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小夜物語、a such a short tales in the long nights   第35話    『魔法の薬箱』

作者: 舜風人

昭和30年だった。


私が幼い頃、この村には医者なんてありませんでした。

何しろ開墾地ですから、今でも開墾地には医者はありませんが、

5キロ歩いてローカル線の無人駅に行きそこから電車に乗って、街まで行かなければ病院なんてありません、


さてそういうわけで、開墾地では、病気になっても原則何もしません、

ただ寝てるだけです。あるいは鶏卵を食べたり民間療法などや薬草を山から取ってきて飲んだりします。

たとえば腹痛にはゲンノショウコ、などといった具合です。


ところで昭和35年ごろになるとさすがに経済も向上してきて、

この開墾地でも置き薬を置く家が増えてきました。


置き薬とは、富山から薬売人さんが行李をしょって、春・秋2度来るのです、

そして箱入りの薬のセットを置いていくのです。


そして使った分だけその次に来たときに支払うという仕組みなのです。

医者もなければ薬局なんて遠い町に一軒だけという開墾地ではそれは重宝されました。

そして、それはまさに文明のかおりの魔法の箱だったのです。


私の家でも母の決断で置き薬を置くことにしたのです。


その実物がなんと今もまだ、押し入れの奥にほこりをかぶって現存していました。


懐かしくて、、取り出して開けてみると、、


何と、、当時の薬もそのままに入っているんですよ。


取り出して調べてみると、、


なにやら怪しげな?薬もあって、、


薬箱には当時の明細書も入っていてたとえば、、、、


こんな薬が入っていますね。、


万病感応丸

救命丸

シンネツ風薬

サントニン虫下し

清涼丹

神薬

マーキロ赤チンキ

ケロゲン

ミローン

ズバリ

ペニシリン軟膏

鯉肝丸

トクホン

目薬

赤玉はら薬

セキドメ

実母散

ユイツ

ケロリン

ノーヤク

六神丸

あんま膏

朝日万金膏

仁丹

正露丸


などなど、、、、、



どうでしょ?

これらの中には今でも存在する薬もありますよね。



これらの丸薬や水薬はガラスの小瓶に入っていますし、、


粉薬は、、、硫酸紙で折りたたんで五角形にくるんであるのです、



その昔の

子供の頃、医者に行くと

看護婦が薬の大びんから、はかりで計って粉薬を薬皿に取り、

それを定量に小分けして、10センチ四方の白紙に分けて、、

五角形にくるんで渡してくれましたよね。

、、、、、あれですね。



それから

怪我をすれば赤チンキで指を真っ赤に塗ってもらい、

年に一度はサントニンで虫下し。

あの頃は皆、腹には回虫を持ってましたからね。

赤ちゃんは救命丸を、頭が痛ければケロリンで、


で、当時の清算書もそのままに入っていました。


それによると、トンプク1包35円

セキドメ2包70円、

合計105円支払っていますね。

日付は昭和35年7月2日になっています。


この富山の薬売りは、背中に大きな柳こおりを大風呂敷にくるんで背負い

春・秋、それぞれ一回やって来るのですね。


来るとおまけに紙風船をくれたものです。

四角の薄紙の紙風船。

息を穴から吹き込んでは、膨らませて遊んだものでしたね。

それも薬箱に入って残っていました。


あと、髪留めというかピンもおまけにくれました、さび付いた

それも薬箱の中にありました、。


あと、謎のガラス瓶高さ2センチ直径5ミリの円筒形。

これは救命丸ですね

あと水滴型?の高さ3センチくらいの扁平な小ガラス瓶がありました。

これは中身が入っていませんが恐らく仁丹でしょうか。


こういうまさに「魔法の箱」ですから、当時の小学生だった私にとって興味深深です。

父母の目を盗んでは、、あけてみては薬を眺めていたものです。

見つかれば、、勿論母にしかられますね。

片田舎ではこれはまさにこの薬箱は、大げさに言えば、、文明のともし火だったといえましょうか。


さて、これらの薬の中で私にとって今だに神秘的で謎なのが

「神薬」です。この薬箱の中にも残ってますが中身は空っぽです。


これは今でも売っているそうですが?

まずそのネーミングに魅了されました。

神様の薬なのですよ。

神の薬ってすごいと単純に思いましたね。


効能は胃痛、食あたり、船車の酔い、暑気あたり、胸つかえ、めまい、気付、そっとう、痰、咳とあり、

まさに万能薬?


当時、、私はこっそり開けてみました。

するとなんというのでしょうか、

ぷーんと、えもいわれぬ芳香が立ち上ったのです。

気持ちをトリコにするような香り。


後年、ETAホフマンのゴシック小説『悪魔の霊薬」を読んだとき

メダルドウスが霊薬のふたを開けて、芳香に酔いしれるという場面で『これだ!』と思いましたね。


ちなみに神薬は濃いブルーのガラス瓶高さ5センチくらいのに入った舐め薬ですよ。

水あめ状の薬です。添付の小匙で掬って舐めるのです。


この芳香は今、成分表を見ると、芳香チンキと書いてあるのでそれでしょうか。

このにおいだけでも気分がすっきりします。

調べてみたらクロロホルム?のようですね。

その他、生薬も色々入っているようです。


これのトリコになった私は腹が痛いとか、うそを言っては母に

神薬を飲ましてもらいました。


添付のさじで舐めるのです。

とろりとした甘いそしてピリッとした刺激、そしてあの霊妙な芳香です。

こんなすばらしい薬はないと思いましたね。

頭が痛いといっては神薬。

暑気あたりしたといっては神薬、、、、。


あっという間にカラにしてしまったのでした。

むかーしの懐かしい思い出の一コマです。



さて、、、

今、こうして私は、街中に住み医者もいくらでも近くにあるし大きな薬局もある。

でも、なんかこの魔法の薬箱が無性に懐かしいのです。

で、、

現代の配置薬業者のHPを見てみましたがさすがに「神薬」はなかったですね。



で、、神薬と検索すると、


ああ、、今でもあるんですね。


これって


当時と同じ味


同じ芳香でしょうか?


まあ今更、さすがに、購入してまで確かめようとは思いませんが、、


それにしても懐かしい薬箱です。


ああそれにしても、、


少年時代というのは、、たとえれば


郷愁と

ほろにがさのないまぜになったような

悔悛と心情の一杯集まった玉手箱、、、


そう


今はもうないような不思議な薬瓶の詰まった



この薬箱のようなものなのかもしれない。











追記


ネットで調べたところ

昔の神薬には鎮痛成分として


モルヒネやクロロホルムが入っていたそうですが


今現在の


神薬にはもちろんこういう成分は入っていません。




神薬のあの得も言われぬ不思議な霊妙な芳香は


リュウノウ(ボルネオール)だそうです。









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