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輪廻

作者: アメツチ

昔、王様とお妃様との間に、

4人の女の子が生まれました。この子達は、

一番最初に生まれた子は春を、次に生まれた子は夏を、

その次に生まれた子は秋を、そして最後に生まれた子は冬を司る者になるとこの国の魔法使いに運命づけられました。

今までこの国の季節は王様のお姉さんたちが司っていましたが、皆歳をとってしまい、そろそろ次の季節を司る者達が必要だと思っていたので、この新しい季節の司り手の誕生に皆喜びました。これは、そんな新しい季節の司り手のお話です。


冬を司るお姫様は他の四季を司るお姫様より綺麗でした。他のお姫様たちもとても美しいのですけれど、冬のお姫様には敵いませんでした。雪のように白い肌に真っ赤な唇、髪は漆黒、その瞳は氷のように冷たく美しかったのです。


この国では季節を司る者は年の4分の1を塔の中で過ごさなければなりませんでした。そうしなければ、季節が回らないのです。お姫様たちは7歳からそうして自分の季節になると塔に入り、この国の季節を回していました。塔には自分以外の生きている者は誰も入れないので、お姫様たちは少し寂しかったですが、この国のためだと頑張っていました。


そしてお姫様たちが20歳になったとき、4人とも他国の王子様と結婚しました。春のお姫様は豊穣の王子、夏のお姫様は海の王子、秋のお姫様は紅葉の王子、そして冬のお姫様は木枯らしの王子と結婚しました。どの王子も皆美しく、お姫様も幸せでした。

しかし時が経つにつれ、春のお姫様が豊穣の王子に不満を持ちはじめました。

「美しさ以外はなんのとりえもない、ただの男だわ」

と、いつも不満を言っていました。そして、

「木枯らしの王子はいいわ。あの美しい見た目と優しさを兼ね備えているのだもの」

これも、春のお姫様の口癖でした。


春のお姫様は他のお姫様たちに比べて、気が強かったのです。自分は春を司るお姫様で、国の人たちは恵みをもたらす春を四季の中でも特に敬っていたので、春のお姫様の性格はどんどん強くなっていきました。そして自分たちより美しい冬のお姫様をあまり好んではいなかったので、いつも冬のお姫様に辛く当たっていました。「お前は人々に不幸しかもたらさない。」といつも冬のお姫様に言っていました。ですから冬のお姫様は無口で、氷のように無表情なお姫様になりました。しかし、そんな氷のように冷たく憂いを帯びた瞳は、年を重ねるにつれて美しさを増していったのです。


冬のお姫様は木枯らしの王子と結婚しましたが、お姫様はあまり王子のことが好きではありませんでした。美しくて、何より優しい。優しすぎたのです。

「寒くはないかい?何か温かい飲み物でもいれさせようか?」といつもニコニコしてお姫様を気遣うのです。お姫様はそれが彼の素の優しさと知っていましたが、私は人々に不幸しかもたらさないから、彼もいつか春のお姫様のように自分をいじめるのだといつも思ってしまうのです。


しかし彼は本当に優しく、自分を気遣ってくれているのだとわかると、徐々に彼に対して心を開き始めました。王子は嬉しくなって、お姫様の好きなこと、好きな食べ物などを話して、本当に幸せな日々を過ごしました。


それを気に食わない春のお姫様は、王子に冬のお姫様のあることないことを言って別れさせようとしました。しかし王子は冬のお姫様を深く愛していたので、そんなことでは揺らぎません。そして怒った春のお姫様は豊穣の王子に冬のお姫様が一番好きな林檎を実らせて毒を塗って冬のお姫様に食べさせてしまえば、姫は倒れ、木枯らしの王子は自分のものになると思って、ふたりの住む所へ遣いをやって林檎を届けさせました。


2人は春のお姫様の突然の届け物を少し不審に思いました。普段あんなに邪険にしているのになぜ今届けたのか?

「リンゴは本来私の眷属だから、冬に実るはずよね、今は夏だわ…」とお姫様は首を傾げましたが王子が

「仲直りのしるしに送ってきてくれたんだよ。それに春のお姫様は豊穣の王子と結婚したのだから、どの季節の果物でも実らせられるだろう」と言うと、ぱくりとりんごを食べてしまいました。その途端、王子はバタンと倒れ、死んだように眠りました。いや、これが死というものなのでしょう。冬のお姫様がもたらす冬より冷たく無慈悲に冷たくなる王子の身体に、冬のお姫様は深く深く悲しみ、住んでいるところから出てきませんでした。毒の林檎を姫ではなく王子が食べてしまい王子が死んでしまったことをきいた春のお姫様は深く悲しみ、自分はなんてことをしたのかと思いました。


