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三話 能力の分類

「他の現実改変者ギミッカーについて話をする」


 文秋は現実改変者ギミッカーについての知識をほとんど持っていないと言っても過言ではない。


「他の人達ですか?」

「ああ、あくまで分類とかの話をするだけだからそこまで難しくない」


 スマホのお絵描き機能を使って真っ白い画面にする。残念ながらペンは持っていないので指で描くしかない。


「まず、現実改変者ギミッカー自己型(セルフ)。自然型。対人型(マインド)召喚型(サモン)特殊型(アナザー)。これら五つのタイプに分けられる」


 自然型以外には当て字が振られている事を明確にする。


「分かりやすいように既に見たことのある奴らで当てはめてみるぞ」


 ページを移動させて真っ白いページにする。


「まず、自己型セルフ。これは自分自身が能力の対象になっている。文秋の『虚無な実像』やさっきの透明人間はこれに当てはまる」

「自分そのものを改変しているということですか?」

「その認識で構わない。単独で戦えるのが特徴だな」


 肉付けした棒人間っぽい絵を描き、オーラを纏わせる。自己強化的な認識を持ってくれればいい。


「次に自然型。これは私の『温度を限界無く下げる』の能力が当てはまる。自己型セルフとは違い自分以外が主な能力の対象になっている。対多人数に優れている場合が多い」

「魔法みたいなものですね」

「魔法。ああ、それがいい」


 後で説明しようとしていた重要な事を魔法という言葉を使えばすぐに説明できる。


「基本的に現実改変者ギミッカーの能力は魔法みたいに打てる上限がある。体力というかなんというかそういうものを消費しながら発動している」

「じゃあ、やたら滅多に使うことは出来ないんですね」

「確かに使い過ぎは無理だが、能力によっては早く回復する方法はある。これに関しては実践で知ればいい」


 次からの説明が難しい。対人型マインド召喚型サモンはまだ文秋は出会っていない。


対人型マインドは他人を限定する能力。精神支配や特定の()を限定する能力分類される。召喚型サモンはどっかから何かを召喚する奴だ」


 この二つはまだ出会ってもいないから軽い説明にした。一気に詳しく説明しても頭の整理が追い付かないかもしれない。そのタイプの現実改変者ギミッカーに出会った時にまた詳しく教えればいい。


「最後に特殊型アナザーこれは前の奴に分類されない奴もしくは()()を備えた奴だ」


 説明が面倒なのに重要なのが特殊型アナザーという分類なのだ。


「文秋が出会った中では、バグワームがこの分類に入る。奴の能力はまだ解明されていないが、私がさっき説明した全部を備えた方に入る。そして、現実改変者ギミッカーの表立って頂点に立つ存在の能力は『五キロの範囲を自由に改変する』というこれも全部を備えたほうに入って来る」

「凄い能力ですね」


 確かに文秋の言う通り特殊型アナザーは分類される人間は強い、だがその分類に入る現実改変者ギミッカーは一番少ない。


「この特殊型アナザーの奴らは強い。基本的に私たちが相手にするのがこいつらだ」


 勿論、他の系統の現実改変者ギミッカーも犯罪に手を染めたりするがその場合はただのバカの可能性が高いためあまり気を使わなくてもいい。

 最低限の事を絵も用いながら、なるべく分かりやすく説明したつもりだ。


「ざっとここまで説明したが、質問はあるか?」

「僕の『消滅』はどの部類に入るんですか?」

「どんなものでも消すなら、特殊型アナザーに入る。人間のみだったら対人型マインドに入るし、生物以外なら自然系に入る。それらが断定できなければとりあえず特殊型アナザーに入るからな」


