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キズナ世界の幸せ

作者: 幸奈 いたみ

私は今、祝福の拍手の中で複雑な気持ちだった。


もちろん、私に祝福の拍手ではない。私も拍手で祝福している1人。私の視線の先には長年、片想いだった人・・・。


その人の隣にはこれから人生を共にするパートナーがいる。

2人はみんなに祝福されて幸せそうだった。


結局、私はあの人の隣に立てなかった。今日、本当は来ることも迷った。でも、あの人の幼なじみで親友の私はお祝いをしないわけにはいかない。


私の心の中には複雑な感情が渦巻いていた。


他の幼なじみ達もあの人をお祝いしている。彼女達も私があの人の事を好きなのは知っている。


みんなはどう思っているんだろう?ここに自分が参加してることを


そんな事を考えながら、拍手をしているとあの人が目の前にパートナーを連れてくる。そして


「今日は来てくれてありがとう。楽しんでいって」


もちろん、自分だけに言ったのではなく私たちのテーブルには保育所の時の幼なじみが集まっている


私が通り道の近くに座っていただけだった。

ただ、手を伸ばせばすぐ目の前には届く距離にいる。


「おめでとう・・・。」


そんな祝福の言葉が嘘ではないのだが、心に刺さる。私は昔、一度だけ告白したことがある。ただ、今の現状の通りでフラれたのだった。


全ての始まりは、それはそれは幼い記憶。ただ、今も鮮明に覚えている出来事だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「こんにちは、始めまして今日からこの子と仲良くしてあげてね」


そう言うその子のお母さんの後ろには幼い日のあの人が。目があった瞬間、私は小さいながらも恋をした。それはもう、頭の先から雷を落とされたように思考は停止した。完全に硬直した私を見たお母さんが


「こら、ボーとしないでちゃんと挨拶しなさい。これから同じ保育所に通うんだから」


私はお母さんにうながされるまま、その子に深々と頭を下げる。


「はじめまして、よろしくね」


それを聞いたら緊張が溶けたみたいに笑顔になり、私のもとに走ってきて手を握り上下に振る。


「こちらこそよろしくね。これからずっとなかよくしてね」


もちろん、異性の手を握ったことはなかったので顔が真っ赤になっていたと、後でお母さんから言われたのであった。


それが、初めての衝撃だった。あれから、同級生の異性の手を

握ってみたものの、あの子と同じ衝撃はなかったのだ。


「それは君があの子のこと好きなんだと思うよ」


ボーとあの子を見てた時に不意に保育所の先生に言われたのだった。その時に初めての恋と知ったのだった。


それからは、見ていない時間の方が短いんじゃないのかと思うぐらい、あの子の事を目で追っていた。


その頃から他の同級生にからかわれ始めたが、そんな事は気にしたことはなかった。自分にとって他の同級生よりとても大切な存在だった。


保育所の時の一番の衝撃は夏のプールだった。基本的にプールといっても授業ではなく遊びの一環だったので各自、自由に水着は持ってくることになった。保育所なのでヒーローやヒロインのキャラクターが多い中、意中の相手のは紺色のシンプルな水着だったのだが、どの同級生の水着より目立っていた(私的に)


別に保育所の頃の水着なので、きわどいや派手という訳ではないのだけど・・・


「せんせー、のりちゃんがおはなから、あかいろの、はなみずでてますぅー」


私には刺激が強すぎたみたいで鼻血をだしてしまったのだ、今思い出すだけでも恥ずかしくて死にそうになる。


その後はそれはもちろんパニックだ。その声を聞いた意中の相手が私を心配して走ってきてくれる。


「のりちゃーん、だいじょうぶぅー?」


それに関しては嬉しい話なんだけど、鼻血の原因である相手が私に心配して走ってくる。遠くで見ているだけなのに鼻血を出すぐらいなのに、近くに来られたら・・・


「せんせー、のりちゃんがたおれたよー。うわーん」


結局その後、貧血なのか恥ずかしくてなのかはわからないが気を失うことになった。


それからは、プールの時にはあまり見ないようにした。なので、プールの時間の集合写真やみんなで撮っていた写真はどれも私だけが顔はひきつっている。


それから、小中高と同じ学校に通うことになっても関係は進展せず変わらず同じだった。私はこれからも変わらずこの関係のままで良いと思っていた・・・変わらないとさえ思っていた。


