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八話 バグワーム 一

 バグワームは目を覚ました。


 周りを見渡すと部屋には窓は無く、唯一の扉は金属性で見た目だけでも壊すことすら考えられなくなるほどの頑丈さがある。

 更に真っ白で硬いベッドの上に片手を鉄の鎖で拘束され、監視カメラが見張っていた。


「へえ、これが噂の監獄かぁー」


 顔には余裕そうな笑顔を浮かべていた。実際の所、バグワームにとってはどれだけ分厚く硬い物質だろうと抜け出せる能力があり、いつでも脱獄できると彼自身は確信していた。


「誰か聞いているならお話をしようよ! ねえねえ。監視カメラの先にいるヒトー」


 子供が遊び相手を求ような感覚で手足を動かせる範囲で動かし、監視カメラの方に訴えた。

 しかし、誰の声も帰って来ることはない。


「うーん。ここにいてもつまらないね。じゃあ、これにて……」


 バグワームは能力を使い部屋から出ようとした。


「――ッ!? あ、アバアババババババアバアッ!」


 突如、苦悶の声を挙げながら痙攣した。数秒で痙攣が終わったがバグワームの体からは煙が上がり、顔からは先ほどの笑顔は消えていた。


「こ。これは電気かな」


 再び笑顔になり、鎖をジャラジャラ動かした。


「能力を使おうとすれば、電気が流れるってことだね」

『その通りだ。俺は『数秒先の未来を視る』能力がある。それでお前が逃走するようなことがあれば行動をする前に電流を流す』

「丁寧に能力説明までしてくれるとは君は相当馬鹿みたいだ」

「でも、その馬鹿さも悪くはない」


 スピーカーからの声に対して、バグワームはのんきに返事をする。相手の能力を聞いてからも一切表情を変えていない。


「僕も君みたいに能力をベラベラ喋ってみようかな。うん、そうしよう」

「能力『バグワーム』。物事の過程に『バグ』を挟み込み、自由に改変する。君たちにも分かり易く……」

「教えようとしているから電流を流さないでよ」


 口では電流を流されていると言っているにも関わらず、バグワームが先ほどの様に痙攣することは無かった。


「まあ、いいや。分かりやすく説明しようとすれば、アニメならまるまる一話は使うレベルだから」

「逆に理解が曖昧な方が楽だと思うよ」

「あれ、そもそも僕が能力を喋る必要はなくない? いや、悪役は自ら能力を語るモノか」

「やっぱり。僕は君の敵だ」


 バグワームの口が三日月に裂け、目は丸く不気味な光を出した。


「君は未来を正確に予知している。だから、どんな現実改変者ギミッカーであってもここからは出られない。(まさ)しく、脱獄不可能の牢獄」

「でもさ、それは君が監視カメラの奥という安全な所で見ているから出来る芸当だよね」


 電流は流れてこない。つまり、カメラの相手はただのハッタリだと未来を視て知っている。


「特別に僕の能力について話してあげるよ。効果範囲は『僕や僕を認識した相手ををなんらかの方法で認識している』これだけさ。懇切丁寧に解説してあげたいけど、それをすると僕がずっと一人語りをするっているシュールな場面になるんだよね。僕以外はぜんっぜん楽しくないから絶対に避けたいんだよ」

「いつの間にここに来やがった!?」


 バグワームは一瞬のうちにカメラの向こう側、監視部屋まで移動していた。看守らしき男は驚愕し、銃を構えた。


「君の能力は『数秒先の未来を視る』じゃなくて『五十秒先の未来を視る』だってね。その能力に今回は()()()()()()よ」

「俺の能力もバレているのか!」


 男は発砲した。高速の弾はバグワームの胸元に確かに命中した。


 しかし、バグワームが出血することは無く傷口をノイズが走るだけでバグワーム自体はへらへら笑っている。鉛の弾が全く効いていないのだ。


「く、来るな!」


 男は腰を抜かしながらも、バグワームに向かって何度も発砲したが結果はさっきと同じだった。


「僕に足りないのはなんだと思う? やっぱり『武器』だと思うんだけど、どうかな? カッコ良さ重視で刀もいい。いや、実用性で銃っていうのもいいかもしれない。でもそれだと(異端)っぽくないんだよね」


