その気持ちの答えを探して
…
彼は彼女のことを想う。
いつしか見た彼女の姿を。
触れてみたいと思い、そしてなお離れて愛でたいと思う二律相反した思いに葛藤する思いで彼は揺れる。
彼はまだ若く「恋」というものを知らなかった。
小説などによく出て来る王子様と王女様の愛している姿は彼にとっては理想像なのかもしれなかったが、その反面どこか脆く輝きが失われていくもののような気がした。
その頃の彼にとっては絵本のような関係こそが恋愛があると信じて疑わなかった。
綺麗な関係であるからこそ人は人を愛するのだと。
だが一方で果たしてそれが恋と呼べる代物だろうか、という疑いを拭いさることができなかった。
自分が考えているのは空想の産物にしか過ぎずただのまやかしにしか過ぎないのかもしれないと思うことさえあった。本当は醜いもので人を傷つけ、幸せになることなんてないものではないか。
彼はそんな思いを抱えながらも人の生を受けた以上恋をしたいと欲した。
まだ見ぬものに期待を馳せながら彼は考え続けた。
いつかはそのような感情を失ってしまうのだろうかと自分のまだ見ぬ将来のことを案じ、それでも彼はそのような一瞬の輝きのあるものに憧れた。
要するに彼はまだ幼かったのだ。
肉体的には大人であっても精神的にはまだまだ大人へと脱皮する前のこどもだった。
想いが彼にとって足枷になっていることを彼は知らなかった。
想いが強くなればなるほど彼には心に傷を負い、傷が自分を蝕み侵食していることを彼は気づかなかった。
指にガラスが刺さったときに血が流れ始めるように彼の心にも傷から血が流れていた。
最初は血の量は少なかったが次第にその血の流れは増していった。
彼はときにその血を舐め自分のやっていることの無意味さについて考えずにはいられなかった。
だが彼はそれも恋するが故に負う傷だと思い耐えきろうとしていた。
恋すれば必ず傷を負うものだと考え彼は愚直に行動してきた。人が行動するには対価がつきものだし、慈自分が欲しいものを手に入れるには体に傷や痣がつくのは当然だと。
自分に嘘をつきたくないという信念のもとに彼は傷を受け入れ前を向こうとする。
前を向けば手を伸ばせると信じていたから。
それはまるで荒野で自分だけが頼りで自分だけを信じる一匹狼を連想させた。
彼の悲痛ともいえるその叫びは誰にも届きはせず虚空に消えていった。
…
彼は大人になった。
精神的にも社会的には大人と言えるようになった。
彼は少年のときに抱いた想いは胸の奥にそっと仕舞った。
もう遊ばなくなった玩具を物置の中になおしこむように自分が抱いた想いを中にいれてそっと扉を閉める。
それでもー
彼は思い出せずにはいられなかった。
あのとき自分が追い求めていた彼女の姿を。
彼女が自分ともう同じ道を歩くことなどないということが分かっても。
彼女の姿を二度と目にすることなどないとしても。
ようやく彼は『恋』について理解する。
ああーー
……
……これが……
初恋だったんだ……。
彼は子供だった彼が手を必死に伸ばそうとして蜃気楼のように消えていったものを知る。
涙が目頭から一滴一滴流れていくのを抑えきれなかった。