そんな高校の時に保育所の頃に転校していった、旧友のTと久しく再会したのだった。その人にまで


「あれ?あの人のこと好きなの?」


そんな事を言われるぐらい、あの人のことを思い続けていたのだった。流石に高校にもなると異性と話すことも少なくなっていたが、

私の幼馴染みたちは変わらず、今までみたいに多くはないが交流を続けていた。


そんな関係が続いていたので告白なんてしたら、みんなと関係が壊れるかもと思い、怖かった。正直なことを言うと、あの人に嫌われるのが耐えられないと思ったらから「好きです」を伝える勇気が私にはない。


だから自分を偽り、相手の幸せを願った・・・それが私の幸せだと。でも、神様はきっと私にもチャンスを与えてくれると信じていた。


それから高校の学生生活も卒業の季節が近づいた時に周りが急に慌ただしくなってきた。小中の卒業なんて、新しい友達が増えるだけであって別れなんて基本的に少ない。でも高校の卒業は別で、大学なんて色々な地方にあるし、専門学校や就職する子だっている。中には家業を継いだり、はたまた働かない人だっている。だから、時間を合わせてみんなでワイワイは限りなく少なくなる。だから、男子も女子もその会えなくなる事が嫌で、意中の人に思いを伝えたりする。


そんな空気がクラスを支配して、私もそれがきっかけになるかもと思い始めた頃。友人のTが私にいつになく真面目な顔で私に言ってきたのだった。


「わかってると思うけど、みんなの前で卒業の時に告白なんてしたら、今までの思いが無駄になるよ。卒業だからってそんな事をしたってD.C.みたいなことには絶対にならないよ」


「どうして?」


「今の状況は誰が誰を好きなのが知れ渡っている人に拍車をかけているだけで、ただ、みんなが楽しむイベントなんだ。1ヶ月とか1週間とかならいいと思うけど、んー好きの定義は人それぞれだし、それで、幸せになる人もいるから偏見かもしれないけど。今までの幼い頃から、思い続けてるのにこんな安いイベントみたいなのに乗っかるじゃなくて、邪魔の入らない場所で二人っきりでちゃんと話さなきゃダメだよ」


「そうかなぁ・・・。」


私はそれでもいいのかと思ってしまっていた。そういうのは既に告白のタイミングがあればいいけど、私にはないからこんな機会でも利用しないと・・・


「相手の立場になって考えてみなよ。こんな公開処刑みたいな事を望んではないでしょ?付き合う、付き合わないにしてもこれをすることによって気まずくなるかもしれない。そうなれば最悪、今までみたいな幼馴染みにすら戻れなくなるかもしれない。それは嫌だろう?」


「そ、そうだよね。」


「それに、本当の所は付き合いたいとかじゃないんだろう?」


「う・・・。」


私の心は揺らぎ初めていた。このタイミングじゃなくちゃんとあの人に自分の気持ちを伝えることを・・。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私はあの人がテーブルに挨拶に来て、違うテーブルに行くのを眺めながら、そんな昔話を思い出していた。


「ねえ、もう座ったら?テーブルの料理冷めちゃうよ?」


私は幼馴染みの女友達にそう言われてハッとする。向こうのテーブルではあの二人が自分達の幸せを伝えていた。


「・・・うん。そうだね、食べようか」


正直、食欲なんて出る訳もないが料理を小さく切り口に運ぶ。・・・美味しい料理なんだけど味を感じない。私はあの人の幸せを見ているだけで胸が苦しいのだ。


「え!?どうしたの?涙出てるよ!?」


私は無意識に涙が流れていた。それを指摘されるまで、気がつかなかった。私は精一杯の笑顔で返す。


「ああ、ごめん、ごめん。さっきのお肉一杯頬張ったら勢いよく、唇噛んじゃったんだ。ははードジだよね。ちょっとお手洗いに行ってくる。」


「・・・うん。気をつけてね。」


何か言いたそうな友人を横目に私は席を立ち披露宴を出る。会場の扉を閉めたとたん。涙が止まらなくなってきたので私は走ってトイレに駆け込む。それまでに何人もの人に声をかけられたが無視をして走る。


洗面所の鏡で自分の顔を見ると私は涙で顔がぐちゃぐちゃだった私はあの時にあの気持ちは無くなったと思っていた。でも、幸せそうなあの人の顔を見ると・・・すると、私の心で黒い何かが渦巻いてきた。


