静江は結婚して生活し60歳になる前に山一証券を辞めた。そして専業主婦となった。
50代なかば、静江の長女の綾は就職し、結婚もしていた。独立した姉に代わり次女は早稲田大学の文学部に通っていた。
そんな折、親戚の佐々木家から静江に縁談の話がもってこられる。あなたももういい歳だから、再婚を考えたらどうかと。お相手は遠い親戚にあたる独身の男性である。
何でも浅草に何代も伝わる縄屋の息子とのこと。その歳は静江より7つ上。60代前半である。妻子はおらず独身。仕事は縄屋ではなく、東洋経済新聞社に勤めているという。
どうするか迷ったあげた挙句、静江は会ってみることに。その男の名前を若松新吉という。新吉は東洋経済新聞者で働く前は松坂屋に勤めており、紳士服、絵画などの催しものを企画していたことあるインテリだった。
独身だったこともあり、オメガの時計をし、シャーロックホームズの様なパイプを吸いながら、カシミアのコートを着るおしゃれであり、江戸っ子気質の男だった。
静江はそういう点にはあまり気にしていなかった。性格がそれほど悪くない人、借金をしていない人、お金がそれなりにあり、家を持っている人が良かったと言う。
今でしてみれば、財産目的かもしれないが、財産も重要な判断基準なのだろう。逆に若松新吉は子どもがいることが条件だった。家族が欲しかったのだ。一人で老後を過ごすことを考えるとさびしくなっていたのであろう。
そんな二人は結婚をすることを考え始める。そこで娘達は大反対する。
理由は当然ながら突然、知らない人が父となることへの不安。それと長女は結婚して姓が変わっているが、若松のたっての希望で次女は姓を若松に変更してほしい、つまり戸籍を変えてほしいというのだ。
それは、今まで友人から呼ばれていた姓が急に違う姓に変わる。何のために、それは若松新吉が子どもが欲しい、家を継いでほしいとのことである。
しかし、次女は女であり、いつかは嫁にいくのだ。その一時的に戸籍を移動することは財産目的としか周りからは思われず、自分がいやしい人のようにも思え、母さえそれを後押しする際にあんたに財産が残るのだからという静江の言葉をえらく嫌った。
しかも、それが原因で後の結婚も破談になるのだから、この時の戸籍を変えたことが実際に影響したことは間違いない。
つまり、若松新吉、静江は結婚した。そして、次女、みきは若松姓を名乗ることとなる。
それからが新しい静江の人生の始まりである。新吉、静江、みきの3人の同居生活がはじまる。父親とは呼べない娘との間にいる静江。それでも進む。
私の人生を生きるため。
次女みきはその後10年は父と呼んだことはなく、あのなどとぼかしていた。
それは次女の結婚、子どもの出産にて変わる。
静江は結婚して生活し60歳になる前に山一証券を辞めた。そして専業主婦となった。