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ゆたかの怪奇列島第六章「正義のかたち」  作者: こうた


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第5話「味方の崩壊」

昼。


現場は再開されている。


クレーンは動き、機械音が響く。


“いつも通り”。


だが——


何もかもが違う。


「……空気、最悪やな」


ななが小さく言う。


ゆたかも頷く。


「ああ」


視線。


明確な“敵意”。


作業員たちが、距離を取っている。


近づかない。


話しかけない。


ただ——


見ている。


「……あいつら」


ななが舌打ちする。


「完全にこっち疑っとる」


神父が静かに言う。


「情報が固定されました」


一拍。


「“鬼に関わる危険人物”として」


ゆたかがため息をつく。


「はやいな……」


昨日まで、普通だった関係。


それが、一晩で変わる。


これが——


“正義の力”。


そのとき。


現場の奥で、ざわめき。


「来たぞ……」


誰かが言う。


一斉に視線が動く。


その先。


歩いてくる。


ゆっくりと。


迷いなく。


桃太郎


昨日と同じ姿。


だが——


“距離”がある。


見えない壁。


桃太郎は、ゆたかたちの前で止まる。


一瞬の沈黙。


そして——


「少し、話せますか」


穏やかな声。


敵意はない。


だが、温度もない。


ゆたかは肩をすくめる。


「もう話とるやろ」


桃太郎は小さく頷く。


「ええ」


一拍。


「ですが、整理が必要です」


ななが眉をひそめる。


「整理?」


桃太郎は続ける。


「あなた方は、鬼を擁護しています」


ストレート。


周囲がざわつく。


「やっぱりな……」


「危ない連中や」


ゆたかが言う。


「擁護やない」


一拍。


「人やって言うとるだけや」


桃太郎は静かに聞く。


否定しない。


だが——


「その判断は危険です」


きっぱりと言う。


「鬼は、人ではありません」


ななが強く言う。


「決めつけやろ、それ」


桃太郎は少しだけ目を細める。


「決めつけではありません」


一拍。


「経験則です」


空気が固まる。


ゆたかが聞く。


「経験?」


桃太郎は頷く。


「私は——」


少しだけ間を置く。


「鬼に、大切なものを奪われました」


沈黙。


初めての“過去”。


ななが小さく言う。


「……誰や」


桃太郎は答える。


「育ての親です」


空気が、変わる。


重くなる。


「厳しい人でした」


「正しくあれと、常に言われていた」


一拍。


「その人を——鬼が殺した」


静かな声。


だが、確かな感情。


ゆたかは、黙る。


ななも、何も言えない。


桃太郎は続ける。


「だから私は、迷いません」


一拍。


「同じことを、繰り返させないために」


その言葉。


“正義の根”が見える。


だが——


ななが、ゆっくり言う。


「それ……」


一拍。


「ほんまに“鬼”やったんか」


空気が凍る。


一瞬。


完全な静止。


桃太郎の目が、大きく揺れる。


今までで一番。


「……どういう意味ですか」


低い声。


ななは、逃げない。


「見たん?」


「ちゃんと」


沈黙。


長い沈黙。


桃太郎は——


答えない。


その代わりに。


ゆっくりと、言う。


「それでも」


一拍。


「私は、正しい選択をします」


逃げた。


答えから。


ゆたかが、確信する。


(こいつ……)


(知らんままや)


そのとき。


後ろから声。


「もうええやろ」


作業員の一人が言う。


「危ないって分かっとるんや」


別の声。


「現場から外れてくれ」


空気が完全に変わる。


排除。


ゆたかたちが“外”にされる。


ななが苦笑する。


「はやいなぁ」


神父が静かに言う。


「社会的に切り離されました」


一拍。


「これ以上は、現場にいられません」


ゆたかは周囲を見る。


誰も味方がいない。


視線だけが突き刺さる。


だが——


その中で、一人。


ほんの一瞬だけ。


目を逸らした作業員がいる。


完全ではない。


まだ——


“揺れている”。


ゆたかは、小さく笑う。


「まだ終わってへんな」


ななが頷く。


「ああ」


「むしろ、ここからや」


桃太郎は、それを見ている。


何も言わない。


ただ——


ほんのわずかに。


迷いを残したまま。


立っている。


その背後。


遠くの山。


影が、また一歩、近づく。


今度は——


“形”が見え始めている。


■ 第6章 第5話 終

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