機械帝国 5
おれたちはダッシュで廊下を進んでいった。
廊下の先で、またしてもロボットと鉢合わせる。なんてついてない。こんな大群をいちいち相手にしていたら、日が暮れちまう。
袋小路にだけは気をつけて、おれたちは逃げた。内部の状況はだいたい把握している。どう回り込めば、出し抜けるのかも。
上手く誘導に成功し、なんとか連絡通路にまでたどり着けた。ここを越えれば、この世界のボス、機械王に謁見できるってわけだ。
「この量を倒すのか……」
連絡通路には、先ほどの比ではない量のロボットがいた。鍵乃と顔を見合わせ、地面を蹴った。
的確に相手の弱点を射撃し、相手のレーザーをかいくぐる。鍵乃も容赦なく連射していた。
部屋が見えてきた。このまま、突っ切る――ッ!
扉を蹴り開け、王の間に転がり込んだ。立ち上がりざまに銃を構える。
前の世界で魔王が座っていた場所に、誰かが座っていた。一瞬そこに、人間が座っているように見えた。けど違う。姿は人間のようではあるが、明らかに人間じゃなかった。
人の皮を被った、機械だ。
「誰ダおまえハ」
「おまえの悪夢だ」
「……フッ、ヨク来たナ」
王の声は、とても異質なものだった。耳にするだけで不快な、気持ち悪い声だ。
それにしても……ロボットはどこにも見当たらないな。二対一なら勝てるはずだ。
「おまえを倒せば、機械は停止するんだろ」
「ソレは、どうカナ」
「どういう意味だよ」
「言葉ドオリの意味さ」
そう言って、目の前の王は停止した。今攻撃すれば、勝てるのか?
次の瞬間。
「我々ハ、こういうコトもできるのダヨ」
「……へえ、そうかよ」
いつの間にか背後に現れたロボットから、先ほどまでの声が聞こえてきていた。機械同士のネットワークだからこそ成せる芸当なんだろう。
「修弥、後ろ……ッ!」
「嘘、だろ……」
一斉に、ロボットたちが現れた。いったいどこからだ。パニックに陥り、状況判断が遅れた。気がついた時には、すでに無意味に敵に囲まれていた。
「これ、全部倒せばいいんだよね……」
「そうなるな。けど、この数、なんとかできるか?」
「えへへっ。任せてくれていいよ」
機関銃を掲げ、鍵乃は笑った。その間にも、際限なくロボットは増え続けている。本当に任せていいのか?
「私を信じて」
「――分かった。任せたぜ」
おれは鍵乃を信じる。それに、王さえ倒せば終わりだ。この手で終わらせてやる。
その場を鍵乃に任せ、自分の道を開き、王と対峙する。
「おまえだけは逃がさねえ」
「貴様らハ、何故戦う。痛みニ耐えてマデ、戦う意味がアルのか?」
「なに言ってんだ。おれたちは痛みに耐えてるんじゃない。痛みは背負うもんだ。痛みを感じないおまえらが、その重みを語るな」
おれは王の声を発したロボットを破壊した。しかし、また別のところから声が聞こえてくる。すぐに倒してしまいたいのに、ネットワークのせいで倒せない。
「分からないナ。我々のデータには、ソウイッタ情報がナイ。人間は、言語ヤ道具を用イタリ、感情ヲ表すダケの種族デハないノカ」
「おまえらのデータで、人間を値踏みすんな。おれたちは、一人ひとり違う。今からそれを、データに加えとけ」
人間に作られた機械のくせに、人間とともに生きてきたくせに、そんなことも分からないのかよ。
「確かニ、貴様ラは個体にヨッテ違うようダナ。だが、貴様ハ特に違うヨウに感ジル」
「当たり前だ。おれはな――」
この世界に流れ着いただけの漂流者だ。けど、おれには目的がある。こんなところで、負けてたまるか。
「――おれはな、そこら辺の人間よりも、諦めが少しばかり悪いんだよ」
「イイダロウ。我々も、オモシロイものを見せてヤル」