 実は私が説明した系統の召喚型サモンはとある一つのものが基準になっているが、それは文秋が戦闘していく内に気づくのが一番いい。

 すべてを教えるのが最善とは言えない。更に言えば、私は文秋に一つ嘘を吐いた。それに気づく頃には文秋は()()()()()()()()になっているだろう。


 二人で更なる高みを目指す為に成長していくしかない。


 話が終わり、丁度いいタイミングで腕時計が振動した。


「文秋。仕事が入った」

「いきなりですか?」

「安心しろ。今回は簡単な部類の奴だ」


 文秋の初仕事に丁度いいレベルの仕事だ。


 ――――――


 現場は先ほどまでいたビルのすぐ近くの人気のない裏路地。


「どんな事をすればいいんですか?」

「ただの喧嘩を仲裁すればいいだけだ」


 今回は現実改変者ギミッカー同士がどうせ下らない理由で喧嘩しているらしく。それの仲裁をするというものだ。

 ただの喧嘩なら警察が出れば基本一発解決だが、現実改変者ギミッカーの喧嘩は普通の警察が出ると死ぬ可能性も少しはあるので、我々の組織が対処することになった。


 私たちの前では二人の男が喧嘩をしている。


「すぐに止めに行かないんですか?」

「いや、まずは情報を集めるんだ。どんな能力を持っているのか。どの系統か。弱点は何なのか。出来る限りの情報を集めないと安定して勝てない」

「分かりました」


 しばらく喧嘩を様子見をする。


 区別をする為に言葉が荒い方は金髪男。高圧的な態度の方を固め髪と呼ぼう。


「クソが! てめえが舐めた真似してくれたせいでナンパに失敗したじゃねえかよ」

「ふ。お前如きが俺様のテリトリーで活動していたのが悪い」


 金髪男は召喚型サモンで衝撃波を出す金属バットを召喚する能力。固め髪の方は対人型マインドの軽度の幻覚を引き起こす能力だろう。


「当たんねえ」

「俺様に触れることすら出来ないだろう。お前程度ではな」

「二日酔いの時みたいだ。あったまいてえ」


 追加で固め髪の方は幻覚に三半規管を狂わせる能力がある。


「文秋。分かるか?」

「はい。自己型セルフ対人型マインドですね」

「一人で行けるか? 私がやればこの案件は一瞬で終わる」

「はい。少し苦労してみたいと思います」


 文秋が一人で二人の前に出た。


「誰だ!? てめえ」

「僕は第二支部の者です」

()()()()はもう嗅ぎつけたのか」

「お前一人だけか」


 小さく文秋が頷くと二人は戦意を文秋一人に向けた。


「悪いが、俺はまだ捕まりたくないんだ」

「俺様を捕まえようなどと甘い考えは捨てるんだな」


 固め髪が距離を取り能力を発動させる。そして、金髪男はバッドを地面に叩きつけ威嚇をした。コンクリートの地面に罅が入る。


「喰らいやがれッ!」


 剣道やその類の経験がないのか金髪男は適当にバットをスイングした。勿論、『虚無な実体』の能力を持つ文秋には当たる事は無い。

 しかし、金髪男もただの馬鹿では無いらしく文秋の能力を気付き縦にいや()()()バッドを振るった。


 地面を狙ったのはいい判断だったが、それは文秋が一切動かず慢心していたらの話である。


 元々、型も何もない振りの為軌道を読みやすかったのか文秋は金髪男の手首と肘先を掴み、そのまま一本背負いをした。もしかして、文秋は記憶を失う前は柔道をやっていたかもしれないと思わせるほどきれいな投げだった。


 金髪男は白目をむいて気絶していた。


自己型セルフじゃないですね。先ほどの地面を割る程の力があればこの程度じゃないですから」


 文秋は金髪男が自己型セルフではない事に気づいた。初めて出会うタイプが故に召喚型サモンだという事は分かってないが分析力は悪くはない。


「次はあなたです」

「そろそろ俺様の能力が効いた頃だろう。酔え! そして倒れろ!」


 固め髪の能力すら『虚無な実体』の前では無力だった様で文秋は何をされているか分からず、首を傾げながら近づく。


「な、何故だ。俺様の能力を数十秒浴びているはずなのになんで狂わない?」

「すいません。僕の能力の都合なんです」

「ヒッ! く、来るな」


 固め髪が逃げ出した。


 文秋は追う気はないらしい。逃がしても大した問題にならない程度の相手だが、喧嘩両成敗という事でどちらも捕まえておく。


 固め髪の足元に氷を出現させる。滑る地面と引っ掛ける氷を両方用意したため、前方に向かって転んでくれた。そして、そのまま体温をある程度奪い眠らせる。


「お疲れ」

「いや、最後に逃げられかけてしまい。迷惑を掛けました」

「気にしなくてもいいぞ。今回は経験を積むために一人でやったが本当は私と二人でやるからな」


 回収班を呼びこちらに来るまでに文秋と反省をする。


「今回あの金髪の人が最後に妙な行動をしたというか。僕じゃなくて地面を狙っていたというか」

「それは【透過】能力対策の基本だな」

「基本ですか」

「ああ、【透過】は防御力に関しては最強にも見えるが、地面を攻撃されることによって足裏に能力が発動してしまえば、()()()

「落ちる?」


 そうなってしまえば、結構悲惨な結果になってしまう。そうなる前に話すか。


「その状態で能力を解除すれば、地面の方が優先されてその埋まっていた体の部分は()()()。そうなってしまえば、断裂面から血が大量に出て酷い事になる」

「能力を解除をしなければいいと思いますが」

「そうしたら、地中にどんどん沈んでいく」

「でも、埋まっている所だけ能力を発動しなければ落ちないはずでは?」

「そうすれば、むき出しの肉や骨で体を支える事になって気絶するほど痛いらしいぞ。まあ、大きな隙を晒していいのなら手を使えば何とか抜け出せるけどな」


 どんな現実改変者ギミッカーも弱点がある。その弱点がバレないように立ち回るのも戦闘の中では重要事項の一つだろう。


「私にだって弱点はあるし、文秋にだって弱点がある。それを補い合う為に信頼できる仲間とチームを組むこと必要不可欠なんだ」

「もしかして、僕たちってチームなんですか?」

「私はそのつもりで動いているけどな。文秋が嫌なら別に強制はしないが」


 私のある目標を達成するためには仲間が要る。私には他人を信用するという事にトラウマがある。それ以降、誰とも仲間として組むことはなかった。例え同じ組織に属していても嘘偽りで隠した。


