勇者さん、聖剣を手放したい
久々の投稿です。リハビリ作品なので頭を空っぽにしてお読みください。
暗い雲が拡がる広大な荒野の真ん中に禍々しい巨大な城がそびえ立つ。
人類の敵にして世界の破壊者である魔王の居城である。
そんな魔王城、その中でももっとも広い一室である謁見の間では暗闇を凝縮したような黒い衣装を身に纏った骸骨『魔王』と、神々しい輝きを全身から放つ青年『勇者』による激しい戦いが繰り広げられていた。
「いくら勇者とてこの攻撃は躱せまい!」
「だからそれがフラグだって言ってんだろが!」
魔王が部屋を覆い尽くす程の火球を放つも勇者の拳一つで霧散された挙げ句、発生した衝撃波により壁際まで吹き飛ばされてしまった。
しかし勇者も火球を消し飛ばす為に力を大分消費してしまった。証拠に先程まで勇者が纏っていた輝きが小さく、弱々しくなっていた。
「くっ、勇者がここまでやるとは……。この儂と互角とは驚いたぞ」
「お褒めに預り光栄だな。それよりも、ほれ。まだ第二、第三の形態残してんだろ?さっさと本気出せよ」
「それなら貴様も本気を出すがよい。その傲慢な態度ごと打ち砕いてくれようぞ」
「本気なら最初から出してるが?」
「惚けた事を申すな!」
激怒した魔王が周囲の瓦礫を吹き飛ばしながら立ち上がる。
「なら何故その背負った聖剣を抜かん!」
魔王の言葉通り、勇者はこの戦いが始まった時から一度も聖剣を抜いてはいない。魔王からしたら侮られているとしか思えず、大きくプライドを傷付けられていた。
しかし、勇者から帰って来た答えは意外なものだった。
「中途半端に重くて使い辛いんだよ!」
「はぁぁぁ!?なら何故背負っている!」
「俺だって背負いたくて背負ってるんじゃねぇんだよ!」
「何を訳の分からぬ事を申し出ておる!聖剣には勇者が使いやすいように形態変化が出来る機能があると聞いておるぞ!」
「そんな事分かってんだよ!それよりもそもそも使いたくねぇんだよ!」
「本当に勇者か貴様!ほれ、背中の聖剣も泣いておるぞ!」
魔王の言葉を肯定する様に聖剣がピカピカと光を放ち抗議する。
「眩しいんだよ!始まりの町の武器屋に売り渡すぞ!」
「聖剣を脅す勇者とか初めて見たわ」
「夜寝る時にも光って寝にくいし、脳内に直接語り掛けて来て結局安眠妨害してくるしいざ戦いで使おうとすると『今日は気分が乗らないからパス』とか言って一切鞘から抜けなくなる聖剣とか最早呪いの装備でしかねぇんだよ!」
「うわぁ……」
魔王ドン引きである。
「それに何度地面に突き刺して捨てても気付いたらこっそり鞘に戻ってるし、ならいっそのこと鞘ごと地面に埋めて魔法でガッチガチに固めても突き破ってるのか知らねぇけどまた背中に戻ってきてるしで恐怖でしかねぇんだよ!」
「何それ怖い」
魔王がストーカーを見てしまったような怯えた表情になる。勇者の熱も更に上がる中、聖剣の光が誤魔化す様に不規則に点滅する。非常に目がチカチカして迷惑である。
「そんな聖剣でお前を斬ったら俺もお前もどんな目に会うか分からないから抜きたくねぇんだよ!分かったか!」
「あの……なんか、済まぬな」
思わず魔王が同情してしまう程の害悪っぷりを発揮してきた聖剣。勇者の脳内には聖剣の言い訳が次々に流れ込み更に勇者を苛立たせる。
「魔王さ、もう人類がどうなるとか本気がどうとかこの際どうでもいいから聖剣引き取ってくれねぇか?そろそろ寝不足で死にそうなんだよ」
勇者が背中の聖剣を外そうとするもどういう理屈か全く離れる気配がしない。もう完全に呪いの装備である。
「そんな聖剣貰っても迷惑なだけなんだが」
「ならさっさと倒されてくれよ!そしたら役目を終えた聖剣も離れるかも知れないだろ!」
「そんな事で命を無駄に出来るか!そっちの事はそっちでなんとかしろ!」
「薄情者!人でなし!黄ばんだ骸骨!」
「黄ばんどらん!とことん口が悪いな貴様!」
「うるせぇ!早く殺されろ魔王!」
「八つ当たりをしてくるな勇者!」
魔王に殴りかかる勇者は心から叫ぶ。
「誰か、この聖剣を捨てさせてくれぇぇぇ!」






