大きくなってきた。
そして泥だらけの戦車が見えた頃には何が起こっていたのか嫌でも理解した。
戦車隊は全速力で戦車を動かしながら何十匹もいる怪物と戦っていたのである。
目測でちょっと見ただけだから分からないが最低でも5mあるだろう。
この怪物はかなりやばいと本能が察した。
「おい、なんだあれ..は...」
「やばいことは確かです。」
「信号弾を上げろ... 信号弾を上げろ!」
「はッはい!」
横にいた隊員に思わず怒鳴ってしまった。
その後、夜中のゲリラ戦のような戦闘が始まるのである。