【ドウシテ・・・、何カノ間違イ。ソウ、間違イ・・・】


私は渦巻く嫉妬に対抗をする為に鏡に写る自分に怒鳴る。それは自身に言い聞かせる為に


「間違いなんかじゃない。今日はあの人を祝福するために来たんだ。」


そんなの私は認めない。私の幸せはあの人が幸せになること。


【何故アノ場所ニ、アノ人ノ隣ニ居ナイ・・・自分コソガ、アノ人ニ相応シイ・・・ナノニドウシテ】


「違う、そんな事ない。あの人のパートナーは素晴らしい人。だから、あの人の隣に相応しい」


【奪ウ・・今カラ幸セヲ取リ戻シニ・・】


ドンッ


私は鏡を叩きつけていた、流石に割れる事はなかったけど、私は私の卑しい気持ちに嫌気が支配してきた。鏡に背を向けて


「他の誰にも、もちろん自分だって、そんなことは許さない。あの人の幸せを見届ける。」


パンッ


私は頬を両手で叩き、気合いと不純な気持ちを払いのける。


「さーて、美味しい料理と幸せな笑顔を見て楽しむぞー」


そんなことを言いながら鏡に背を向けて会場に戻る。戻り道の途中に何処からともなく声がする


ーどうして、うそをつくの?なぜ、なみだをこらえるの?あなたにもしあわせになるけんりがあるのに・・・ー


消えそうな、悲しそうな声が聞こえてきた。私は気にせず、自分のテーブルに向かう為に会場の扉を開ける。そんな時、私が通るよりも先に何処からか現れた子供が私をすり抜けるように会場の中に走って行く。


それを横目に私が席に戻ると友人のスピーチの真っ最中だった。隣の席の幼馴染みが小声で


「遅いよー、もう少しで私達だから準備してね」


そう、私達も余興でスピーチをする予定なのだ。幼馴染みがみんな集まって歌をプレゼントするのだ


自分達の2つ前が終わったので私達みんなが立ち上がり、舞台の袖に準備をする。


ようやく、私達の番が来て舞台に上がり歌う準備をする。伴奏が流れ出しメロディが会場を包み込む。その曲は定番の結婚式ソング、相手の幸せを祈る歌。その曲を私達の友人で親友の幼馴染みの人に送る。


私もみんなと一緒に幸せを祈り、精一杯歌う。幼馴染みと相手の人は私達の歌とともに自分達の後ろで流れているスライドを見ている。すると新郎、新婦の壇上に子供の姿を見かける。


どこかの子供が悪さをして新郎、新婦のところに忍び込んだのかと思った、会場のみんなはスライドに釘付けだし、新郎、新婦は感極まって涙を流している。その子に気が付いてるのは私だけだったのもしれない。


私はその子供に小さく手を動かし降りるように促す。暗くてはっきり顔は見えないが3~4才ぐらいだろうと思う。


その子も私の指示に気が付いたのか、私の方を見る。ただ、首を横にふる。


私は降りるように促すが聞く気はないみたいだ。そして、挙げ句に新婦の肩に触れそうなところで私に指を指す。


私はヒヤヒヤしながら歌ってたのだが、そこの子は私に指を指しながら首を横にふる。私に指を?ん?いや、違うかもしれない。その子が指差す先を見ると私ではなく私の後ろのスライドに向けられていた。


