十七話 チーム戦
翌日、仕事を終わらせた後に公園で文秋と待ち合わせをした。
「氷藤さん。これを見て下さい」
「なんだ? これは」
出会ってすぐに文秋がスマホの画面を指さしながら見せて来た。
「僕たちのチームの順位がこんなに上にあります」
「本部。支部合同のランキングか。一、二……三位!?」
「そうです。この名前のないチームが僕たちです」
まさか、結成して三日で三位になるとは。多分、バグワームの確保のポイントが大きく貢献しているのだろう。これだけポイントがあれば本部に昇進できるのも時間の問題だろう。
ランキングを見ていると他のチームには名前があるのに私たちのチームにはまだ名前がない。気にする事ではない事は分かっている。しかし、名前がないチームというのはぱっとしない。
「名前が無いのも不便だな」
「そうですね」
「何かアイデアはあるか?」
「『縫』というのはどうでしょうか?」
文秋は漢字を書き、提案してきた。
「この文字は糸で縫うとかで使う文字です。僕と氷藤さんの繋がりの縫い合わせを表現しました。どうでしょうか?」
「いいんじゃないか。文秋が考えたのなら私はそれに従う」
文秋がふと決めたチーム名ではない。会話の流れからチーム名は元々考えて来ていたのだろう。じゃないとこんなにすぐに決められるはずはない。
「じゃあ、決定しますよ」
「機械の扱いにも慣れてきたな」
「はい。教えて貰ったお陰です」
三日前に記憶を失った少年が徐々に記憶を思い出し、この世界にも適応し始めている。文秋が異世界の神という特殊な出生を持っているせいなのか、変な奴らが文秋の周りに集まって気がする。
特にバグワームと榊原由美。この二人は何か明確な意思があって文秋に近寄っていると感じている。
「今日は何をしますか?」
「見回り位しかやる事はないな」
誰かが脱走犯をほとんど捕まえたせいで警戒した残りの脱走犯を探すのは難しくなっている。
「そうですね。じゃあ、行きましょうか」
「あのぉーすいません。あなたは執行機関のチーム縫の文秋さんでしょうか?」
「はい。そうですけど」
「分かりました!」
文秋に少女が話しかけて来た。この子も執行機関に所属しているのだろう。だから、文秋の名前を知っていても可笑しくはない。急上昇しているチームのメンバーを知っていることに不思議さは全くない。
しかし、顔を知っているのは変だ。名前はランキングで分かっていても顔は分からない。それにチーム名も今さっき決めたばっかりなのに知っているのも不思議だ。
優れた情報網を持っている人間なら、知っているかもしれない。あるいは。
これらの情報を統合すると……この少女は裏の人間だと推測できる。
「危ない!」
何かを突き出そうとしていた少女の手を凍らせる。
「これは。イヤホンですね」
「この氷。みぃつけた! 白髪のあなたが氷の女王ですね」
「なぜそれを?」
「私。私たちは暗部です」
氷が消えた。
こんな能力を持っているのはこいつは逆向時計。暗部に所属している子だ。
通りで情報が異常なまでに早いと思った。
「あなたが居なければ、私は仕事をする気になれないんです。もし、あなたが働きたくないとお思いだったら、私と暮らしませんか? 何をなさってもいいです。できれば、いっぱい褒めて欲しいですけどぉ……。今すぐ、チームごっこなんて辞めませんか?」
暗部は正直好きではない。汚い仕事をしないといけない人が嫌いという訳ではない。
単純に向こうが私の事を嫌っているから私も嫌いなのだ。
定例会議だって、私だけ一時間遅れた時間を伝えられて私が居ない内にみんなで楽しく話しているのを知っている。そして、私が来た時に一斉に静かになって気まずい雰囲気が流れる。
文秋にも話していないが、私が暗部を抜けたかった理由の一つがそれである。
「駄目みたいですね。分かりました。では、私たちから逃げられないという事を文秋さんの死を持って分かって頂くしかないですね」
「煙幕か!」
すると、彼女は地面に何かを叩きつけた。煙幕が視界を塞ぐ。
私の能力の効果範囲は『知覚した場所』までという事を知っての行動だろう。
目を潰すのは悪い判断ではない。しかし、文秋の能力は攻撃をすり抜けさせる。相手も前を見えていないのは同じ、目の前の相手に攻撃が当たらなければ攻撃対象を失う。
「当たらない!?」
「オイ! 奴は確かにそこにいる! 能力を発動させやがれ!」
この怒声は追跡者か。奴もいるから、煙幕を使ったのか。
これはまずい事になった。逆向時計の能力によって文秋の動きが止められている可能性が高い。
目の前が真っ白で全然分からないが、聴覚で周りを大体認識できた。もし一撃の殺意や万能装備の高火力の奴らがいれば文秋にダメージが入る。
この際。こちらも攻撃をするしかない。
一瞬で文秋ごと周りを凍らせた。
「いつ見ても素晴らしい能力ですね。だからこそ、あなたならそう行動すると予想していましたよ」
この紳士ぶっている声は一撃の殺意だな。奴の目の前で傷を負えば持ち通り一撃で死に至る。凶悪な能力だが、奴自身の戦闘能力は皆無。氷を砕くことすらできないはずだ。
