森の案内人
夜な夜な狐火の出る森がある。その森のことを周囲の人間は“狐火の森”と呼んで酷く怖がり、昔から近づかないようにしていたそうだ。
しかし、その森は狐火だけが恐ろしいと言う訳ではない。
森の入り口には“森の大提灯”と、言うものが吊されている。
数十年前から森の入り口に目印として吊されていたものだが、年季が入っているせいなのか、狐火の妖気にあてられて化け提灯になってしまっていたのだった……。
「やあやあやあやあやあやあやあやあやあやあ!チョロQ火ちゃんじゃないですかぁ!今日は独り?……え?聞きたいことがあるぅ~?それはそれは!ここは一つ提灯の知識を披露しなきゃいけないなぁ!」
静かだった森の入り口に、ひときわ大きな声が響く。
そこには、うなだれたような形の木に吊されている大提灯があった。
よく見ると子狐が一匹大提灯を見上げている。
「案内人さん…。おらぁ、人間を一度脅かしてみたいんだが、どうすればいいんだろう……?化けるのはそこそこ出来るけど父ちゃんには人間に近づくなと言われてんだ。人間ってのはそんなに危険なの……?」
大提灯は子狐の不安そうな目を見ると、ぱっくりと開いた口を三日月形にして笑い出した。
「ひははははははははっ!!いやぁ、人間は臆病者さ。ここらの人間はみんな青い炎を畏れてる。お前んとこの青いのが暴れたせいでここに近づこうともしないんだ。人間はそこまで怖がる必要は無い!まあ、例外はあるが……。この森の中は安全さ。」
大提灯はゆらゆらと自分を揺らして子狐を見る。
「しかし、人間ってのは俺ら以上に薄気味悪くて仕方ない!生白い顔や手足に鉛の粉を擦り付けてやがるんだ。しかも自分の利益の為だけに仲間同士殺し合って笑ってやがる。嘘は吐くし、金には貪欲だし、物を大切にしないっ!!腐った獣達だよ人間ってのは!」
子狐は急に怒気を孕んだ声にビクッとなって大提灯を恐る恐る見上げる。
「人間ってのはそんなに気味が悪いものなのかい…?おらが脅かす前にこっちが驚かされるとこだったよ……。」
と、子狐は大きな欠伸をかみ殺しながら大提灯を見上げた。
それを見た大提灯は自分の舌に灯をともし、ギロギロと目玉を回して子狐を見下ろした。
「まだ夜は長いよ?チョロQ火ちゃんはそろそろおねんねかい?!人間の話は腐るほどあるんだ。知ってる限りしゃべりつくしてやるよっ!!」
そう言った大提灯とは裏腹に子狐は正直かなり眠かったのだが、眠気より好奇心が勝り、うんっ!と頷いてしまっていた。
「まずは俺がまだ人間のとこにいた時の話から話すぞ!その昔、とある大提灯があってな……。」
このあと、大提灯の話は二日に渡り、二日間家に帰らなかった子狐は好奇心で物事を判断してはいけないと、親狐二匹に怒鳴られながら、もうあの大提灯には人間の話を聞かないと、固く誓ったのだった……。