 バグワームはそれぞれの武器をどこからか取り出しながら男に近寄る。


「あ、そうだ! 殴って飛ばせて、利便性を兼ね備えた異色の武器、螺子ねじにしよう……って、それはパクリになるから。これにするよ」


 バグワームは男の心臓に向けて、()()()を刺した。


「問題。これは何でしょう? 答えはコマーシャルの後で!」


 ジョークを放った後、男からそれを引き抜いた。


「じゃじゃーん。プラスドライバーでした!!」

「あ、もう死んじゃった? でもまあ、僕の()()()()()で相手は死んだってことだから『引き分け』でいいよね」

「拒否しても引き分けだから、こればっかりは譲りたくないね。じゃあねッ!」


 男に刺した穴に再びプラスドライバーを刺し、バグワームは監視部屋から出た。

 外は警報が鳴り響き、アナウンスでは脱獄について何度も放送されている。


「僕だけが脱獄するのは寂しいよね。じゃあ、この際、面白い人は全員逃がしちゃおう」


 バグワームが指を鳴らす、これによって囚われていた凶悪犯の現実改変者ギミッカーが解放され町のどこかにランダムに転移された。

 たったこれだけで大事を成す。これが彼の能力の恐ろしい所でもある。


 通路に黒いローブで顔を隠した少女が現れた。


「私は名は双葉ふたば。あなたを倒す為に来た」


 双葉と名乗った少女はボロボロで目玉の飛び出た二つの綿詰めの人形を召喚した。


「『双子座ジェミニ』。変形。呪いの弓矢(カースローズ)

「君も能力を喋ってくれるね」


 人形が破裂した後には弓を構えた双葉の姿があった。


「ショット」


 弾丸よりも速い速度の矢がバグワームの首に侵入した。貫通することはなくバグワームの体内に入った。

 直後、バグワームは血の涙を流し屈みこんだ。


呪いの弓矢(カースローズ)の矢は『双子座ジェミニ』の片割れ。あなたの辛い記憶を呼び覚ます」


 バグワームは頭を抱え、のたうち回る。それほどの苦痛を味わっていた。


「あなたの過去を私は知らない。でも、辛い記憶は誰にでもある。あなたはそれが強いだけ」


 双葉は鋭い眼光を倒れ暴れているバグワームに向けた。


「僕は君の敵だ。君の敵じゃなくちゃいけないんだ! 『死ねよ』『死ぬな』『殺す』『殺さない』なんだんだよ! 僕は心を持った()()なんだ! バグなんかじゃない!」

「気持ち悪い」


 叫びながら、バグワームは立ち上がった。しかし、体のほとんどにノイズが走りとても人間の姿では無い。双葉はその不気味さに顔をしかめた。


「!? 『双子座ジェミニ』! 戻って! 接続。双子の絆(最悪の仲)


