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四話 裏の仕事

 記憶喪失で帰る場所がない文秋を私の住んでいるアパートまで連れて来た。


「結構大きいですね」

「家賃が高い分。警備性もいい場所を選んでいるからな」


 私だけなら何処に住んでも問題は一切ないのだが、妹の為にここにしている。


「今、私の妹は高校に行っているからいない」

「先に挨拶を済ませておきたかったんですけどね」

「別に問題はないさ、ここにいてもやる事はないから図書館でも行くか?」

「図書館?」


 そんな仕事がこちらに来ることはしばらくないだろう。それまで、常識を学んで欲しい。


「すまないが私は野暮用があるから、図書館まで案内出来ない。地図は読めるか?」

「はい。多少なら」

「なら、これを渡しておくから一人で行って欲しい」

「分かりました」


 地図アプリを開いてからスマホを渡す。


「あ、そういえば氷藤さんは妙に実践経験があるように見えますけど何かやっているんですか?」

「ちょっとな。文秋が気にすることはないさ」

「そうですか。命のやり取りとかやっている感じがしたもので。すいません。それじゃあ僕は行ってきます」


 文秋は勘が鋭い。だが、こればかりは知られる訳にはいかない。


「私も行くか」


 文秋と別れた後、私は別の場所に移動した。

 マンションから離れたドームの中に入る。本日はここでとある政治家が演説をする。演説自体は私にとってはどうでもいいのだが、それとは別の事で問題がある。


 その政治家に誘拐を予告する内容の文章が届いていた。

 普通の誘拐なら警察やその他機関が出ればいい。しかし、その予告状を届けて来たのが《レジスタンス》と呼ばれる組織だった。


 《レジスタンス》は現実改変者ギミッカーの組織なのだが、(たち)が悪い事にテロリストみたいな思想の元活動している。そして、私が所属している組織とは明確に敵対関係にある。

 彼らの目標は現実改変者ギミッカーの住みやすい世界を作る事らしいが過激な事しかしない。


 今回の場合は影響力のある政治家を予告した上で誘拐するというものだ。こちらの組織に全力で守らせておいて突破した方が組織の信用が下がるからこんな面倒な事をしているのだろう。


 私は会場のトイレに行き、文秋に渡したのとは別のスマホを取り出し電話を掛けた。


()()の者です。配置に着きました。映像をお願いします」


 高い声を意識しながら声を出す。すると、相手が無言のままビデオ通話になり画面が変化した。

 今スマホに映し出されているこれは演説会場の様子である。男が語り掛ける様に話しているが音声は届いていない。


 しばらく、つまらない映像を見ていると唐突に停電が発生し画面が真っ暗になった。トイレはすぐに非常用の電源に切り替わった。

 映像も復旧されると演説をしていた男が消えていた。停電の一瞬で誘拐されたのだ。


「凍れ」


 私は能力を発動させ、会場の()()()()()()氷で包んだ。


 誘拐した犯人が何処にいるか分からないのならば逃げられない様にすればいい。私の仕事はここまで。これ以上の仕事は上乗せ料金を頂く必要が出てくる。

 《レジスタンス》には悪いがお金を稼ぐためには仕方がない事なのだ。


 多分、私の存在は相手側に知られている。これに似た仕事は()()()()()()()()()()()からな。


『こちら側が全滅した』


 私の予想をはるかに上回る実力を相手は持っていたみたいで、こちらの組織は私を除いた現実改変者ギミッカーは倒されたらしい。

 こうなったら、私が出るしかない。


「料金上乗せですね」


 トイレから出て、会場に移動する。

 移動中に顔を隠す()()を氷で作成した。


 会場は殺伐としていた。


 観衆は眠らされ、組織の現実改変者ギミッカーらしき人の血で辺りが真っ赤に染まっている。


「どうも、初めまして」


 とりあえず、声を出してどこにいるか分からない相手を揺さぶる。これで反応してくれない方が能力に自信のない相手で戦いやすいから個人的にはありがたい。


「よお、()()()()さんよぉ」


 いかにも柄の悪そうな女が会場の端っこから歩いて来た。


「これは貴女が?」

「あぁ。そうだ。じゃあ行くぞ」


 女がポケットから石を持ち出した。

 石を出すという事は他の物に頼らないと能力が十全に使えないという事を自分から説明してくれている。


 対人型マインド召喚型サモンではない。


 自己型セルフだと仮定して行動する。相手の能力が完全に分からない以上は推測を立てながら戦うしかない。


 石を使わせるメリットは私には何一つない。それに能力を発動させる前に潰す事によってリスクを限り無くゼロにするのは戦いの基本だ。女の腕を氷で包み拘束した。

 動いている相手の体温を直接奪うのは体力の消耗が激しく伏兵がいる可能性を考慮すれば使えない。


「残念だったなぁ。腕が動かずとも能力を発動させれるんだよ!」


 突如、石が消えた。

 私は直感で自分の周りに能力を発動させ、氷の壁で守りを固める事にした。


 次の瞬間、ラグビー選手にタックルされたかの様な強い衝撃が体に響いた。

 あまりの衝撃だったせいで体が宙を舞う。急な事で少し焦り逆に脳が働いているのか非常にゆっくり景色が移動している。こうしてみると飛んでみるのも楽しいかもしれない。


 地面に触れる寸前で氷を作り出し、摩擦を最小限に抑える。


 壁に当たり、体が止まった。一体何をされたか分からなかったが、大したダメージはなかった。


「氷の女王は本当に化け物らしいな。オレの能力をもろに喰らっておいて、そんなに平気だったのはお前ぐらいだな」

「そうですか」


 守りに使った氷を見てみると石が食い込んでいた。

 女の腕は一切動かせないはずなのにどうやって攻撃をしてきたのか。疑問を元に予測をしていく。


「そうそう。こっちはそっちの能力を知っている。それは不公平だし、そんなんで勝った所で何も面白くねえ。だから、教えてやるよ。オレの能力は『相対性理論を勝手に解釈して物体に適応させる』ていう能力だ」