私は歌いながらその方向を見ると、そこには・・・


高校生活最後にクラスのみんなと全員で撮った写真が写し出されていた。


ズキッ


この写真の後、私は幼馴染みに始めて自分の気持ちを伝え・・・。


ズキッン


私は歌うのを止めてしまった。違う、歌えなくなってしまった。スライドからもう一度子供を見ると何かを私に言っている。歌も流れているし子供の声なんて届くはずもない。


けど、あの子が言ってる事が何故か解る。口の動きでわかったんじゃない。あの子の気持ちが私に流れてきたのだ


ーどうして、どうしてなの。こんなにすきなのにー


私はその写真をもう一度見る。いつも、写真を撮る時は隣で写すことが多かった。むしろ、私が側に行ってたんだけど・・・


この時だけは違った、直前まで告白する気はなかったんだけど、自然と距離をとっていた。


自分の気持ちがバレるかもと思っていたんだと、今ならわかる気がする


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


卒業式当日、その日の朝から何故かソワソワしていた。そんな状態で2階の自分の部屋からリビングに降りると珍しくお母さんが準備していた。私は


「お、珍しく早いじゃん。今日、どしたの?」


「あんたねぇ。自分の子供の卒業式に起きてこない親ってどうなのよ」


「だって基本 、起きてこないじゃん」


お母さんは焦った顔をして


「いつもはほら、眠たいから。ね?」


「・・・じー。」


「そ、そんなことより。あんたこそ、珍しいじゃん。ほら、服装。」


私は自分の服装を見ると、大変な事になっていた。パジャマと制服が混ざりあって、何とも不思議な服装だった。


「・・・あ。」


それを見たお母さんはニヤリとして


「あんたも珍しいね、心ここにあらず?そうだよねー。あの子と卒業して別れる何て考えただけでも平常心じゃ、いられらいわねー」


ちなみにお母さんも私の好きな人を知っている。言ったことはないけど理解しているらしい。ちなみに友人のTの母親までもが私の好きな人を知ってると友人のTが言っていたそうだ。


私は慌てて部屋に上がり着替えを済ます。その時にガラスに映る私を見る。今日はあいにく、天気は悪く雲っているのでガラスが鏡のように自分の姿を写す。


普段は鏡なんて見ずに髪型をささっと済ますのだが、ガラスに映る私を見て。机のなかに置いてある長年使用していない櫛を取りだし自分の髪に通す。すると、視線を感じる。廊下を見るとお母さんがニヤニヤしながらこっちを見ている。


「・・・・・何かな?」


私の精一杯の冷静な対応。それを聞いたお母さんは


「そんなんで、してないで櫛もスプレーも用意してるから、お母さんの化粧台でしなさいよ。今日はしっかり決めて行きなさい・・・ぷぷ。」


もう、赤面どころじゃないぐらい顔が真っ赤になっていた。ただ、


「・・・しかたないなぁ。今日だけは借りようかな」


私はお母さんに促されて鏡の前に立つ。そして普段はあまり使わない香料のスプレーを使い身なりを着飾る。


「行ってきます。」


いつもより時間をかけて準備をして家を出る。少し遅れてお母さんが出て来て


「いってらっしゃい。高校生活、最後なんだから目一杯楽しんできなさい。でも、思い出としてずっと残るから、後悔になるようなことはしないようにね」


「はーい」




今、思えばこうなる事を予言してたのかもしれない。でも今更、過去は変えれない。



何気ない通学路だが、今年は卒業式に合わせたように桜が満開だった。


「これで晴れていたらもっとよかったんだけどなぁ」


曇ってるのもあるが少し気温が肌寒く、上着とマフラーがないと底冷えしそうだった。下にもスパッツを履き、対策はバッチリ。私の高校の体育館は風通しが良すぎるので、夏は快適なのだが、冬は風邪をひくぐらい寒い。


同級生とすれ違い、挨拶をして教室向かう。こんなことももう終わりと思うと少し寂しくなる。


教室の扉を開けると、普段遅刻ギリギリのクラスメイトも今日は早く来て準備をしている。その後、自然と目線はあの人を探す。すると、今日は私の入ってき扉の近くで友達と話していたみたいで直ぐに目が合う


