人のいないアキル領と戦後処理
アキル領は一夜にしてほとんどの人間が消えた。
正確にはアキル基地を襲撃した為に僕達に制圧されただけなのだが。
そして基地の中も肉片と血が散乱する恐慌状態となっていた。
今日は給水車による給水もなしだ。
その理由は言う必要がないだろう。
僕達はこの戦闘後に急ピッチで周辺に鉄条網を設置し、失われた防御を取り戻した。
それが完了したら基地の外に出て様子を把握する。
今回は万全を期すためにハンヴィーではなくより重武装のM1126を使用する。
前日の銃撃のこともあるので隊員達は極力車内から出ないように僕は言っといてある。
そこにはゴーストタウンと化した町が姿を現していた。
なぜかどの家の扉も開いていて靴がそのまま残っている家も多かった。
そしてそんな感じで本当に人がいない町を走っていると一軒の家屋から熱源反応が確認された。
隊員達はスピーカーで出てくるように勧告するが、それからは一切返事がなかった。
隊員がついにM2のトリガーを引こうとしていた時、それは鉄砲を発砲した。
ここまで追い詰められて状況を読めない馬鹿がここにいたのかと僕はため息を付きながら作戦室で映像を見ている。
隊員は車体の装甲に弾が当たるカンという音を聞いてすぐにトリガーを目いっぱい引いた。
M2はババババババババババババという連続した音を立ててその二階部分にいた人間をそのままミンチに変えた。
そのM1126に搭乗している隊員達はすぐに車両から降りて穴だらけになって半壊した家屋に突入する。
隊員達は容赦なく動くものを撃ち殺していった。
それがネズミであれゴキブリであれ。
そして二階に辿り着くとさっきまで人間だったはずの何かが散らばっていた。
隊員はそれを確認すると家屋に火を点けて現場から撤退した。
これは万が一にもそれが基地を襲うことが無いようにするための処置である。
これは昨日の戦闘で命を刈り取ったはずの人間が動いていたからである。
町を偵察して帰ってきたM1126の隊員は完全に疲れていた。
そしてUH-60Rで城内の捜索に向かった人間も唖然としていた。
城内でも同じ光景が広がっていたからである。
そして最悪なことに隊員の一名が撲殺されていた。
彼らは無線機も失った状態で6時間以上天守閣で籠城していた。
ヘリコプターから降りて捜索向かった隊員を見るなり彼らは涙を流してその隊員に抱き付いていた。
そして屍の山を避けるようにして通りながら彼らもまた基地に戻っていった。
基地に閉じ込められていたのは第36分隊20名だ。
そして隊員一名、領主死亡と言う最悪な報を同時にプレゼントされることになった。
僕はポチに命令を下した。
領内に侵入をするのと領内から出ようとするのを殺害しろ、と。
ポチは何か言いたげな雰囲気だったが僕の雰囲気を察してか何も言わなかった。
僕は今までで一番怒っている。
隊員を10人も殺害され、収容所は完全に瓦礫の山と化し、基地は血だらけで戦闘の傷痕がたくさん残った。
そして僕が次に取ったのは町を全て焼き払うということだった。
客観的に見て狂気の沙汰とは思えないことであるがこれにはれっきとした理由がある。
これを作戦室の隊員に伝えるとしかめっ面をされて今にも追い出されそうになったが僕は適当にまともそうな理由を立てて納得させようとした。
「装甲車で偵察に向かった部隊の報告では何処からも人が見つかっていない。
だからこれを放置しておくと良からぬ何かが住み着くことになる。
それに町を焼けば僕達を襲った野郎どもが僕達が壊滅したと思いこませることが出来るかもしれない。
それに不謹慎かもしれないがこれで大規模基地を造る時の制約が完全になくなった。
隊員が犠牲になったのは大変痛ましいが彼らの犠牲に報うべきだと僕は考える。」
作戦室の隊員はその歪んだ表情を崩さなかったがある一人が口を開いた。
「家屋を焼き払ったって人的被害が無いなら賛成です。」
と。
他の隊員考えていたが何か納得したような感じで口を開いた。
「分かった。
家屋の焼却は許可する。
それと佐藤司令、発煙筒を大量に用意してくれないか。」
「それをどうするんだ。」
「基地中にばら撒いて基地が炎上しているかのように見せつける。」
「了解。」
僕はスマホを開くと大量の発煙筒を作戦室の中であるが召喚してエレベーターに乗っけて運んでもらう。
そしてそれを何回か繰り返し5000本の発煙筒を結局召喚した。
夕方になった。
アキルの町には赤い火がずっと周辺を熱くしている。
そこから発せられる黒い煙によってアキルの空は漆黒の夜に様変わりしていた。
その中にある炎はより悪い意味で輝いていた。
隊員達はずっとガスマスクを着けて作業している。
発煙筒はまだ使われていないが、死体をそこらじゅうで燃やす匂いがし続けている。
一度作戦室から出て一階の出入口から出ようとしたが匂いが強烈過ぎて僕は吐きそうになった。
結局僕はすぐに作戦室に逃げ帰ることになった。
後日どうなるのか僕には分からない。