 バグワームのノイズが一瞬で放電をする電気の様に枝分かれし、周囲を破壊した。今までの戦闘経験から双葉は攻撃を察知し、防御をしていた。


「双子との間は次元の壁が出来る。これは何者も壊せない」


 冷や汗をかきながら、目の前の人形を抱きしめた。

 双葉が仕掛けた人形は外れ、バグワームは落ち着きを取り戻していた。


「ふう。双葉ちゃんのお陰で僕は君の敵だとしっかり心に誓ったよ」


 バグワームの不気味な笑顔を見て、更に壊れた人形を握る力が強くなる。


「でもね。そんなことより、双葉ちゃんってかわいいね」

「……」


 瞬間移動かなにかでバグワームは双葉の目の前に現れ、黒ローブが隠していた顔を露わにした。

 双葉の頭は焼け跡が付き、髪の毛が一切生えていなかった。皮膚のただれもあり、お世辞にも可愛いとは言えない容姿だった。


 涙を貯めた双葉に対してバグワームは笑顔を崩さない。


「かわいいよ。ほら、自分自身で見てごらんよ」


 バグワームが巨大な鏡を双葉の目の前に置いた。双葉は自分の顔を見たくなく、咄嗟に下を向き目を閉じた。


「僕は面白くない嘘は吐かない。双葉ちゃんの綺麗な()()と整った容姿は誰がどう見てもかわいいよ。ほら、現実から逃げちゃ駄目だ」


 頭を撫でつつ、バグワームは双葉の目線の高さを同じにした。


「たんぽぽの髪飾りを付けて、ほら」


 バグワームが双葉に髪飾りを付けた。


 双葉は急に紳士的になったバグワームに惹かれつつあった。もしかして、あの忌々しい焼け跡が本当になくなったのでは? とすら考える様になってしまった。

 そしてとうとう顔を上げた。


「えっ」


 そこには自分自身ですら知らない美少女がいた。醜い焼け跡はなく、髪が生えている。それだけのはずなのに今まで忌々しかった容姿が一変していた事に驚嘆の声を出した。


「かわいい子が抱きしめれば、悪趣味な人形ですら愛おしく感じられる」


 バグワームは顔を赤くした双葉を笑顔で見つめながら、鏡の隣に移動した。


「これは僕からのプレゼント(貢物)だよ」


 バグワームが手を叩く。すると、双葉の胸元からノイズが現れ徐々に形が完成した。

 それを見た瞬間、双葉は青ざめた。


 バグワームが渡したもの、それは心臓から生えるプラスドライバーだった。


「やっぱり、かわいいよ」


 鏡の縁に体重を乗せたバグワームはうっとりとした表情で双葉の胸の凶器を見た。

 双葉は一瞬でバグワームの異常性を知ったが、それと同時に優しさを知った。両方を知ってしまったが故に双葉の最期の表情は絵画の様な笑顔だった。


「やれやれ。僕は君の敵だよ」


 元の笑顔に戻ったバグワームは更に奥に進み、エレベーターで上階に向かった。


 途中で現れた執行機関に所属する本部のエリート達(ただの雑魚)を一瞬で片付け、更に上へ上へとバグワームは進んで行った。


「五十階かなここは」


 バグワームへの攻撃が止み、彼は独り言を呟く。


 エレベーターは緊急時に一定の階までしか上がれない様に設定されており、更に上がるには別の場所にあるエレベーターに乗り換える必要がある。

 そのせいで攻撃をされてしまっていたのだ。


 五十階を探索し、エレベーターを探しているとバグワームは角で誰かとぶつかった。

 その誰かは清掃用カートを持っており、バグワームの軽い体重は簡単に吹っ飛ばされた。


「す、すいません!」

「気を付けなよ。僕は君の敵なんだから」


 カートが当たった場所をさすりながら、バグワームは警告をした。現実改変者ギミッカー以外は眼中にないのか、戦うことはせずに通り過ぎようとした。

 しかし、バグワームはある異変に気付いた。


 触った場所にノイズが走っている事に。


「そのカート……」

「す、すいません。棘付きで」


 清掃員らしき男が押していたカートの前方には人を軽く殺せるような巨大な針が装備されていた。そのカートを今度は意図的に押し、バグワームに当てようとした。


「同じ攻撃は二度は通用しないぜ」


 バグワームはカートを躱した。


「それは想定済みだ」


 躱した先に清掃員の男が先回りし、ナタを振った。流石にこれは躱しきれずに腕で守る事しか出来ず、バグワームが吹っ飛ばされた。

 壁にクレーターが出来るほどの威力で叩きつけられ、バグワームは肺に溜まっていた空気を吐き出さされた。


 躱されたカートは壁に当たるとプレス機に潰されたかの様にボロボロになっている。


「俺は執行機関、最高幹部の一人。殻曳からひき


 殻曳と名乗った男は両手に分厚い鉈を持っていた。



名前 バグワーム

所属 バグワーム

能力 特殊型アナザー『バグワーム』


解説 バグワームは『バグワーム』であり、バグワームには『バグワーム』な『バグワーム』が『バグワーム』。


――――――

破棄します

――――――


名前 ??双葉

所属 執行機関

能力 召喚型サモン双子座ジェミニ


解説 頭に焼け跡があり、髪の毛が生えていない。この事をコンプレックスにしており、フードで頭を隠している。能力は不気味な人形を二体召喚する『双子座ジェミニ』。黒フードと人形が相まって魔女と言う陰口もあるが本人は気にしていない。能力は『恨み』を根源としており、敵に辛い記憶を思い出させたりする。バグワームにより、焼け跡を消され本来あったべき髪が生えた。その件ではバグワームに感謝しており、貰ったタンポポの髪飾りを肌身から離すことはない。


タンポポの花言葉 「真心の愛」「愛の信託」「神のお告げ」「思わせぶり」


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