「あ、のり。おはよう。今日で卒業だね」


久しぶりの朝の挨拶をかわす。卒業するのでもちろん今日で何気ない挨拶も最後なので何だか涙が込み上げてきたがグッと我慢していつも通りに普通に答える。


「おはよ。そうだね、何か寂しいよね。」


そんな短いけど幸せな時間をしっかり思い出に刻み自分の席に座る。


そして先生が教室に入ってきて、式の大まかな説明をする。大体は卒業式の練習をしてあるので大丈夫らしいが、一応らしい。


その後、式が始まり問題なく進む。その後に起きた事が印象に強くて卒業式の内容はあまり覚えていない。


卒業式が終わり、みんなで教室に戻る。泣いてる子や思い出を話してる子など様々だった。最後に先生から挨拶があり、最後の号令が上がる


「起立、礼。」


「「「「ありがとうございましたっ」」」」


みんなが記念に写真を撮るとのことで、みんなで集まって写真を撮る。それが後にスライドショーに流れたらあの写真。


写真を撮り終えるといつものムードメーカーのクラスの男の子がみんなの前の立って


「さて、この中で最後に気持ちを伝えたい人が居るそうです」


ドキッ


すると、私の隣にいた男の子がみんなの前に立って


「○○さん!前から好きでした。付き合ってください。」


「ごめんなさい。」


そんなやり取りが2~3人続いた。私は出来るだけ大人しく、目立たないようにしていた。何故かと言うと、私があの人の事が好きなのは


"クラスのみんなが知ってる"。


先ほどの流れが続いていたのだが中には付き合うことになった人もいた。そして・・・


「お前も行けよ」


クラスメイトの1人が私を前につき出す。するとクラス中がテンションが上がる。みんなからするとこれ程の見せ物はなかったのであろう。


私は友人のTの忠告もあったのでこの場では告白する気はなかった。学校の後でこっそり告白する予定だった。桜の木の下で


だが、みんなに押し出されてみんなの中心に出ることになった。周囲を見ればみんなは期待の目で私を見ている。


ーこんな感じで言いたくないー


私の気持ちとは裏腹にみんなの"さあ、言え"と言わんばかりにみんなが私に期待をしてザワザワしている。私の告白の相手もみんなは知ってるので注目されていて困った顔をしている。


ー違う、こんな・・・こんなところで告白する気なんてないー


もちろん、後でしても先にしてもあの人の答えは知っている。たぶん断られる。だから、だからこそ、あの人を困らせたくない。その為に覚悟までしてきた。なのに・・・どうしてこうなるんだろう・・・


こんな、こんなのってあまりに酷い。結局は自己満足の告白なんだ。だから、二人っきりなら笑って誤魔化せばなかったことになる。

何もなかった事のように振る舞える。気持ちは今までも隠してきたから、これからだって隠し通せる。


だけど・・・みんなが私を私の告白を待っている。それは期待じゃない、その目は楽しんでいる。


信じた・・信じていた。もちろん、思いが実るとまで信じていたわけじゃない。けど、自分のタイミング、自分の気持ちを伝えることを願った。なのに・・・どうして私がこんなことに。


ー「〜二人でちゃんと話さなきゃダメだよ」ー


友人のTの忠告をもっと言い聞かせていれば、前に押し出される時に踏みとどまれたのかもしれない。だが、もう遅いのだみんなは私の言葉を告白を期待している。


言おう、みんなに私は告白しないって。


「・・・こ・・・」


少しの沈黙。自分には長い時間に感じた。身体は冷や汗で温度を奪われ、精神はみんなの視線で擦り切れるような感覚。もう、立っているのがやっとだった。


みんなが、私を見つめる視線は物語を読んでもらっている子供のように楽しそうだった。


ーああ、逃げることも許されない。たった1つ願った事も許されない。現実は時に残酷だったー


「・・・あなたの事がずっと好きでした。これまでもこれからも・・・だから・・・」


「「「おおおおー」」」


全てを言い終わる前にクラス中から喚声が上がる。みんなが待ち望んだ言葉で私は望んでなかった言葉。


私は顔を上げて思い人に顔を向ける。みんなも注目している。その顔は・・・悲しそうな顔だった。


私は絶望を知った・・・私の思い人が私の言葉で注目に曝され、黙ってはいるがみんなの視線は返事を強要している。私はそれを見て涙が溢れてきた。


私の・・私がしたことによって相手に飛び火がおこる。それを知った私は駆け出した。置いてあった自分の鞄も持たずに、教室の扉を開ける。


返事は聞いていない、聞きたくなかった。それよりも今まで見たことのないような悲しそうなあの人の表情だった。


胸は強い勢いで締め付けられる。もう、心臓が潰れるんじゃないかと思うぐらい。私が走り出したことにより、クラス中から声がかかるが私は聞きたくなかった。それどころか一刻も早くこの場所から逃げたかった。


扉を開けるとそこには私に真剣に忠告した友人のTが立っていた。クラスが違うので待っていてくれたのだ。


ただ・・顔向けが出来ない。私はとっさに距離をおき、側をすり抜け走る。


「おい、ちょっと待てって」


彼が私の腕を掴む。もちろん彼には悪気はない。卒業式の後にみんなで帰ろうと言ったのは私だ。ただ、私はその掴まれた腕を振り払い、階段まで走る。


だが、彼が階段の踊り場で再び私の腕を掴む。


「ちょっと待てって、どうしたのさ」


そこで、彼と目が合う。私は涙が溢れて止まらなくなっていた。私の顔を見た彼は全てを察したように私の腕を離す。


ただ、緩められた手の力を感じた瞬間に全てを知られて理解されたと私は思った。まるで心の中を覗かれた感覚。恥ずかしかったのもあるし、こんな顔でこんな心境でみんなと騒いだりできないので、その手を振り払い学校を背に泣きながら帰った。


