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回想 ハワイへの道

 私は0000094440だ。

これはIDカードの番号だから当然仲間たちは大真面目に数字で私を呼ぶことはない。

アリシアと呼ばれている。


このType26 DDG-1と呼ばれるこの艦は現在15ノットで下田沖を移動中だ。

横にはファン・カルロス一世級LHD-1が航行している。

周辺を安芸基地から飛び立ったP-8Aポセイドンが哨戒をしてくれている。

非常に心強い。

とは言ってもやはり油断は禁物。

私は十分に注意を払わなければ。


航海を始めて7日目、ここまで来ると完全にポセイドンによる哨戒もなくなった。

言い換えればここから頼れるのは自分たちだけという状態になった。

これから更に6日かかる。

私は朝、訓示でこのことを伝えた。

彼らの表情が一気に強張ったのを覚えている。


9日目の夜、哨戒ヘリが巨大な物体がこちらに向かって来ているのを確認した。

私はすぐに戦闘配備に就かせた。

哨戒ヘリには短魚雷の投下命令を出した。

それがヘリが投下したのは目標に命中したかに思われた。

しかし、それは沢山の触手を持った生物に搦め取られて、映像ではその魚雷がヘリ目掛けて飛んできた。

それはヘリに当たることなく、海面に叩きつけられて爆散したが、私は冷や汗をかいた。

ヘリの乗員はそれ以上だろうけど。

だがそれは同時に幸運でもあった。

応援で駆けつけていたヘリにはハープーンミサイルが搭載されていたのだ。

それで浮上していた怪物に直接被害を与えることが出来た。

その時に発せられた強烈な叫びは今でも鮮明に残っている。

その後、ヘリからハープーンを、DDG-1からエグゾゼを数発発射して怪物を瀕死に追いやった後、魚雷の連続投下で怪物を沈黙させた。

異世界の怪物はここまでしぶといとは、私は正直恐ろしかった。

今回は一匹だったが、これが群れで襲い掛ってきたらと思うとぞっとする。


どす黒い体液をべったりと付着させてしまってから2日後、つまり航海開始から11日後、私たちはハワイ近海迄達した。

ファイアースカウト無人ヘリによる島の偵察を行っていた時、LHD-1の見張り員が何かが泳いでくるのを確認した。

それが人魚とのファーストコンタクトだった。

人魚達は銛のような物を持ち、本艦と僚艦に対して攻撃を始めた。

こちらには魔法は一切効かないし、銛でつつかれても塗装に傷が入る位しか被害が無いので攻撃を排除することはせず、ただスピーカーで話し合いをしに来たことを伝え続けた。


しばらくして、彼らは攻撃に飽きたのか、それとも攻撃が一切通用しないことが分かったのか攻撃を止めた。

それでやっと話し合いに持っていくことが出来た。

それで人魚達と本艦の真横で話すことにした。


「初めまして、傭兵団ホワイトウルフ所属、本艦艦長のアリシアです。」

「どうも、私は人魚族戦闘員、ファーリアです。

いきなりこんな恐ろしい怪物を持ってきて交渉とはずいぶんと常識がない。」

「まず、これは生き物ではありませんし怪物でもありません。

船です。

それにいきなり決めつけて攻撃をしてくる方こそ常識を疑いますがね。」


雰囲気は最悪だった。


「それはそれとして、私たちはあなた方と友好関係を結びたいから来たんだけどここの長に会わせてくれないかしら。」

「それはそれでは無いです。

それにこの怪物についているこの黒いねばねばしたのは一体何なのよ。」

「それは2日程前に触手が沢山付いたとても大きな怪物に襲われた時に付着したのよ。」

「まさか、決して誰も敵わないあの厄災を!!」

「私はそのことを知りませんが、もしかしたらそうなのかも。」


彼女は狼狽していた。

さっきまでの強きのあの雰囲気はどこへやら。


彼女がそうしていると


「これはあの厄災ので間違いない。

よくあなた方はここに辿り着けましたね。」


一人の男が海面から姿を現してそう言った。


「ええ、まあ。」

「今までこの怪物に遭遇して帰ってきた者はいません。

奇跡です!!

同時に犠牲になった方々へ哀悼の意を表します。」

「ええ、まぁ・・・、私達の苦労をねぎらってくれてありがとうございます。

ただ、犠牲者はいませんので哀悼の意は結構です。」


そう言った瞬間、人魚達の顔つきが変わった。


「ええっと・・・・、それはこの船には犠牲者が出なかったということですか?」

「勿論、この船の乗組員に犠牲者は出ませんでしたし、遭遇した他の艦にも犠牲者はいませんよ。」

「あり得ない・・、ところでどうやって倒したんですか?」

「私達の武器を10個位ぶつけたら死にました。

それだけです。」


しばし沈黙の時間が流れる。


「絶対嘘をついてるに決まっている!

そんなのあり得るはずがない!

本当に事実ならその武器を見せろ!」


始めて接触した戦闘員が声を荒げた。


「良いですけどそれにはこの船に上がってこないと。」


私は笑みを浮かべて答えた。


「絶対に嘘をついている!

それなら武器を使う所を見せろ!」

「何を狙うんですか?」

「なんでもあるだろう!

そんなことも分からないのか。」

「そう言われても・・・そうですね、それだったら村でも狙いますか?」

「ふん、出来るならやってみろ!

このインチキ野郎。」


流石に奴は戦闘員だ。

長に許可を取らないとなんとも言えないだろう。


「すいません、ここの長。

本当にやってもいいんですか?

お宅の戦闘員がそう言ってますが・・・。」

「やめてください!

やるなら森をやって下さい。」

「どうせそんなことも出来ないだから村で良いですよ。

このインチキ野郎のことを信用するんですか!」


今度は内輪もめが始まった。

構図としてはわがままを起こした馬鹿な妹と落ち着かせようとする兄みたいな感じだな。

こういう時は大概兄が折れるのがお約束だけど。


さんざん喧嘩をやって本当に男の方が折れた。

なってほしくないことを予測すると碌なことが無い。


「本当に撃ちますよ。

村に仲間がいるなら絶対に撃ちません。」

「村の仲間はみんな海に逃げている。問題ない。はぁ」

「それでは撃ちますよ。どうなっても文句は言わないでくださいよ。」


「CIC、トマホーク発射。」


私は無線機で命令を出した。


「おまえ、な・」

『ボー――!』


Mk.41VLSから発射されたトマホークが亜音速で目標に向かって行く。

目標到達まで30秒だ。


その轟音と目で追うことが難しいその速度に人魚達全員が口を開けていた。

そうしている間に着弾した。

島からは炎と煙が上がった。


沈黙がしばらく流れる。


あの戦闘員(馬鹿)も含めた人魚族が起こり始めた。


「なんてことをしたんだ!」

「この悪魔め!」

「私達の住処を壊しやがって、何のつもりだ!」


などと罵声と共に銛が飛んでくる。

ここから本当の交渉が始まった。


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