基地移転
今日は3月8日、降灰が激しさを増している。
航空機は全て使えなくなり、隊員達は厳しい生活を送ろうとしている。
僕は航空機運用能力を失い、インフラにも支障をきたしている四国から本部要員を連れて与那国基地に移すこととなった。
今回の出来事は一極集中が裏目にでた人災という側面も持っている。
この一地域にあまりに集中しすぎていたのだ。
僕はインディペンデンス級に乗艦して与那国基地に向かう。
与那国基地では出来るだけ多くの人員を収容できるように準備を進めているらしいが、島自体の大きさからそこまで拡張は出来ない。
移転したとしても22万人は四国に残ることになる。
現在は与那国基地が基地要員を使って各地に展開中の部隊の指揮をしている。
そして与那国到着は明日の夜になるそうだ。
安芸基地からは逐一様々な報告がなされている。
インフラに目立った障害は発生していないが、火山灰による基地設備の小規模な損傷などが確認されている。
又、健康被害も報告されており、予断を許さない状況となっている。
3月9日夜、インディペンデンス級は無事に与那国に到着した。
火山灰は降っておらず、青空が広がっている。
しかし、フライトデッキや上部構造物には火山灰が残っており、災害にあっていたということを実感する。
与那国の港に着くと現地で指揮を執っている隊員が敬礼で迎えてくれた。
「長旅お疲れ様です。
お待ちしておりました。」
「ありがとう。
基地の方は大丈夫ですか。」
「ええ、問題ありません。」
軽く隊員と会話を交わすと僕は基地の本庁舎に向かった。
格納庫の横にある5階建ての建物に入った後、僕は大きな会議室に向かう。
僕は臨時の指令室に必要な大量のパソコン、ディスプレイの召喚を行い、隊員達に準備させる。
又、航空部隊の不足を補うためにP-8を6機、JAS-39を12機、AWACS4機と空中給油機6機を召喚した。
これらの機体は安芸基地から輸送される航空機部隊の隊員達に引き継ぐため、一週間程度は放置することになる。
同時に諜報機関も移転してきている為、彼らにも必要な機材を召喚した。
通信設備は与那国基地の物をそのまま流用している。
そういう準備を夜中にして、僕は眠りに就いた。
次の日の午前9時、僕は目を覚ました。
寝た場所は本庁舎の仮眠室だ。
僕は早速会議室を改装した仮設の指令室に向かう。
ホワイトウルフと諜報機関の長はこっちに来ているが、アキル公共事業団の長は向こうに残っている。
僕は向こうと通信を繋ぐ。
「おはようございます。」
「おはようございます。
佐藤殿。」
「こっちまでの移動中にもいくつか報告を貰っているけど、今の状況を教えてくれない。」
「現在、継続的に火山灰が降り続いています。
現在の所艦艇に故障は発生しておりませんが、ショートする危険を避ける為必要最低限の物以外は電源を止めています。
それと瀬戸内海を超えて進攻しようとする動きがありましたが、警戒中のミサイル艇が全て撃破しました。」
「了解。
敵の動きについては初耳だった。
状況を詳しく教えてくれ。」
「3月10日の日の出直前に出航しようとする帆船を捉えました。
侵攻の準備を行っていたのは噴火前から察知していましたが、あえて手を出さないようにしていたのです。
帆船を捉えたミサイル艇2艇が撃破した後、別の地点でも同様の動きを察知、その他の船も全て撃破しました。
こちらの損害は0です。」
「了解。
敵が再び動いたら対処してくれ。」
「了解しました。」
僕は通信を切った。
敵は火山の噴火を好機と見たのだろうか。
火山灰が降り積もると農作物が不作となるだろうからかなりの範囲が影響を受けるだろう。
それに伴って侵攻が止まってくれると助かると思った。
与那国では快晴であり、蒸し暑いが僕はそんなことを一切気にすることなく会議室に向かう。
ホワイトウルフのジュリアと話し合いをするのだ。
「お疲れ様。」
「そっちもお疲れのようね。
早速で悪いけど話を始めてもいいかしら。」
「ええ、どうぞ。」
「ありがとう。
今回話すのは、海上戦力についてです。
今回の火山噴火の一件で基地の機能を喪失した時にそれを補完できるバックアップが無いことが分かってね。
それでその整備をしたいと考えているの。」
「分かった。
僕はその知識が無いがそう言うということはプランを用意してきたということかな。」
「ええ、今回必要と考えたのは空母打撃群を編成することよ。」
「どういうこと?」
「現在は与那国基地があったから良かったものの、無かったら航空戦力を完全に喪失していた。」
「そうだね。」
「だから空母を中心とする部隊を組織することによって万が一の時にも海上に戦力を置きたいのよ。」
「なるほど、それで人員と何が必要なんだ?」
「人員は8000人、空母としてジェラルド・R・フォード級を一隻、護衛用のタイコンデロガ級巡洋艦が二隻。アーレイバーグ級駆逐艦が四隻必要よ。
それ以外にも補給艦が数隻必要だけれど、一番の優先は今言ったものよ。」
「分かった、少し待ってくれ。」
僕はジェラルド・R・フォード級を調べる。
過去に一度も提案に上がって来なかったからだ。
調べてみると召喚のt数は10万tを超えている。
勿論召喚出来るが、むやみやたらに出来るわけではない。
それでもこれには価値があると感じ、僕は即決することにした。
「賛成だ。
全ての艦艇の召喚を認める。
ただ、しばらくは寄港地が無いというのが難点だが良いか。
それと人員はこの前決めた割り振りの中から出すが。」
「構わない。」
「了解。それでは人員と一緒に夕方召喚する。」
そしてその話し合いをすると僕は昼食を食べに食堂に向かった。
僕は一応偉い立場にいるから食事は部屋まで運んでくれるらしいけど他の隊員たちが食べているところで食べたいと思っている。
なんせ彼らの様子が知れるから。
食堂では昼食時ということもあって隊員達が列を作っている。
多くの隊員がタンクトップ一枚で立っており、太くて鍛えられた腕には汗が浮かんでいる。
屋外の熱さを物語っていると言えよう。
僕は食事をバイキング形式で取り、相席ではあるがテーブルに座って食事を摂る。
向かいに座っているのはホワイトウルフの紋章を付けた男性隊員だった。
彼は料理の礼儀正しくではあるがバキューマーが吸い取るような猛烈な勢いで食事を平らげていた。
彼の食いっぷりに驚嘆した。
安芸基地にはああいう隊員はいなかったものだから基地が違えば人が違うと実感した。