そして季節は回り、冬のお姫様が塔に入る時になりました。周りの人はそのとき王子が死んでから初めて冬のお姫様を見ました。周りの人は冬のお姫様の前と変わらない美しさに安心しましたが、以前にもまして氷のように冷たい瞳に人々は恐怖するとともに惹き付けられずにはいられませんでした。そして冬のお姫様の後ろに大きなものがあるので不審がってよく見てみると、そこには透明なガラスにいれられた王子が眠っていました。生きていた時と変わらないその美しさに周りの人は驚くとともに死んだのにも関わらず埋葬しない冬のお姫様におびえました。冬のお姫様は周りの人に「彼と私をあの塔まで連れていきなさい」といいました。すると年老いた人が「なりません。あの塔は姫様以外入れませぬ。」というと、冬のお姫様はその年老いた人を睨みつけて、「あれは自分以外の生きている者は入ってはならないと言われているけれど、死んでいるものはだめなどとは言われていないわ」といい、周りの人に王子の遺体を運ばせました。


そして冬が来ました。今年の冬はいつもの冬と違って吹雪が多く、風も冷たくまるで人を刺すかのように吹くので 国の人たちはみんな「冬が怒っているようだ」と言いました。


辛い辛い冬はもうじき終わりだと周りの人々は喜んでいましたが、いつまで経っても冬は終わりませんでした。冬のお姫様が塔から出てきてくれないようなのです。そして春のお姫様も冬のお姫様にどんな仕返しをされるかわからないと怯えて塔に近づけないのです。困った王様は


冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。 季節を廻らせることを妨げてはならない。


というお触れを出しました。いろんな人が褒美を目当てに参加しましたが、冬のお姫様はどうやっても出てきてはくれませんでした。


「ねぇ、王子。この国の人は皆四季が回らないと困る、褒美が欲しいなど自己中心的な理由で私を外へ出したがっているわ。私はこの国のためだと7歳の時から1年の4分の1をここで過ごしているけれど、1度だって感謝されたことはないわ。皆はそれを当たり前だと思っているし、冬なんて飢えと寒さしかもたらさないから早く春になってほしいと思ってる。冬があるから春があるのにねー」

そう言うと冬のお姫様はガラス出て来た棺桶に静かに涙をこぼしました。とても冷たい、氷のような涙でした。

「あなたがいない世界なんて死と同じだわ。だったら、感謝も何もしないこの国の人たちと一緒に、静かに雪に覆われて死のうかしら」と言うと疲れて眠ってしまいました。


冬のお姫様が塔から出なくなってから、木枯らしの王子の国に木枯らしの王子が死んだというのが伝えられました。人々は深く悲しみました。そして 冬のお姫様が死んだ王子と共に塔に閉じこもってしまったことにも深く心を痛めました。そしてその国の王が褒美を与えるから冬のお姫様を殺さず季節を回してほしいというお触れを出したことを知りました。

すると、木枯らしの王子の弟のならい風の王子が、その話を聞くとすぐ冬のお姫様がいる国へ旅立ちました。


木枯らしの王子の弟が来たということで皆 ならい風の王子を厚くもてなしました。彼は木枯らしの王子とそっくりな顔と声をしていました。2人は見分けがつかないほどよく似ていました。

そして彼は1人で塔に行くと言ってそのもてなしをあまり受けないまま塔へと向かっていきました。


季節を回す塔は冬のお姫様を守るように周りは吹雪で荒れていました。ならい風の王子はなんとか塔へたどり着き、姫に呼びかけました。


「冬を司る姫君よ、少し話をさせてください。ここは冷えますから、中に入れては頂けませんか?」

というと、

「ここは私以外の生きた者は入れない決まりなの。あなたも褒美目当てで来たのでしょう?申し訳ないけれど、帰ってくださるかしら」

とか細いけれど氷のような冷たい凛とした声が返ってきました。そしてならい風の王子は、

「私はあなたの夫の木枯らしの王子の弟です。どうか、少しだけで良いからお話をさせてはいただけませんか?」

と言うと、姫は少し考えた様になって、扉を開けました。

「どうせこの国も終わるのだから、もうこの規則に縛られる必要も無いでしょう。どうぞ、中へ。」

と言ってならい風の王子を中へと入れました。中も相変わらず冷えてはいましたが、外よりずっとマシでした。


「あなたが木枯らしの王子の弟さん?」

「はい。」

「そう。あの人は『自分によく似た弟がいる。そいつはとても勇気と知恵がある』と言って楽しそうにしていたの。あなたがその弟さんなのね。ほんとに、あの人とよく似ているわ…」

というと、冬のお姫様は悲しそうな顔をしました。


そうするとならい風の王子は、

「私は夢で兄にあなたを救ってほしいと言われました。私は兄を尊敬しています。そしてそんな兄が愛していたあなたも、私は尊敬しています。そしてあなたを悲しみから救いたいと思っています。」というと、冬のお姫様を抱きしめ、

