におうさん
昔、不思議な体験をした。
小さい頃、親は俺を早く寝かしつけるため、こんなことを言っていた。
「におうさんが来るから早く寝なさい!」
子どもが夜更かしをしていると、におうさんなるものが見回りに来て、起きている子どもをさらっていってしまうというのだ。
親が言うことは絶対に正しいと信じ込んでいた当時の俺は、におうさんが怖くて毎日早く寝るようにしていた。
ある夜、物音が聞こえ、目が覚めた。
「におうさんだ!」
におうさんはこっちを見た。
さらわれてしまうと思った俺は謝った。
「物音で目が覚めただけなんです! ちゃんと寝てたんです! ごめんなさい! 許してください!」
におうさんは咆哮を上げ、通り去った。
翌朝、母さんに報告すると、母さんは笑った。
「怖い夢を見たんだね……安心しな、におうさんなんてほんとはいないんだよ。お前を早く寝かせるための嘘だったんだよ。お前が見たのは夢なんだから怖がらなくてもいいんだよ」
夢なんかじゃなかったと言い返すも、笑われるだけで本気にしてもらえなかった。
それから何度か、夢じゃなかったのだと証明しようと夜更かしをしてみたが、におうさんは来なかった。
なんだったんだろう。あの目が2つしかない生き物。
私はそれを見た時、悲鳴を上げて逃げた。
その生物は目が何十個もあるタコのような生き物だった。
その生物は金切り音を出し、威嚇してきた。
私は生まれて初めて未確認生物を見た。
私は逃げ続けた。
真夜中に真っ暗な森に女の子一人で入り込んでしまったのがいけなかったのだ。
「帰ったらパパに謝らなきゃ」
パパと喧嘩したぐらいでむきになり、家出なんてしなきゃこんなことにはならなかった。
森を抜けると、そこには見たこともない世界が広がっていた。
その世界にはさっき見た生物とはまた違う、未確認生物が存在していた。
怖くなった私は森に戻った。
ひたすら走り続けると、夜明けと同時に別方向の森の出口に到着した。
「元の世界だ!」
その後、パパに謝って、その日の体験を話したのだが、当然信じてはもらえなかった。
そりゃそうだよね。足が2つしかない生き物なんているわけないもん。




