狐火の親子
月が爛々と輝いている晩のことだ。
人が寝静まる頃、森の奥に月明かりに照らされてぽっかりと丸く開けた場所に二つの炎が怪しく煌めいていた。
一つは見てるだけで凍てついてしまいそうなほど青白い炎、もう一つは明々と今にも燃え上がってしまいそうなほど紅い火玉である。
時折、紅い火玉がぴょんぴょん跳ねているのは何かを抗議しているようだった。
「とーちゃんや、とーちゃんや。おらぁ人間って奴を一度脅かしてみたいんだい!」
「ダメダメ、お前にゃまだ荷が重い。あともう少し巧く化けねばなるまいよ。」
「大丈夫、大丈夫。ちゃーんと鬼火に化けることができているじゃあないか!」
紅い火玉は自信有り気にぴょんぴょんとあちらこちらを行ったり来たりして、子供が駄々をこねるように転がりながら火の粉をまき散らしている。
見ると転がっている火玉から、もふもふとさわり心地のよさそうな尻尾が見え隠れしている
親狐はやれやれと、呆れたように青白い炎を左右に振ると、前脚を出して、ぴょんぴょんと転がっている子狐の尻尾を踏んづけた。
紅い火玉はたまらず、ふぎゅっ!と、小さな悲鳴を上げ、子狐は怨めしそうに親狐を見上げ
「……とーちゃん、なにすんだよ!せっかく巧く化けていたのに。」
「尻尾が見えていたよ。それと巧く化けるだけじゃあダメなんだ。化け続けないと、とっ捕まっちまう。今みたいに踏まれただけで正体現しちまうくらいなんだから、お前はまだまだ修行が足りんってことよ。」
「じゃあ巧く化け続けるコツって奴を教えてくれよ!それさえわかれば巧く化けてやらぁ!」
子狐は、青白い炎から伸びた足にもふもふ尻尾を踏まれながらも一生懸命に抜け出そうと、足をばたつかせてはいるが親狐はもふもふ踏んで逃がそうとはしない。
端から見るとかなりシュールだが、本人達、特に親狐はかなりご満悦のようだ。
「コツってやつは自分でつかまないと巧くはならんよ。誰もが自分だけのやり方ってのがあるからな。まあ、おまえは化けてる時は尻尾を隠せ。分かったかい?」
「むぅ、わかったよ。」
子狐はまだ何か言いたそうだったが、しぶしぶ頷いた。
親狐は、ドロン!と、狐の姿に戻ると、辺りに誰もいないかを確認してから一言。帰るぞ、と言った。
子狐は、帰るのならせめて尻尾から足をどかしてほしいと親狐を怨めしそうに眺めていた。




