黒い涙
21話 黒い涙
「キルギスゥゥー!」
アイラさんはものすごい剣幕でキルギスに向かって突っ込んでいく。
「俺は仕事上恨みを買うことは多いけど、ここまで俺を殺したがってる奴には出会った事ないな」
キルギスはアイラさんの攻撃を避けながらそう言った。 そして攻撃をして隙が出来たアイラさんに向かって水を無数の細い針状にして飛ばした。 俺はアイラさんの目の前に飛び出して水の針を全身で受けた。 全身がボロボロになって意識が飛ぶ。
背中に温かい感触を感じて意識が戻る。
「何回死んでもいいよ、私が生き返らせるから」
「ありがとう助かった」
「アイラさん! 少し落ち着いて! 頭を使って戦わないとキルギスには勝てませんよ」
「うるさい、両親を殺されて今日この日のためだけに生きていきたの、指図しないで」
「ありきたりな理由だな」
キルギスは噴水に腰をかけてそう言った。
「は??」
アイラさんは呆気に取られ、構えてた武器を落としてしまった。
「ありきたり? どういうこと?」
「だから、両親を殺されたから俺を殺しにくるって理由だよ。 俺は今まで何千人も殺してきたから、お前みたいな理由で襲ってくる奴はいっぱい居たんだよ。 だからさも自分は復讐の鬼だみたいな感じで襲ってくるのがおかしくって」
「あんた、人間じゃない」
「そういう世界なんだよ、ここはとっくに良心なんてない、そしてお前みたいな奴も毎回殺してきた。今回も俺がお前を殺して終わりだ」
「キルギスゥゥ!」
さっきとは比べ物にならないほどの速さでアイラさんはキルギスにナイフを持って突っ込んでいった。
キルギスは水を球体状にしてアイラさんに放った。 アイラさんはその水球をナイフで真っ二つに切って、再び地面で勢いをつけキルギスに襲いかかる。
「惜しいな」
キルギスはナイフの切っ先が鼻につく寸前の所で水でアイラを包み。そのまま後ろの家の壁に叩きつけた。
「キルギスゥ」
叩きつけられたアイラさんはそれでもキルギスの名前を恨みたっぷりで言い続けた。
それからのアイラは何度もキルギスに突撃しては壁に叩きつけられてを繰り返していった。 何度も攻撃を繰り返すたびにアイラさんの速度は早くなっていき、キルギスの涼しげな顔も曇り始めてきた。
「お前を殺す!」
アイラさんは民家の屋根から飛び上がり、キルギスの脳天目がけて一直線に落下した。
「行け!!」
セピアは力の限りアイラさんに向け叫んだ。 アイラさんの持つナイフは確かにキルギスに触れたように見えた。 確かにそう見えたはずだった。
だが次の瞬間にはアイラさんの腹にはキルギスが操る、水の触手で貫かれ貫かれた先の水は真っ赤に染まっていた。
「アイラさん!」
セピアは触手によって腹を貫かれて、道に叩きつけられたアイラさんに駆け寄っていった。
「良かった! まだ息がある!」
セピアがこっちを向いてそう言った後ろでアイラさんの体は長した血が真っ黒に変わっていき。腕から滴り落ちるはずの血は逆流して空中に漂っていた。
「キルギス殺す」
アイラさんがキルギスの方向を向くと、顔がひび割れ所々に黒い液体が漏れ出ている。
これは下級街の最下層で見た真っ暗な液体に近いというか、それそのものだ。
「うぁあーー!」
アイラさんが雄叫びと言うより悲鳴に近い叫び声を上げると、右目から黒い液体が1本アイラさんの頬を伝った。 その瞬間アイラさんの右目から真っ黒な光線が飛び出しキルギスの胸に風穴を開けた。