「大丈夫です。兄はまだ生きています」

と驚いたことを言いました。姫は驚いてならい風の王子を見つめました。

「それは、本当なの?」

「はい。兄はまだ生きています。兄がそう言っていました。自分は毒の林檎を完全に食べきってはいないと。私は兄が死んだのをそのときは聞かされていませんでしたから、何のことかわからずただの夢だろうと思っていたのですが、この前 使者が兄の死を告げたのを聞いてあの夢は本当だったのだと思い、ここへ来ました。」

そう言ってならい風の王子は木枯らしの王子をガラスの棺桶から起こすと思いっきり背中を叩きました。そうすると王子の口から毒林檎の欠片が出てしました。


するとどうでしょう。木枯らしの王子は目を覚ましたではありませんか!姫は嬉しさの余り木枯らしの王子に飛びつきました。そして愛おしそうに髪をなでました。木枯らしの王子は

「弟よありがとう。君のおかげでこうして生き返ることが出来た。」と嬉しそうに言いました。そして姫に

「心配を掛けてすまない。君を悲しませてしまった。本当にすまない。ー君は、まだこの国と死にたいと思っているかい?」と言いました。冬のお姫様は涙でぐしゃぐしゃの顔を拭いて

「いいえ。あなたとなら、永遠に一緒にいたいと思っています。」と氷も溶かすかのような優しい微笑みを浮べました。


そして3人は揃って塔から出ると、ピタリと吹雪は止み、周りは暖かい空気に包まれました。


そしてならい風の王子が塔で冬のお姫様と話している間に、春のお姫様は罪の重さに耐えられなくなって、王様に全て打ち明けました。冬のお姫様をいじめていたこと、木枯らしの王子に惚れていたこと、そして冬のお姫様を殺そうとしたことー

王様は大変驚きましたが、自分の子供である春のお姫様をしっかり見つめると、

「人を殺したら、その罪を背負わなければならない。」と言って

春のお姫様に死刑を言い渡しました。春のお姫様は豊穣の王子との間に子供がいてその子は将来春を司るものになると言われていたため、もうじき春のお姫様はその任を解かれる時期でした。王様はその子が7歳になるまでは春のお姫様を生かすとしました。


そんな中 冬のお姫様が木枯らしの王子と共に塔から出てきたので、王様も春のお姫様も喜びました。そして国を挙げてのパーティーが開かれました。そこで冬のお姫様たちは春のお姫様が死刑に処されることが決まったことを聞きました。


そして春のお姫様の子供が7歳になったので、遂に春のお姫様はついにその時を迎えました。ガラスの棺桶に入れられて、塔の裏の冷たい湖に生きたまま沈める。これが春のお姫様に言い渡されたされた最期でした。


豊穣の王子は最後まで「春のお姫様を殺さないでくれ、もしどうしても死刑で毒の林檎を作って食べさせたのが罪なら、その林檎を作った私も同罪だ」と言いましたが、王様は認めませんでした。

そして何より、春のお姫様が認めなかったのです。生きていても良いとしても、取り返しのつかないことをしたから、と。


春のお姫様はまるで春が人になったかのように朗らかに笑っていました。豊穣の王子も、美しいだけだと思っていたけれど、私とともに死のうなんてなんて勇気のある優しい人なのだと死に際に気づくなんて私はなんて愚かなんでしょうーとそっと後悔を滲ませながらゆっくりと棺桶に入り、沈んでいきました。

それはとても美しい光景でした。


こうして無事に四季は回り、国の人も飢えずにすみました。またそれぞれの季節を司るお姫様たちは子を産み、その子達は新たな季節の司り手として育っていきました。次の季節の司り手より少し年上な春のお姫様の子供が、ほかの夏と秋と冬の司り手の面倒をみていてくれていました。


私たちはまた同じようなことが続かなければいいと祈るばかりです。




「私のお母さんはあの子のお母さんに殺された。どうして?お父様は「先に仕掛けたのはお母さんだけれど、結局死んだのはお母さんだけ。お母さんは悪くないんだよ。冬の人たちがお母さんを殺したのと同じだよ。」って言ってた。そしてあの子は私より綺麗。どうして?そして私の王子様よりあの子の王子様の方が美しくて優しくて素敵。どうして?こんなのおかしいわ。どうしてあの子の方があたしより上なの?私は春を司り、皆を幸せにするけれど、あの子は冬のお姫様だから飢えと寒さしかもたらさない。


そうだ、私の王子は大地の王子。あの子の一番好きな林檎を作って食べさせてしまえばー…」



白雪姫的な要素を少し散りばめてみました。

後味が童話にしては悪いかなと思いましたが、親世代がまた子の世代に受け継がれるのはちょっと胸アツかなと思ったのでやってしまいました。


最後までご覧頂きありがとうございました。

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