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ゆたかの怪奇列島第六章「正義のかたち」  作者: こうた


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第4話「正義の揺らぎ」

風が戻る。

さっきまで止まっていた空気が、ゆっくりと動き出す。

だが——

誰も動けない。

桃太郎の刀は、下ろされたまま。

目の前には、“鬼”。

まだ、消えていない。

息をしている。

確かに——“生きている”。

ゆたかは静かに言う。

「……終わってへんで」

桃太郎は答えない。

ただ、その鬼を見ている。

初めて。

“判断せずに”見ている。

その時間。

わずか数秒。

だが——

長い。

鬼が、震えながら言う。

「……殺すんか」

声は弱い。

恐怖で、崩れそうな声。

桃太郎の指が、わずかに動く。

刀にかかる力。

だが——

止まる。

ななが小さく言う。

「……変わったな」

ゆたかも頷く。

「ああ」

「やっと“見とる”」

そのとき——

空気が、変わる。

一気に。

冷たくなる。

背筋が凍る。

「……来たで」

たぬきが低く言う。

ゆたかが周囲を見る。

違和感。

“さっきと同じ空気”ではない。

もっと——

整っている。

不自然なほどに。

その正体。

神父が呟く。

「……観測されています」

一拍。

「誰かが、見ている」

その瞬間。

空に、影。

小さく。

だが確実に動いている。

「……あれ」

ななが指差す。

上空。

何かが旋回している。

鳥。

いや——違う。

“見ているもの”。

「……キジか」

ゆたかが呟く。

桃太郎が、空を見上げる。

その目。

迷いはない。

ただ——

“確認”している。

次の瞬間。

地上。

足音。

速い。

一直線に近づく。

「っ!」

ゆたかが構える。

影が飛び出す。

人影。

低い姿勢。

速い。

一瞬で距離を詰める。

「排除する」

短い声。

犬。

忠誠の象徴。

ゆたかに向かって、一直線に突っ込む。

「来るで!!」

ゆたかが迎え撃つ。

衝突。

重い。

予想以上に重い。

「ぐっ……!」

押される。

ななが叫ぶ。

「速い!!」

犬は迷わない。

一切の無駄がない。

ただ、“命令通り”動く。

そのとき。

別の声。

冷静な声。

「対象、異常認識者」

横から。

猿が現れる。

タブレットを操作している。

「社会的リスク高」

一拍。

「排除優先度、上昇」

空気が変わる。

周囲の作業員たちが、一斉にゆたかを見る。

さっきまでの視線とは違う。

“敵を見る目”。

ななが舌打ちする。

「最悪やな」

「空気まで使ってきよる」

神父が低く言う。

「情報が操作されています」

一拍。

「“正義”として」

ゆたかは歯を食いしばる。

(これが……)

(仕組みか)

そのとき。

鬼が、後ずさる。

恐怖。

完全に追い詰められている。

桃太郎が、その姿を見る。

静かに。

じっと。

その目に——

初めて、“迷い”が宿る。

ほんの少し。

だが確かに。

「……」

口が、開く。

だが言葉が出ない。

その瞬間。

猿が言う。

「桃太郎」

冷静に。

「判断を」

一拍。

「遅延はリスクです」

犬も止まらない。

ゆたかを押し続ける。

「排除する」

繰り返す。

同じ言葉を。

その中で——

ななが叫ぶ。

「お前はどうしたいんや!!」

その声。

真っ直ぐに、桃太郎へ。

空気が止まる。

全員が、一瞬だけ動きを止める。

桃太郎の目が、大きく揺れる。

初めて。

完全に。

「……私は」

声が、わずかに震える。

一拍。

「私は——」

言葉が出ない。

決められない。

その姿。

完璧だった“正義”が——

初めて崩れる。

その瞬間。

空の影が、強く動く。

キジが旋回する。

速く。

何かを伝えるように。

猿が、即座に反応する。

「判断不能状態」

冷たい声。

「代行する」

空気が一気に冷える。

「対象——全て排除」

その瞬間。

犬の力がさらに強くなる。

ゆたかが押し込まれる。

「くっ……!」

ななが叫ぶ。

「最悪のパターンや!!」

神父が言う。

「正義が“自動化”されました」

つまり——

桃太郎が迷った瞬間。

“システムが動く”

ゆたかが叫ぶ。

「桃太郎!!」

「お前が決めろや!!」

声が響く。

強く。

真っ直ぐに。

桃太郎の目が、揺れる。

大きく。

だが——

まだ、決められない。

その背後。

遠くの山。

再び、影が揺れる。

今度は、少しだけはっきりと。

巨大な輪郭。

重い存在感。

誰も見ていない。

だが——

確実に、近づいている。

■ 第6章 第4話 終

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