死の液体
拳が空気を切り裂いてか細い笛のような音が出る。 ベルトワルダは私の拳をこんな至近距離なのに何度もかわされている。
ベルトワルダの打撃は重いと言うより、軽くて速い感じだ。 1度攻撃を喰らうとなんども殴られてしまう。
「うらぁ!」
殴られながらも無理矢理、殴り返すがそれもベルトワルダには当たらない。
「こんな状況になっても勝つのはやっぱり私なのね。 もう少し良い勝負になるかと思ったけど」
「うるさい、本当にしゃくに触るよあんた、ムカつく。 本気の戦い方を見せてあげる」
腕同士に伸びている。 鎖をどんどん腕に絡ませてベルトワルダとの距離を縮めていき。 確実に拳が当たるぐらい、いやもはや近すぎて腕も満足に振れないぐらいの近さだ。
「今までの分返すよ」
ベルトワルダの拳が雨のように体に降り注ぐが気にせずに、拳を振りかぶり体を捻り、大振りの一撃を繰り出した。 避けれなくなったベルトワルダの腹部を拳がぶち当たった。
「ぐっ!」
パンチの威力でベルトワルダは浮かび上がり、腕の鎖はベルトワルダにつられて上に引っ張られた。 腕を素早く下に振り下ろし、ベルトワルダの体は地面に叩きつけられた。
「私の勝ち!」
高らかに私は勝利宣言を口にした。
「中々効いたよ。 でもまだまだ」
ベルトワルダは平然と立ち上がり拳を構えた。
「でも久しぶりだよ! こんなに楽しい戦いわ、やっぱりあなたとは友達になれる! さぁもっと殴り合いましょう!」
鼻の中に溜まった血をもう一方の鼻を押さえ思い切り鼻から空気を出すと血は半液体のようなドロドロとした状態で地面に落ちる。 そして私も拳を構えたその時。 教会でまるで湖に大きな石を落としたような黒い液体の柱が現れた。
「ネル、ネル、ネル!」
私の頭は真っ白になる。 すぐにベルトワルダと私の絶対暴力域を解いた。 ベルトワルダが私をすごい力で体を押さえつけた。
「何で能力を解いた! 手を抜いたのか!」
すごい剣幕だ。 だがそれどころではない。 死んでも妹の元に向かう。 ベルトワルダはすぐに私の様子に気づき視線の先にある。 黒い柱を見てその力を解いた。
「あの黒い液体はまずい。 ミカあなたも教会に向かうつもりでしょ? ならここは休戦しましょう」
私は何も答えない。 ただ全力で教会へ向かう。
「良いって事ね。 あの黒液は死そのもの。 ずっと下級街の最下層で押し留められていたんだけど。 何があったのか」
「そんな事どうでも良い、私はネルが無事ならそれで」
邪魔な建物は全てぶち壊して最短距離で教会に着いた。 まだ黒液は柱を立てている。 私は迷わず教会のドアを蹴破った。 その瞬間黒液がドアを蹴破った足にまとわりついた。 黒液が離れると私の足は無くなった。 今更足なんてどうでも良い。
ネルの無事さえ確認出来ればそれで私は這いつくばって手を伸ばす。 黒液は私の手を飲み込む。 波の満ち引きのように黒液は動いている。 次黒液が来たら私の体は全部飲み込まれるだろう。 でもネルだけはネルだけは。
「ネルゥゥゥゥゥゥ」
全ての力を込めて叫んだ。 だけどその叫びは届く事はなかった。