「勿論、対策もしてますよ。ガスバーナーって知ってますよね」
これはまずい。すぐに氷を解除しなければならないが、そうすると文秋に攻撃をされてしまうかもしれない。しかし、この時点で私は三人しか来ていない事を確信した。
万能装備と幹部の男がいれば、ガスバーナーなんて回りくどい方法は使うはずがない。あの二人なら氷なんて一撃で粉砕することができる。
能力を解除する。凍っていた煙幕が視界を狭める。
この煙幕が私たちを勝利に導いてくれる。
ガスバーナーによって火を点けられた煙幕は小規模な粉塵爆発を起こした。殺したくはないので爆発範囲にいる奴らを全員氷で防御をしている。
「文秋! 『消滅』を氷に使え!」
逆向時計を守っている氷ごと動かされることでイヤホンが外れ、文秋が動けるようになった。能力の解除は直接触れないといけないので意識のある文秋に消して貰うことで氷を消した。
「流石。氷の女王です。奇襲を冷静な判断で躱しましたね」
冷や汗が出る。粉塵爆発も半ば賭けだった。文秋との連携を妨害されて、ほぼ一人で戦う羽目になってしまった。この三人も前と比べてかなり成長している。
暗部のメンバーがもう一人いたら、勝てなかったかもしれない。
「しかし、僕たちは目的を達成しました。あなたがチームを組んだ文秋という男に一撃。一撃を与える事に成功しました」
「まさか!」
ドサッ。何かが倒れた。
「僕の能力を覚えていますよね。ほんの掠り傷であっても僕の目の前ですれば致命傷になります」
「クソッ!」
「これで、分かりましたよね。暗部から逃げることは出来ません。特に氷の女王。あなたはね」
こいつらは頭の螺子が数本外れている。私の命を狙うのならまだ分かるが、関係のない文秋を狙って来る。
すぐに文秋の元に駆け寄り、傷口を凍らせる。これで即死は避けられるはずだ。
「お願いします。戻って来て下さい!」
「そんな方法で戻って来るとお思いですかね。私はそうとは思えませんよ」
「な……ぜ、おまえが」
一撃の殺意が倒れた。手に杖を持つ仮面の女の子が攻撃をしていた。
「はあ。すいません。この人達がここまでやるとは思いませんでした」
「お前は万能装備か」
「そうです。あなたの妹分です」
彼女が今更、一撃の殺意を倒した所で能力が止まる事はない。文秋は泡を吹き気絶している。
「そちらに隠れていた方が何か案を持っているのではないでしょうか?」
「俺の場所がバレていたか。まあいい。俺の名前は殻曳と言う。お嬢さんはその少年を治したいんだろう。一つ方法がある」
「なんだ?」
殻曳。確か、榊原の家にいた謎のおっさんだ。こいつが何か治療する方法を持っているのだろうか?
「宇宙の技術を使えば彼を治せる。ここに目的地までのワープ装置がある」
「都合が良すぎる」
「私は榊原から指示されて動いている。文秋という少年は近いうちに死にかける。その時にこの提案しろっとな」
あいつは一体何が目的なんだ? 文秋が襲われる前提で動いているのか。そんなの普通じゃない。榊原の考えが一切分からない。
だが、一つでも望みがあればそれに縋るしか方法はない。
「分かった。それを使って宇宙に行けばいいんだろ」
「ああ、そうだ。しかし、今向こうは革命をしている。命の危険があるぞ」
「それでもやらないといけないだろ」
「治す機械は王族が持っている。奴らを力づくで説得して機械をここに持ってくるんだ」
ワープ装置とやらを受け取る。
「同行してもよろしいでしょうか。少なくとも足は引っ張りませんよ」
「お前は暗部の」
「私はこんな事をするのは反対でした。止められなかった責任を自主的に果たしたいだけです」
信用は出来ないが彼女の能力は役立つ。
「体が触れていれば一緒に転送する」
万能装備が私の肩に手を置いた。つまり、決心はついているという事だ。
「行くぞ」
装置を押す。すると、景色が変わり気付けば荒廃した都市にいた。
名前 一撃の殺意
所属 執行機関 暗部
能力 召喚型『一撃の殺意』
説明 彼の目の前で少しでも傷を負ってはいけない。ターゲットにした相手の周りに傷口に侵入して体を破壊していくウイルスが漂うからだ。これが彼の能力である。だから、彼は自分の能力を対人型としていたが本当は召喚型である。
彼は氷の女王を敬愛しており、どこの馬の骨かも分からない奴とチームを組んでいると知った時に強い殺意が生まれた。
名前 追跡者
所属 執行機関 暗部
能力 対人型『追跡』
説明 一昔前のヤンキーのようにいつも何かにガンを飛ばし、暴力で訴える。だが、彼の能力はそれとは真逆で仲間のサポートに特化している。その能力は相手の居場所が分かるというもので戦闘能力は皆無である。その代わりに指揮能力が高く、戦闘時は冷静になっている。
氷の女王をリスペクトしている。文秋という男とチームを組んでいる事を知っても、それが彼女の決定なら特に反対するつもりは無かった。しかし、二人の考えにも納得していたので文秋への攻撃を援助した。