後日、彼に聞いたところ、その瞬間に意図しない告白をしたんだろうと思ったと言われた。


家に帰る途中も枯れることのない滝のように涙が止まらない。あの人と何十年一緒にいたが、1度も見たことない顔を高校生活最後に見るとも思わなかった。


その時の私は早いけど人生の終わりを感じていた。その後も未練があるって友人から言われ続けたけど、笑って隠していた。結局、忘れることも出来ずに初めて恋人が出来たのが20歳になってからだった・・・。


その後も家に帰り、誰とも会話せずに自分の部屋に閉じ籠り、夜まで泣き続けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ズキンッ


スライドを見ると心の奥底が痛む。かつて、感じた心の痛み。あまりの痛みに私は手を胸にあてる。


スライドが切り替わり次の相手の人と出会ったころの写真に切り替わる。時間にして数十秒だった。ただ私には長い時間をさまよったのように感じた。


二人の思い出をとなったので新郎、新婦にスポットライトが当たる。その時始めて、その子供の顔を見ることになる


・・・そうだったんだ。


その子供はあの人に出会ったばかりの幼き日の私。そしてあの人と一緒にいたい、結婚したいと決意したあの日、あの頃の私。


そして、この結婚にまだ納得してない私のもう1つの心の具現化した存在。


私は子供に・・いや、私に気持ちを伝える。言葉じゃなくても小さな私には伝わる。


ーごめんね。思いは必ず実るとは限らないよ。でも、今でも忘れたくても好きなのは変わらない。好きだからこそ、私は幸せを祈れるんだよ。もちろん、実って欲しかったのもあるけど、その後の約束があるから私はここにいて、近くで幸せを願えるんだよー


ーそのあとのやくそく?なにそれ?そのやくそくでしあわせになれるの?ー


幼い私は私を見て首を傾げる。


ーそれはね・・・ー


泣き続けてた私に最後のチャンスが訪れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夜になると自分の携帯が鳴り、メールを確認する。幼馴染みの子からで夜に幼馴染みだけでご飯を食べようとのことだった。


無理には大丈夫だよと親切に文が付け加えられていたのだが、私はあの人は来るのかと確認する。


参加するとの事らしい。私は頭からかぶっていた布団を払い、

立ち上がる。


ちゃんと、もう一度告白して返事を聞こう。それがどんな結果でも、もう一度あの人に聞いてほしい。


顔の頬を平手で叩き気合いを入れる。さあ、やり直し、始めての告白で初恋なのにぐちゃぐちゃのまま終わるのが嫌に決まってる。


直ぐに準備をする。部屋は帰って来てそのままで、卒業証書とかも転がっていたけど気にせず準備をする。


バタバタと階段を降りていったら、お母さんとばったり会う。お母さんは深く聞くことはなく


「みんなとご飯に行くんでしょ?暗いから気をつけてね」


その顔は心配しているようだった。だから・・・


「大丈夫。でも、ちゃんとしてくる。」


それだけ言ったら。お母さんは少し笑顔になって見送ってくれた。


まあ、皆さまの想像通りで、行く途中で8回ぐらい無視されるんじゃないかと思い、足が重くなったし。3回ぐらい腰が引けて、引き返してみたり。10回ぐらいもう一度気持ちを伝えようと思ってるのに緊張で気持ち悪くなったり。矛盾との戦いだった。