「相対性理論ですか」

「ああ、さっきの石の場合は『光速ぐらい速い物体は縮んで見える』なら『縮んで見える物は光速に近い』という解釈を石に適応させた。私が縮んだと思い込めばその石は弾丸よりも早く発射されるって訳だ」


 相対性理論についてはさっぱり分からない。だが、相手は特殊型アナザーだという事は十分に理解した。


「他にも凍った腕には『エネルギーは重さに比例する』を解釈して『熱エネルギーは重さに比例する』を適応すれば……」


 私の能力で作り出した氷が蒸発し始めた。


「この通り、氷は熱エネルギーを持ち溶ける」

「素晴らしい能力ですね」

「誉めてもこの戦闘は終わらないぞ」


 これは厄介な相手と対峙してしまった。


 私の『温度を限界無く下げる』能力みたいに単純明快ならば、対策や弱点を見つける方法を模索出来た。しかし、目の前の女の能力は私には訳が分からない。


 なら女が動く前に氷漬けにすればいい。


「……オレを凍らせればいい。お前はそう考えるだろう。だがな、お前の能力は知覚して初めて発動される。なら『質量が大きい物の周りは空間が歪む』更に『スピードのある物は質量が大きくなる』」


 氷が全く見当違いの場所に出現した。


 女の言葉から察するとまた石が飛んでくる。正直こればっかりは仕方がないが、相手が強すぎる。


 バグワームほどではないにしろ、現実改変者ギミッカーの中では上位に入る程の強さだ。正攻法では勝てる未来が一切見えない。

 

――だから、私は本気を出す。


「この世に存在するあらゆるモノは原子の組み合わせである分子で出来ています。これに関しては一切の例外はありません。そして、それらの分子は常に振動しています。それならその振動している行為がない状況、つまりセ氏マイナス二七三・一五度の時はどうなるのでしょうか?」


 能力を発動させる。


 例え、空間が歪んでいようがどれだけ早かろうがこの能力の前には一切関係はない。なぜなら全てが止まるから、そこには歪みも熱もない。


 女は私がしている事に気づき両手を上げ降参の意志を示した。


「氷の女王。今回はオレの負けだ。だが、次は勝つからな。オレの名前は西火燈火(にしびとうか)だ」


 最期の最後に名乗ってから燈火が消えて行った。己に能力を作用させ、私から遠ざかる様に逃げたのだろう。

 政治家の男は拘束された状態で地面に転がされていた。これなら護衛をするという任務は成功したといっても過言ではない。これ以上厄介な現実改変者ギミッカーと戦いたくない。


 この場所で使った能力を解除する。外の囲いの方にも氷を繋げ、解除する。これで《レジスタンス》の奴らは逃げられるだろう。

 別に捕まえることは一切言われていないのでやる気はない。


 スマホを取り出し、先ほどと同じ相手に繋げる。


「追加料金込みで振り込んで下さい」


 一方的に伝え、誰もいない所で仮面を取った。


「はあー。疲れた。こんな安定しない仕事はもうやめにしたい」


 本音が声に出てしまった。この依頼の戦闘で私は一人だった。私の能力にも弱点はあるにも関わらずチームを組まずに戦った。

 それは自分が所属している組織に誰一人信頼できる人が居なかったから致し方なくやっていたことだ。


 今度からは文秋とチームで戦う。それだけで随分安定して戦えるだろう。


 それに『氷の女王』なんてキャラクターを演じるのも飽きた。氷の仮面を被り、女性の振りをする。単に素性を晒したくないという理由でやっていたがチームとして正式に地位が上がれば顔を晒しても問題なくなる。


 今の今まで素性を隠していたのにはちゃんと理由がある。


 もし、一人で危険な仕事をすれば組織の中で異質な存在として認識されてしまう。人間の()()というのは敵ではなく味方に向く傾向がある。

 敵対組織に嫌われる分には問題ないのだが、一番の敵が身内になってしまったら生活しにくいったらありゃしない。


 逆にチームで功績を上げれば「チームワークのお陰」という言い訳が生まれる。そうすることによって嫉妬の目は少なくて済む。


「今日で氷の女王は引退だ」


 さっきまで使っていた仮面を放り投げる。


 仮面が地面と接触し、氷が真っ二つに割れた。


名前 西火燈火

所属 レジスタンス

能力 特殊型アナザー『相対性理論を勝手に解釈して物体に適応させる』


解説 好戦的な少女であり、言葉使いが荒い。氷の女王と戦闘する際に能力を明かすなど公平フェアな戦いを好む。彼女の能力は高火力な分、精密性が低く仲間に誤爆しやすい。そのため、一人で氷の女王と戦う事になった。強い能力に見えるが一番の凄いのは彼女の思い込む力である。戦いを好む性格はこの思い込む力の強さが関係しているのかもしれない。

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