怒りの佐藤
佐藤健は怒っていた。
アキル領の人間をゾンビのようにして僕達を襲わせた犯人に。
そしてそれを表現するかのように基地からは火葬の炎と発煙筒の煙、アキル領全体からは大きな火柱が上がっている。
空はどす黒い黒一色となり、それは日を跨いでも覆い続けていた。
作戦室にいる佐藤健は黒が空を支配している様子を撮影した衛星写真を見ながら一ノ瀬と話す。
「これだけ黒ければ野郎どもも盛大な勘違いをしてくれるだろう。」
「ええ、今のところ視程もかなり悪くなっているのでそう勘違いしてくれるでしょう。」
「それで住人はどれ位残っているんだ。」
「いませんよ。
ヌルセ村の方はそういう被害が一切なかったのでいつも通りに生活していることでしょう。」
「考えていたんだけど、この機会にここに陸海空の大規模な基地を設置しても良いと思うんだけど。」
「一考の価値がありますね。
会議で招集をかけてみますか?」
「ああ、お願いするよ。」
佐藤は怒りに震えながら、しかし理性を保ちながら次の一手を考えていた。
しばらくすると会議室に集まれるだけ集まった隊員達と会議を始める。
「今回呼び出したのは僕の案について考えてほしいからだ。
この基地周辺からは住人が屍となって消えた。
考えてみれば基地の設営に邪魔となるのが完全に消えたことになる。
そこでこの安芸全体を大規模な基地に変えてしまおうと考えたわけだ。
このことについてどう思う。」
「いくら何でも性急すぎます。
現地調査が完了していない今それをするのはかなり危険かと。」
「私は賛成よ。
どうせ壊滅してもまた召喚しなおすだけの余裕はあるんでしょ。」
優子が二の足を踏んでいる一方、ジュリアは賛成なようだ。
「良く分かっているな。
この召喚にかかるのは全体の約1/7だ。
そしてこれを発案しているからにはもちろん隊員数も確保できるから言っている。」
「分かったわ。
私も賛成です。
流石に部下を殺されておいてそれに対抗する戦力を得ないわけがないですから。」
「他の意見を聞きたい。」
「私も賛成ですが部隊配備はどうするのですか。」
僕は少し考えて彼女たちに投げることにした。
「それはそっちですぐに考えてほしい。
4000t以下の物であればすぐに召喚する。」
「了解。」
「他に意見はあるか。」
全員が沈黙する。
「では無いな。
これから部隊編成を作成してくれ。
解散!」
僕は声を張り上げてそう言った。
そしてすぐに作戦室に再び戻り、状況把握に努める。
夕方になったらしい。作戦室内の照明は日没と共に白色灯から赤色灯に切り替わる。
なんでこんなことになっているのか分からないけど僕が考えるにここに籠ることになった時に時間感覚を狂わせない為だと思っている。
「火事の状況はどうなっている。
アキル全体の凡そ90%が全焼しました。
森への延焼を防ぐために一応消防車を派遣して放水を実施しています。」
「分かった。」
その頃、アキルとヌルセの真ん中にある村では全員が怯えていた。
「昨日からアキルの町が燃えているぞ。
何だあの炎は。
今まで見たことが無い。」
「おとおちゃん、目が痛いよ。」
「早く家に戻ろう。家の方を向けば痛くないだろ。」
そう、あまりに火の手がでかすぎて濃い煙がアキル周辺にも広がっていた。
村人達は当然この中で作業が出来ず、様子を見に行った親子も結局煙が濃すぎて良く見えない上に煙で目を傷めることになったのだ。
深夜、2日間燃え続けた炎を威力もかなり弱まり、辺り一面の燃えた木がくすぶっていた。
そして雨が降り始め、辺りにさびしいザーという音を響かせていた。
雨が降りしきる中、二人の男がその荒野に立っていた。
これが誰だか言う必要はないだろう。
「これで火遊びも終わりか。」
「ええ、召喚に移りますか。」
「そうする。」
その男は端末を開き、大規模空軍基地、大規模海軍港を召喚した。
共に2万トンを消費した。
この基地は安芸川の河口に作られ、かなり海岸には立派な岸壁と桟橋が設置され、空軍基地は海軍港の防波堤としての機能も果たす為に作られている。
11-29の4000m滑走路が2km の間隔を開けて左右に設置され、滑走路の脇も船が停泊できるようになっている。
空軍基地はアキル川にかかっていた幅80mの橋を分岐させたもので地上とも接続できるようになった。
そして緊急滑走路として使用できるように1000mの未舗装滑走路は1500mに延伸され、舗装もされた。
空軍基地のメインハンガーは滑走路二本の間に設置され、多数の格納庫も整備されている。
それだけでなくバンカーと呼ばれる耐爆格納庫を各滑走路両端に4機分ずつ設置されている。
空軍基地の管制塔は基地の正に中心部分に建てられている。
高さは190mだ。
海軍港の方の海岸部分の一部には大型ドックが3箇所あり、船の整備を行えるようになっている。
圧巻と言うべき規模だろう。
本部を召喚した時も驚いたが、いきなり目の前に巨大施設が並ぶとやはりすごい。
肝心の船や飛行機は見えないが今後増えていくだろう。
それでこれだけ基地を集中的に召喚したため規制が緩和されたものがある。
それは燃料に関することで、今までJP-8という規格の燃料しか使えなかったらしいが軽油から重油までの燃料が自由に使えるようになった。
説明を読むと、基地の地下に張り巡らされたパイプと燃料を入れたい物体を選択すると勝手に最適な種類の燃料を入れることが出来る。
仕組みがどうなっているのか分からないし、それがどれだけ素晴らしいかもいまいち分からない。
それを取り敢えずジャックに言うと彼は感激していた。
「すごいです。これならどんな車両や航空機でも使えますね。
感激です!」
とすごく嬉しがっていた。
後で調べたところによると航空機燃料とか自動車用燃料とか船舶用燃料とかと一括りに言っても添加物や組成の違いから様々な種類に分かれるらしい。
僕はその時初めて知った。
僕はその時は感動だけだったが、少し時間が経ってから内心で『今に見てろよ』という復讐心を煮えくり返らせていた。