そんな自問自答を繰り返して待ち合わせの場所に到着。すでにみんなが到着していたみたいでみんなに呼ばれる。


もちろんあの人も・・・


緊張の一瞬だった。


「遅れてごめん。」


すると、みんなは笑って迎えてくれた。その中の私の思い人も


「のり、遅いよー。お腹すいて死にそうだよ」


そんな感じで笑顔で迎えてくれる。よかったのかと言われれば微妙だけど、ちゃんと接してくれる。まあ、元々無視するような人ではないけどギクシャクするのは嫌だった。


そしてみんなで乾杯をする。ちなみに補足すると、ここは居酒屋じゃなくて、幼馴染みの1人の家で、みんな未成年なので乾杯もコーラ。


そして、みんなでワイワイして懐かしい話も混ぜながら、高校生活最後の思い出をみんなで共有した。


そしていつもみたいに、みんなで雑魚寝をする。みんな家が近所なので一旦帰る子などがいた私はそれに合わせてこっそり呼び出したのだ。


その場所は月と星が夜道を照らし桜の木々が風で揺らぎ、桜の花びらが空を舞っていた。


「ごめんね。急に呼び出して」


「どうしたの?」


「まず、先に謝らないといけなくて・・・ごめん。」


私は深々と頭を下げる。


それを見たら、わかったみたいで


「うん。びっくりしたよ。でも大丈夫だよ」


「そうだよね。けど、困らせる気はなかったんだ。ごめん。」


その時、強い風が吹き上がり桜の花びらが舞い上がる。その光景は幻想的で夢のようだった。


「綺麗だね。」


そう言うと私の思い人は空を見上げる。その姿はキラキラしていてドキッとしてしまう。


思いは結ばれる事はないけど、告白をもう一度やり直そうと決意してきた。けど、決意が揺らぐ・・・


「あの・・・」



・・・でも、嫌だ。自分の言葉で自分のタイミングで自分の思いを自分が伝えるんだ。


「・・・聞いてほしい事がある」


私の真剣な顔を見た私の思い人は何かを察したのか私を見つめるその瞳は澄んでいて綺麗だった。私はとっさに目を逸らしそうになったがグッと堪えて向き合う。


「・・・。」


私の言葉を、想いを聞いてくれる。ようやく、伝えられる。それに相手の瞳に自分が写る、それは刹那の瞬間かもしれないし、もう2度とこんな事はないかもしれない。それならばこんなに嬉しいことはない。泣きそうになるけど、こんな所で泣いたら台無しになってしまう。


深く、深く、深呼吸をして息を整え、気持ちを集めて言葉を紡ぐ。


「・・・好きです。始めて会ったときから、今まで1度もあなたの事を考えなかった日は無かったです。この先、どんなことがあっても好きなのは変わりません。この気持ちを伝えたかったです。」


少し、沈黙が辺りを包む。不快なものではなくとても心地よい。


「ありがとう、とても嬉しい。でも、ごめんなさい。その気持ちには答えられない」


その言葉を聞いても涙は出なかった。ちゃんと向き合って私に答えてくれる。もちろん結果は残念かもしれない。でもようやく、気持ちを聞いてもらった。こんな幸せなことはない。でも、私はまだ伝えたいことはある。


「そっか・・うん。後、1ついいかな?聞いてほしい事がある・・・お願いがあります。」


「ん?何かな?」


保険と言えば姑息な言い方かもしれないでも・・・。


「それは・・・これからもあなたの幸せを近くで願わせてください。これからも友人の1人、幼馴染みの友達でいてほしい・・です。」


幸せにできなくても、ずっと一緒にいれなくても構わない。でも、これまで通りこれからも楽しいことは一緒に笑いたいし、みんなでワイワイしたかった。


「フラれて未練がましいかもしれない。でも、変わらず友人の1人でいさせてくれると嬉しいな」


その言葉を聞いた相手の顔はとても優しそうな顔で


「もちろんだよ。こっちからもお願いします。これからもずっと幼馴染みでいてください。」


私達はお互いの手をとり、握手をする。友情の握手である。


その後の話だけど、お互いに好きな人が出来て結婚する事になったらお互いにお祝いをしようとも約束を交わした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーだから、幸せだよ。本当ならここにもいないと思うし、まあ来るのは迷ったけど。今までも変わらず交流もできた。だから・・・ー


それを聞いた子供の私は泣きそうな顔をして


ーそんなのうそだ!いっしょにいれないのにしあわせだなんて、まちがってる!いやだ、そんなのしあわせなんかじゃないっー


それはもう、号泣に近いぐらいに子供の私は泣き続けていた。幸せで泣いている新郎、新婦の二人の後ろで幸せになれなかった私が泣いている。


その子の悲しみは私の本心なのかな・・・


ーさあ、こっちにおいでー


私は子供の私を呼び寄せる。だが首を大きく横に振り、私の呼び掛けを断る


ーそう、なら仕方ないよね。そこでずっと泣いてたらいいよ。式は途中だけど先に帰るー


ーえっ!?なんで!なんでかえるの?ー


子供の私は驚きこちらを見る。


ーあなたが拒否するなら、自分があの人の幸せを望んでないって事だから・・・。だったら約束は守れてない。だから、ここにいれない。居ちゃいけないー


ーいやだ、いかないで。ひとりにしないでー


私はもう一度、子供の私を招き入れる。


ーあの人の悲しい顔がみたい?その後、嫌われるよ?そうなれば今後、一生会えないよ?それが嫌なら、一緒にこっちで幸せをお祝いをしよう。そしてこれからもあの人の幸せを近くで祈ろうー


