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ゆたかの怪奇列島第六章「正義のかたち」  作者: こうた


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第3話「正義の構造」

現場は、静まり返っていた。

風が止んでいる。

音も、少ない。

だが——

“圧”だけが残っている。

「……来る」

ななが低く言う。

その瞬間。

空気が歪む。

視界の端。

影が“増えた”。

1つではない。

複数。

形が定まらない何か。

「……これ、何や」

ゆたかが構える。

神父が祈りを始める。

そのとき。

桃太郎が一歩前へ出る。

静かに。

まるで、最初からここに来ることが決まっていたように。

「ここから先は——」

刀を抜く。

「処理対象です」

その瞬間。

影が一斉に動く。

襲いかかる。

だが——

速い。

桃太郎の動きが、さらに速い。

一閃。

二閃。

無駄がない。

完全な軌道。

影は、次々に消えていく。

歓声はない。

ただ、事実として処理される。

ゆたかは、その動きを見ていた。

(強い)

(けど……)

違和感がある。

影が消えた瞬間。

“苦しみ”がない。

抵抗もない。

ただ消える。

「……おかしいな」

ゆたかが呟く。

ななが頷く。

「感じるよな」

「“終わらせられてる”だけや」

その言葉。

核心に触れる。

そのとき——

新しい影。

一つだけ、違う。

大きい。

人型。

だが、歪んでいる。

苦しみ。

怒り。

恐怖。

全部が混ざっている。

「……来るで」

ゆたかが前に出る。

その瞬間。

影が叫ぶ。

「やめろォォォォ!!」

声が、現実に響く。

空気が震える。

一瞬、全員が動きを止める。

桃太郎も。

影は続ける。

「俺は……何もしてへん!!」

「ただ……生きとっただけや!!」

沈黙。

ゆたかは、刀を構えたまま止まる。

桃太郎は——

その言葉を聞いている。

だが、動かない。

影が叫ぶ。

「なんでや……」

「なんで俺らは“悪”なんや……」

空気が変わる。

周囲が、ざわつく。

「……なんやこれ」

「人間の声ちゃうんか……」

桃太郎の目が、わずかに揺れる。

だが——

次の瞬間。

その揺れは消える。

「……判断は変わりません」

静かな声。

「存在そのものが、危険です」

その言葉。

決定打。

影が震える。

「それが……」

「“正義”なんか……」

桃太郎は、答えない。

ただ、刀を構える。

ゆたかが叫ぶ。

「待てや!!」

その声に——

桃太郎が止まる。

一瞬。

だが、止まった。

ゆたかは言う。

「それ」

「“お前の正義”やろ」

沈黙。

「でもな」

一歩前へ。

「それ、押し付けとるだけや」

空気が張り詰める。

ななが続ける。

「守るんやろ?」

「なら——」

「選ばせろや」

その言葉。

桃太郎の中で、何かが揺れる。

ほんの一瞬。

だが確かに。

影が、その瞬間を逃さない。

「俺は……」

「ただ生きたいだけや!!」

叫び。

感情の爆発。

桃太郎の目が、わずかに見開かれる。

次の瞬間。

刀が——

止まる。

ゆたかも、動かない。

静寂。

完全な沈黙。

桃太郎は——

刀を、ゆっくり下ろす。

初めて。

「……」

言葉が出ない。

その姿を見て——

ゆたかは確信する。

(こいつ)

(“正しい”んちゃう)

(“信じてる”だけや)

そのとき。

遠くの山。

影が、揺れる。

誰も気づかない。

だが——

確実に。

「……始まるな」

ななが呟く。

たぬきが低く笑う。

「せやな」

「正義の“構造”が見えたんや」

一拍。

「ほな次は」

「“崩す側”の番や」

ゆたかは、前を見る。

桃太郎もまた、前を見る。

その視線は——

初めて、同じ方向を向いていた。

■ 第6章 第3話 終

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