死
「なんだこれは」
キルギスは血だらけの自分の胸の穴をさすっている。 アイラさんが放った光線の威力でキルギスの着けていた上半身の鎧は吹き飛び、血を手で広げるせいでキルギスの服は真っ赤に染まった。
「まだ、まだ! 止めを刺さないと」
「アイラさん! もうやめて、これ以上はあなたの体が保たない、それにキルギスはもう致命傷だよ」
アイラさんは身体中にひびが入りその間から黒い液体が漏れ出ている。
「まさかここまでやるとはな、だがお前のその力どうやって手に入れた? 俺が調査していた」
キルギスは途中まで喋ったが血を吹き出し、口を押さえた。
「よくまだ喋るな、大人しく死ね」
アイラさんはセピアの手を払い退けて、キルギスの元に向かった。 胸に穴の開いたキルギスにナイフを向ける。
「最後に何か言うことはあるか?」
キルギスは胸に手を置いたまま何も答えない。
「何もないなら死ね」
アイラさんはナイフを振り下ろした。
「お前が死ね」
キルギスは素早くアイラさんのナイフを奪い取り肩に突き刺した。
「何で動けるの」
「水を操って心臓のかわりに血液を循環させた。 狙うなら頭を狙うべきだったな」
「ならもう1度やってやる!」
アイラさんの目のヒビがさらに増え、目の白目も黒くなっていった。
「うわぁあああ!」
アイラさんは壊れたように叫び声を上げ、目を押さえてもがき苦しんでいる。
「当たり前だ。 その力は死そのものに近い。 生きている人間が使えば当然死に近づく事になる。 その攻撃を受けた俺は死ぬがまだ死ぬ訳にはいかない。 やる事が出来た俺はもう行く。 その女が起きたら復讐は成功したと伝えておけ、ベルトワルダにはお前に軍の指揮を任せると伝えろ」
「わかりました。 キルギスさんはどこに行くんですか?」
「この死の能力を呼び寄せたやつを殺すのが俺の最後の仕事だ。 ボトムサンズの殲滅より重要だ」
「そうですか、お世話になりました。 私はあなたとは考えが合わなかったけど王女として国尽くしてくれた事に最大の感謝を贈ります」
「王女に感謝された事はなかったな。 なんだかむず痒いなありがとう。 セピアお前を殺さなかったの俺の判断は間違っていなかったかも知れない。 どうか国を頼む」
キルギスは重い足取りで噴水広場を後にした。 戦いがひとまず終わったが息をつく暇もなくアイラさんの叫び声が町中に響いている。 俺のやる事は1つしかない。
「セピア! アイラさんの死、全てを俺に移すんだ」