奥にある画面に、人間の姿が映し出された。王が邪魔で、顔が見えない。なんとか見ようとしたら、画面が切り替わった。
「んな……」
画面に映し出されていたのは、夕夏だった。縄で縛られた夕夏は怯え、泣き叫び、じたばたと暴れまわっていた。夕夏が危ない。けど、いったい夕夏をどうする気だ。
人影が映りこんだ途端、画面は暗転する。
と、画面の手前にある装置から人が現れ、こちらに向かってきた。その男の姿を見て、おれは目を見開いた。
「鑑、永真……ッ!」
やつは夕夏を縛っている縄を引っ張り、ごみのように投げ捨てやがった。
「夕夏!」
「貴様ノ大事な家族なのダロウ?」
「おまえら……許さねえ」
夕夏は気絶させられているらしく、ぴくりとも動かなかった。約束したのに、すぐに助けられなくてごめん。でも、今すぐ助けてやるからな。
永真は銃を握っていた。こいつとも戦わなくちゃいけないということか。
気になるのは、永真の風貌だった。やつは、現実世界と同じく、不良のような容姿をしていた。髪を染め、ピアスをしている。眉毛もなかった。
おれは銃を握り駆ける。永真は冷徹な視線をこちらに向けたままだ。そのまま無策に近づくのはためらわれた。前の世界でも、こいつには苦戦させられたんだ。
永真はこちらに銃口を向ける。永真が使っているのは、モスバーグM500をカスタムしたもののようだ。
こちらに向かって飛来してきたのは、一発の銃弾。否、羽がついた弾丸だった。そのことに気を取られ、おれは左腕に食らってしまった。
直後、身体に電撃が走る――!
くそっ、今になって思い出した。あれは――テイザー銃、WREPだ。
テイザー銃とは、ワイヤレスススタンガンのことだ。スタンガンといえば、日本ではハンディータイプのほうが馴染み深いが、米国の警察ではこちらが広く使用されている。
電極の針が身体に刺さり、本体からぶら下がっている導線と刺さった針を接極地として電流が流れる仕組みとなっている。
まさかそんなものまで出てくるなんて。瑞貴だって、一度しか話してくれなかったぞ。
テイザー銃に殺傷性はない。けど、もともとはポンプアクション式散弾銃。実弾だって込められるはずだ。おれはスタンガンのせいでまだ自由に動けなかった。
「修弥!」
永真のいるところに鍵乃は連射した。永真はそれをかわしていた。よくかわせるな、あんなの。テイザー銃は射程が短いため、鍵乃のいる位置まで届かない。だから鍵乃は躊躇なく連射する。
だけど、もう動けるぞ。だいたい二〇秒というところだな。おれは鍵乃に合図を送り、こちらへの射撃をやめてもらう。
本来なら射程距離外から攻撃すべきなんだろう。だが、敵とはいえ、機械ではない人間を撃つというのは、おれにはためらわれた。
それは、甘えなのだろうか。殺す覚悟もないままに銃を握ったこと自体、間違ってたのだろうか。
分からない。けど、今は戦うしかない。自分の信じるやり方で、この場を乗り切るしかないんだ。
床を蹴り、永真に近づく。永真は射出したが、それじゃ当たらない。魔法が使えなくたって、それなりのスピードはあるんだから。三〇メートルくらいなら余裕だ。
おれは銃を頭に撃つと見せかけて、それを投げ捨てた。腹ががら空きだぜ。慌てる永真の鳩尾を殴り、銃の銃身をつかんで奪い取る。そのままストックでやつの頭を殴った。
永真はそのまま倒れ、気絶した。殺さずに終わらせてやったぞ。
「おミごと」
王は拍手音と「ピンポーン」と間延びした音をスピーカーから発した。それがまた、イラつかせる。なにがめでたいんだよ。
「やはり、貴様ハ面白い力ヲ持ってイルようダナ」
「面白くなんかねえよ。次はお前の番だ、覚悟しろ」




