中小企業の男の話
成績の悪い男のチョット変ったお話です
田所信二(仮)は営業成績が極端に低い営業マンだ。彼の勤める会社は云わずと知れた中小いや零細企業と云っても過言ではない。それなのに、彼等零細企業の
営業成績はダイレクトにその親会社・大企業の成績に反映されると云う摩訶不思議な形態を取っている。…なので今、田所(仮)の元に大企業の担当者が
遣って来ていたのであった。
「ねぇ!貴方聞いてますの?貴方が真面目にお仕事なさらないと、担当である
ワ・タ・シが困るんです。まったくどう云う神経なさってるんですか?」
「そうだぜぇ!俺ッチもアンタの成績如何でコッチの仕事量が決まるんだ。
先月に続いて今月までノルマ達成出来なかったら、俺ッチが上司に怒鳴られる
じゃゃないか!この責任一体どう取るつもりだ!」
「いや~雅か大企業からお2人が来られるなんて、夢の様です。良かったら
サイン頂けますか?」
「「冗談言う暇あったら営業しろ!」」
田所(仮)の営業不振は前代未聞の数字らしい。本人も驚愕する事に発展していた。田所(仮)を問い詰める2人は大企業の担当者だが、実は2人はライバル
会社の社員である。つまり零細企業である田所(仮)の会社は売り上げを
2社に振り分けているのだ。それは三社合同会議で取り決めた事だから契約違反でも無く至極全うな話ではあるが、まさか大企業から同時に担当者が訪れるとは露にも思わない珍事な事であった。
「あの~お2人は当然エリート御方ですよね?」
「当たり前じゃないですか。私は天界の蓮の花で朝日が昇ると同時に生まれ
ましたの。その後も順風満帆。ホラ!この通り、羽根の色と頭の光の輪が
他の方々より、少し虹色掛かってる見えるでしょ。自慢なのよ」
「俺だってそうだ!孵化するまで、煮え滾る血の池地獄で暖められたのは、
近年数える位しか居無いんだ。頭の角もそのお蔭で良い黒光りで
絶妙な曲がり方をしてるんだぜぇ。こう見えて…結構モテルしな」
「やはりそうでしたか!いや~お目に掛かった時から、お2人は違うな~って
感じてたんですが、正真正銘エリートなんですね。初めて天使様と悪魔様を
お見掛けしました。…っで、ですね、私の方はと云いますと、チビ・デブ・禿
・オヤジの四重奏でしょ!」
「おぉ!俺ッチ最初にアンタ見た時に思ったんだよ。あ~あれ!?
なんだっけかな…そうそう!『オッサン!』地球とかの星にある小さな島の
住人で確か『オッサン』って人種が居るけど、アンタそっくりだよな!」
「ア~!私知ってますわ。一度、天界ネットで見た事が在ります。そうそう!
云われてみれば、貴方!確かにその『オッサン』に瓜二つですね」
「ええ、多分お2人が指す『オッサン』は正しく私の事でしょう。
もうお判りと思いますが、私は元は人間なんです。特に取り得も無く何の自慢
も無いままに育ち、結婚し子供も生まれました。小さな会社でアクセクと
一生懸命働きました…でもね、ある日、ある日突然ですよ!身も知らぬ男に
行き成りナイフで刺されて一環の終わりですわ。生涯たったの40数年
短い一生でしたわ。残した妻や子供が心配で限界ギリギリ49日間地上に
居りました。するとどうでしょう。私の死を悲しむどころか妻と子供は降りた
保険で悠々自適な生活を始めたかと思えば、アっと言う間に2人は別々ですわ。
あぁ~私の人生は何だったんでしょうね~」
自分の人生を振り返り嘆くや否や田所(仮)はその場で泣き崩れてしまう。其れを見たエリートの天使と悪魔は揃って彼を慰めた。
「嫌々オッサン。だからアンタは一日でも早く転生出来る様にって、今の仕事
『死神』に選ばれたんじゃないか!折角チャンスを得たのに仕事の成績が
悪けりゃ~いつまで経っても転生できないぜぇ」
「そ~ですよ!貴方みたいにコネも何も無い人魂が死神に成れた事事態が新たな
転機じゃ無いですか!ご自分からそのチャンスを棒に振る様な真似をしては
チャンスを下さった『天』に申し訳がないと思わないのですか?」
「ええ。それは重々承知してます。ですが…お2人もご存知でしょ!この星、
この町の住人は、皆私と似た境遇だ。其れも幼い子達は何の夢を見る事すら
なく死んで…あ~ホラ!また一つ魂が登っていく…」
男が話すのを途中で止め指差す方向には小さくて清らかな魂が天に昇っていく。
其れを別の担当である死神が優しく導いて行った
(あぁ~このオッサンが真面目に働けばアレは私の成績に繋がったのに…
オッサンを宥める天使が呟く)
「…っね」
「な、何が!っね!ですか。ア・貴方がしっかり仕事をすれば、貴方が可哀想
だと思うあの魂を迷わず導けるでわないですか!彷徨える魂の為にもキチンと
仕事しましょうよ」
「…ですが…ホラ!見て下さい。アンナに欲深な魂が人生を全うし終えて行く
のですよアンナのを見ながら私に導けと云うのですか」
オッサンは、他人に散々酷い事をしながらも人生を謳歌し登っていく魂を
恨めしそうに眺めている。その間に他の死神が荒縄で捉え荒々しく地獄へ
連行する様をオッサンを宥める悪魔が指を銜えて涎を流していた
(あぁ~美味しそうな魂だな。アレって結構点数高そうだ。このオッサンが
真面目に仕事してたら、俺の成績になってたのになぁ~)
「おいオッサン!アンタはアンナ魂を憎い!罰を与えたい!って思うんだろ!
だったら!しっかりと死神の仕事を果しなよ。そうすれば、散々悪事を働いた
魂は間違いなく地獄行きになるじゃないか!アンタの気も少しは晴れるって
もんだろ!ッナ。悪い事は言わねぇ~よ真面目にコツコツ死神の仕事しなよ」
「…そうなんですかね…エリートのお二方の話を聞いていたら…何だか私…
少しヤル気が出ました。清い心には愛を持って。汚れた魂には怒りと鞭で
導くのが…死神の仕事なんですかね!?」
「そうだぜぇ」「そうよ!」
1人の悪魔と1人の天使によって、天地創造以来嘗て無いほど営業不振の死神は
その後、己の過ちに気付き心を入れ替え仕事に精進した。
後に歴史に名を刻む死神がこんな形で生まれた事を誰も知らない。
中小企業の男の話 完
楽しんで頂けましたでしょうか