ーう、うん。ー


理解はした、でも未練が全部無くなったわけではない。でも、子供の私に正直な気持ちが伝わったみたいで、トボトボこちらに来て


ーあなたは、それでもいいの?あなたがかなしむみらいはいやだよ?ぼくはあなたで、あなたはほかのだれより、ぼくはあなたがたいせつでしあわせになってほしいんだよ?ー


ーありがとう。他の人には理解できないかもしれないけど、これが幸せなだよ。他の人は笑うかもしれない、でもこれでいいんだよ。だから、他でもない、君には・・君だけでも味方でいてほしいなー


ーうん、わかった。あなたがそれをのぞむなら、いつまでもあなたのみかただよー


私の元に来た子供の私をそっと抱き締める。すると光の粒子となり、私のなかに入ってくる。そして歌が終わり、みんなでお辞儀をする。


拍手が会場を包み私達は自分達の席に戻る。新郎、新婦は感極まって涙を流してくれている。


私はようやく、自分の気持ちに整理をつけてこれからのスタートを決意する。式も終盤に差し掛かり、自由な時間になりみんなが写真を撮ったり、料理を食べてたりしていた。


「ねえ、折角だしみんなで写真撮ろうよ。新郎、新婦とも一緒に」


幼馴染みの1人が立ち上がり、みんなに促す。


「そうだね。みんなで行こうか」


その提案で今日の主役の所にみんなで向かう。親族などに挨拶をしていて忙しそうだったのだが、私達に気がつきこちらに来てくれる。


「みんな、本当にありがとう。一生の思い出になるよ。」


そして、私と目が合い。


「そう言えば、歌ってる最中に私の後ろを見てなかった?」


私の思い人が私に問いかける。私は笑顔で


「大したことじゃないって言うと違うけど、貴女と旦那さんの幸せな家庭が見えたんだ。知ってた?結婚式でそう言う未来が見える事があるんだって。それにそれが他の人に見えると幸せになれるんだって」


「えーすごいじゃーん。いいなぁー」


伝えた本人もそうだが他の幼馴染みも驚いてる。もちろん、嘘だけど・・・見えていたのは私の未練や悲しみ・・・。


すると、彼女が私に微笑みかけて


「ありがとう、嬉しい。そんなの言ってくれるのはのりだけだよ。だから、絶対に幸せになってね。のりなら良い奥さんと出会えるよ。」


何だか複雑な気分だったが、私を心配してくれているだけで嬉しかった。


「ありがとう。もしかしたら僕が君より完璧に主夫してるかもしれないし。そもそも、料理の勉強しないと旦那さん飢え死にしちゃうよ」


「ひどーい。ちゃんとがんばるよ。」


幼馴染みがみんなで大爆笑だった。私の幼馴染みの家庭的なスキルは皆無なのはみんなが知ってるから。


「そうだよねー。料理、洗濯、掃除ほとんどできないもんね」


幼馴染みの女の子がからかう。


「これから頑張るもん。」


みんなは再び大笑いだった。ちなみに私が料理や掃除の家事全般ができるのも幼馴染みができないのを知ってたからであるとは口が裂けても言えない。だから、私は笑顔で


「じゃあ、今度みんなで晩御飯をご馳走にいこうか」


それを聞いた幼馴染み達は「ナイスアイデアー」と口々に言っていた。私はそれを横目に新婦の幼馴染みに近寄り声をかける。


「結婚おめでとう。必ず幸せになってね」


「うん、色々頑張る。ありがとう。」


笑顔で握手をかわす。相手の幸せを祈って


ーウソツキー


さっき、消えたはずの子供の私の声が聞こえる。


まだ、完全に諦めきれてないのが解る。でも、しかたないと思う。だって、好きだったんだし。気持ちの整理したって忘れはしないし未練は残る。でも、彼女を一途に好きでいたことが良い思い出であったと思える未来を信じて歩き続ける。


世界は時に残酷かもしれない、でも幸せな未来が来ることを願って彼女に決意を告げる。


「僕も幸せになるよ」


END

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