~プロローグ~
「ちょいと、そこのお兄さん」
そんなありきたりな台詞に思わず振り向いたら、異世界転生していた俺、士弐 太陽。42歳、無職、独身。
そもそも、声を掛けられて振り向いただけで異世界転生っておかしいだろ、異世界転移なら百歩譲ってまだわかるとして、転生ってことは俺は一度、死んだってことだ。
だが俺には自分が死んだ記憶も実感もない。
何せ声を掛けられて振り向いただけなのだから。
勿論、気付いていないだけで死んでしまったということも考えられるが……それはそれで、俺の人生なんだったんだろう。
まぁ異世界転生や異世界転移なんて言葉に精通しているようなオタク人生だったとしか言えないが……
気がついたら「おぎゃー」と元気な女の子の俺、爆誕。
笑い事じゃねーよ!!
こんな理不尽あってたまるか!!
親も兄弟も健在で親友、悪友、呑み仲間なんかもいたりして、それなりに充実した彼女いない歴=年齢などこにでもいるアラフォー男……なぜにこんなことになった!?
そりゃぁ女性と関わりを持ちたいと思ってはいたが、それは健全なお付き合いを前提としたものであって、自分が女になるって意味じゃない。
最近流行りのwebサイトなろう系小説なら生前モテなかった未婚の中年男が異世界転生してチート能力獲得で無双と美少女や美女に囲まれてウハウハだろうに、俺の異世界転生はドコ産だ?
神も仏もあったもんじゃぁない。
それどころか、悪魔や妖怪に化かされた気分である。
元の世界に戻ることってできるのかな?
生きているのか死んでいるのかも分からんけど、帰れるものなら帰りたい。
やっぱ、家族や友達とか……簡単に切り捨てられないし……
とはいえ今の俺、女じゃん!!
元の世界に帰れたとしてもやっぱ女の俺なのだろうか?
見た目は女、頭脳はおっさん、迷宮入り確実の迷探偵とか誰得だよ!! 夢なら早く覚めてくれ!!
……とは言ったものの現実は現実。
産まれちまったものは仕方がない。
ん? 産まれちまったものは?
ま、まさか、種からなのか!? 俺の転生!!
考えたくねぇええ!!
と、とりあえず、今の両親の下で生きてくしかない。
赤ん坊だしな……
そして始まる
俺のシャンス・ド・エッセとしての異世界生活。
転生したらスライムだった件アンチ精神を概念とするリトルデヴィルの放浪譚の執筆者が異世界転生モノを書いたらこうなった――――ただそれだけのことです。