我らは海賊
今日は9月22日、僕、佐藤健はオフということもあって物を召喚するという一番の仕事はない為にやることが無い。
与那国島のあの綺麗な海に海水浴をしに行こうと思っても、今与那国島には台風が直撃しており、1日に一度の定期連絡便は運休している。
基地開設から一か月がもう少しで経とうとしていて、良い場所でもあるのだが残念だ。
だから僕はいつものように地下の作戦室で今日行われる略奪作戦を見ることにした。
「佐藤司令、お疲れ様です。」
「お疲れ様。
今日は海賊ごっこをするんだっけ。」
「ええ、勿論成功すれば大きなメリットがありますからね。」
「そこまでは読んでいないのだがどういうことだ。」
「あれには敵勢力に加担している武器商人が乗っているんですよ。
それに人身売買と、とことん世界の悪を詰め込んだようなやつですよ。」
「なるほどな。だからここで直接指揮しているわけか。」
今日行われるのは済州島を通過して上海に向かっている貿易船をに強襲をかける為である。
丁度この海域には後数日後に台風が通過する予定である為、遭難したことにすればバレないと踏んでいる。
この作戦はいつものお約束通り夜に行うことになっている。
この作戦に投入されるのはインディペンデンス級2隻だ。
彼らは今、ホワイトウルフとしてではなく、海賊として行動している。
作戦では第一部隊20名がRHIB2隻に乗って敵艦に乗り込み、その後にMH-60Rに乗った10名の隊員を送り込む手筈になっている。
船員を一掃した後で奴隷を如何にかすることになっている。
勿論その環境下で地元に帰るかこっちに忠誠を誓うかを迫ることになっている。
それによって対応が異なる。
午後8時、作戦が開始された。MH-60は既に発艦しており、今RHIBが後部のランプから発進した。彼らは一番に乗り込む部隊の為、顔に緊張の色が見えているようだ。
ヘルメットに装着されているマウントカメラからの映像から隊員達の表情をオペレーターが感じ取ってそう言った。
20分後、彼らは船に到達し、強制乗船が開始された。
梯子をかけて登ってからすぐに戦闘が開始され、まるで海賊のような容姿をした奴を相手にM4A1を指切りで射撃をしていた。その後降下地点の安全を確保した為、ヘリからリぺリングで降りて来た隊員達が合流して船内に突入した。
隊員達は頻繁に『パパ、パパパ』という発砲音を響かせながら下層を目指して突き進んでいった。
今回は敵があっけなく全滅して、武器商人兼奴隷商人の命を刈り取り、制圧を完了した。
ボートから船に乗った隊員が乗船してから僅か10分後だった。
隊員達が船底に到達すると人間が所狭しと縛り付けられた状態で乗せられていた。
物のように敷き詰められていて足の踏み場も無いという感じだった。
隊員の報告では強烈な異臭が漂っているとのことだった。
確かに物凄く汚く、血や排泄物が木に染み込んでいる感じだったから想像に難くない。
僕は隊員達のことを気の毒に思いながら様子を眺めていた。
「これはひどいな。」
「ええ、本当よ。
全くこういう作戦をやるたびに隊員達を隔離しなくちゃいけないなんて人員が余っていなかったらたちまち機能不全よ。」
「それは悪いがそうして貰わないと万が一があるし。」
「分かってるわよ。」
ジュリアはそう言った。
隊員を隔離することにしたのは疫病の蔓延を防止するためだ。
今回の貿易船(奴隷船)のように船が極めて汚いと人の排泄物等で感染してしまう等の潜在的危険が多いのだ。
この世界の病気に現代の西洋医学の薬が効くかまだ分かっていない以上、その危険を野放しには出来ないのだ。
我々の基地では衛生面に気を使い、平時であっても感染症に気を付けている。
乗組員の死体を全て確認し、検体を取るとそのままそれらを海に遺棄した。
隊員達はどんな気持ちでやっているのだろうか。
僕はそれがつい気になってしまった。
そして更に時間が経って今度は奴隷たちの健康の確認が行われた。
全員衰弱気味であるが、適切な食料を与えれば大丈夫とのことだった。
僕はディスプレイ越しにそれを見て、眠くなってきたので自室に戻り眠りに就くことにした。
そしてそんな感じで僕の休日は終わった。
これを休日と言って良いのかは甚だ疑問ではあるが。
次の日、僕は服を整えて作戦室に向かった。
台風が近づいてきているため、この安芸基地も雨が降りしきっている。
与那国基地の気象は山場を越えたが、物凄い風が吹き荒れたとのことだった。
現地住人の家は軒並み倒壊してしまったらしい。
幸い避難勧告を出していたので死者はいないが、島内各地で木がへし折れたらしい。
現在も強風が吹き荒れているらしいが空軍はぎりぎり運用できるとのことだった。
次に昨日行われた作戦行動についてだが、対外諜報機関は大陸からの商人を一名暗殺、対内諜報機関は3名のスパイ狩り、そして海軍は昨日の船舶の拿捕、奴隷たちはそのままその船に乗ったまま、インディペンデンス級が安芸基地まで曳航することになった。
距離的には近いので、今日の朝に到着することになっている。
全員がここで働くのを希望したらしい。
彼らの動向は警戒しなければならないが取り敢えず奴隷第一号の獲得は成功した。
どっかの帝国はさんざん海賊に他国の船を襲わせて富を得たらしい。
僕はこの世界でそれをまねようと思った。