 そんな毎日を疑っていた時に文秋に出会った。初めて見た時はただの無謀な事をする少年だと思っていたが、バグワームという危機から助けてくれた事も踏まえて彼には揺るがない正義を感じた。


 常に疑心暗鬼な私がやっと信頼できる人を見つけたのだ。こんな奇跡は今後訪れる気がしない。


「僕なんかと行動してくれるだけでありがたいのに、信用してくれるなんて。本当にありがとうございます。氷藤さんの為に頑張ります」

「なんかって言うな。文秋は立派だ。それに私の為に頑張るんじゃなくて、自分の記憶を戻す為に頑張れ。自分の為じゃないと人間続かないしな」


 冷静に言葉を返す。結構嬉しい事を表に出すのは恥ずかしいし、そんな姿を見られて幻滅されては元も子もない。


「どうもー回収班です。おお。バグワームを倒した二人じゃないですか」


 今回も配達員のような服の女性の人が虚空から姿を現した。


「えーと。今回は喧嘩の仲裁ですね。大手柄の次に地味な事をしますね。まあ、そんなことはどうでもいいですが」


 この人はいつも一言多い人とか思われているタイプの人だな。


「そうそう。名無文秋くんが第二支部に入隊を正式することが認められました。この事で、第二支部のボスから伝言を預かっているんですよ。そのまま伝えると『君はどこの誰かな?』。だそうです」

「僕はどこにでもいるただの男ですよ。ただ、最近ツキが回って来ているだけです」


 文秋は少々自分を過小評価している節がある。それ自体は悪い事ではなくむしろいい事なのだが、現実改変者ギミッカーでこの考え方は少々()()()()()()()


 普通、現実改変者ギミッカーは自分の能力を過信し、自分を高く見ている。人類の一握りしかその能力を使えないのだから当然慢心をする。

 なにかしらの過去があるのなら、理解できるが文秋は記憶喪失が故にそんな過去は持ち合わせていないはずだ。


 ……やっぱり、まだこの疑ってしまう病は治りそうにない。


「じゃあ、私は回収したので帰ります。ボスにはちゃんと()()()()()()()に伝えておきます」

「あ、ちょっと待って下さい。もし、よければ。お姉さんの能力の分類を教えて貰ってもいいですか?」

「うーん。いいよ。私の【テレポート】は対人型マインドだよ。自己型セルフにも見えるけどこうやって他人を運べるからね。これ以上詳しいことは秘密かな。じゃあね」


 回収班の女性が男二人を連れて消えた。


「何か悩み事ですか?」

「いや、大丈夫だ」

「なら良かったです。質問があるのですがいいですか?」

「ん? なんだ」

「氷藤さんの目的ってなんですか?」


 目的。まあ、文秋には記憶を戻すという目的があって私と行動してくれている。逆に私はなんで文秋と行動するかの目的が気になるのは当然の考えだろう。


「お金だよ」

「お金?」

「汚いイメージがあるが、この現代を生きる上で絶対に必要なんだ。私の場合は妹が大学に行くための資金で必要なだけなんだけどな」

「すいません。お金ってなんですか?」


 警察の次はお金か。一般常識の欠落をしている文秋にお金の説明するには少々難しい。


「まあ、そのうち分かる。とりあえず、今文秋に帰る場所はないだろ? 家に来るといい」

「いいんですか?」

「私と文秋と同い年位の妹の二人しかいないからな。部屋も空いてるし何とかなる」


 文秋は記憶喪失のせいで家族構成や家の場所すらも覚えていないだろう。捜索届けが出ている可能性も十分あったがいろんな情報網を使って調べてみた所、リストの中に名無文秋という名前は一切なかった。

 そもそも、名無という苗字が珍しく念のためカタカナで検索もしたが何一つ出てこなかった。


 こうなれば、仲間である私の家に泊めても問題はない。


「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」



名前 名無文秋

所属 執行機関

能力 自己型セルフ『虚無な実体』特殊型アナザー『消滅』


解説 記憶を失い名前しか思い出せない状態で氷藤と出会った謎多き少年。能力を二つ持っているが『虚無な実体』の方を基本的に使う。戦闘経験は少なく、現実改変者ギミッカーとの闘いを知らない。柔道を習得しているのか投げ技が攻撃を得意とする。正義感が強く、困っている人がいると体が動いている時が多い。失った記憶を取り戻す為に行動をすることは滅多にないが、楽しそうな事には積極的に参加する気質がある。

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